◆概略
最近、京都の八坂神社が、5月25日から夜間は鈴を鳴らせないように「鈴緒」(すずお)の紐の部分を夕方には柱にくくりつけるという処置を行いました。以前から、観光客が鈴を乱暴に鳴らし、時には鈴が落ちるような事があったからだと言います。
この措置とは直接関係が無いと八坂神社側は言いますが、その直前に、京都在住のツアー会社「One Kyoto Tours」の経営者兼ガイドのイギリス人男性Joshua Lee Sherlock(ジョシュア・リー・シャーロック)氏の率いるツアーに遭遇したある日本女性が、八坂神社で乱暴に鈴を鳴らしていた(らしい)ツアー客を見とがめて注意しました。
「らしい」というのは、その部分の動画は無く、途中から口論になっている動画で推測されるのみだからです。
この動画はその女性によって「X」で拡散されました。
これに対して、「One Kyoto Gallery」を名乗るXのアカウントが、その動画を添付したポストに対して、動画を消さないと法的処置を執ると脅す(?)ようなリプライ(コメント)を付けました。
これが火に油を注いだような状態となり、①One Kyoto ToursとOne Kyoto Galleryはどうやら同一法人である事、②それは日本に8年間住んでいると自称するイギリス人男性とその日本人妻が経営しているらしい事、③件(くだん)のイギリス人男性は通訳案内士の登録はしていないらしい(=資格を持っていない)事などが指摘され、炎上しました。
これがSNS炎上事件の概略です。
背景には、オーバーツーリズムで、京都の住民の方が生活を脅かされたり、傍若無人な外国人観光客にうんざりしている事があるでしょう。
◆日本にいながら、「英語が話せますか?」?
詳細は後述しますが、投稿された動画は、投稿主ご本人曰く、多勢に無勢の状態だったので途中から記録の為にスマホで録画したそうで、客の一人が「もうやめろ」と撮影者の女性に向かって言っているシーンから始まります。つまり、それ以前にガイドを含むツアー客と女性との間にやりとりがあった事を想像させます。
「警察を呼べ」という客もいたので、(ツアー客の視点では)やりとりまたは日本人女性の抗議に辟易していた様子です。
ここでガイド氏が英語で「日本語を話せますか?」と言います。それを聞いた日本人女性はやや ”キレた” 様子で、その質問は差別だと言い始めます。
想像ですが、同じ日本人として、この発言は「英語でやり合おうじゃないか」という挑発にも感じ、日本人女性にしてみてたら「日本にいながら、なんで相手のペース(英語)にこっちが合わせなくてはならないのだ?」と、カチンとくるのは想像ができます。
◆ガイド氏が名誉毀損裁判を示唆?
記事は省きますが、『デイリー新潮』のメールでの取材に対し、ツアー会社は、
「ご連絡いただきありがとうございます。せっかくご連絡いただきましたが、今現在警察、弁護士に相談、名誉毀損等で訴訟の準備をしていますので、現時点でお話しする事は遠慮させていただきたいと思います。京都はオーバーツーリズム問題を抱えており、一定数の反対派が存在し、中には外国人に対して異常な嫌悪感、度を超える行動に出る人たちがいるようです」
と、この件を ”外国人嫌悪” の問題に矮小化(?)して、提訴する趣旨の発言をしました。
これはブログ主の想像ですが、裁判を示唆する事で、これ以上の動画の拡散を防ぎたいのでは無いかと思います。(動画にはガイド氏のみならず、ツアー客の顔も写っている為、その気持ちは理解できる。)
いずれにしても、この記事が更に火に油を注ぎました。
◆論点の相違
ここで問題となるのは、この件を、”オーバーツーリズムや、日本の文化を理解しないガイドやツアー客” を問題視する多くの日本人(「X」のユーザではこれが圧倒的)と、自分やツアー客の顔が晒されて営業妨害だと言いたい(らしい)ツアー会社との論点の相違です。
拡散された動画から、(映像は無いにしても)客の誰かが目に余る行動をした事は容易に想像できます。
しかし、それはあくまでも論理的に思考した上での想像です。とは言え、動画には、ツアー客の一人である女性が「私が大きな音を立ててしまった... 」という発言もあるので、抗議した日本女性の剣幕で、当事者が自分の落ち度に気づいたらしい事もうかがえます。
一方、名誉毀損の裁判を想定すると、日本人女性が怒るのはそれなりの理由があったのだろうと想像しつつも、日本人女性とガイド氏のやりとりとガイド氏やツアー客の顔がそのまま公開されてしまった事をツアー会社が争点として訴えたなら、日本人女性の立場は不利な気もします。
ブログ主個人としては、この騒動の本質は外国人観光客による傍若無人な振る舞いですが、ガイド氏が裁判を起こすとしたら、そこは争点にはしないと思います。
◆動画の詳細
裁判が行われるにせよ、行われないにせよ、動画は消されると思います。(既に消されたような... )
ここでは、現時点(2024/05/31 4:24)で転載されて残っている動画から状況(全体の流れ)を再現しておこうと思います。
日本人女性: (ガイド氏に向かって?)私がなぜ怒っているかも伝えてないですよね?
ツアー客男性: Enough, enough! Get out of my sight ... (十分だ=もうやめてくれ。私の視界から消えてくれ。)
この様に始まる動画から、これ以前に既にツアーガイドと日本人女性と間でやりとりがあった事が想像されます。
この後、ガイド氏の「Do you speak English? (続いて日本語で)英語、しゃべれますか?」が出ます。(ガイド氏の視点に立てば、ツアー客の手前もあり、やりとりを直接客に分からせようとしたのかも知れません。) ガイド氏は「Do you speak English?」を更に2回ほど繰り返します。(英語でのやりとりに切り替えたかったのかも知れません)
日本人女性: グーグル翻訳もあるじゃないですか。あなた、日本語もできますよね?
ガイド氏: 8年、ここ、住んでます。
日本人女性: ああ、はい。いや、そういう問題じゃ無い。今の発言て、英語ができない事を理由に私を虐げてませんか?〔※語尾は聞き取れず。〕 差別ですよね? 何故ここで、英語が話せるかが必要になるのですか? 私に。8年住んでるんですよね? 日本語できるじゃないですか。
ガイド氏: いや、日本人と結婚してますよ。
〔この辺りで、ツアー客の女性が英語で「(私が)大きな音を立ててしまった」と非を認めてガイド氏と日本人女性の間をとりなそうとする。また、別の男性の声で(英語で)「警察を呼べ」。〕
日本人女性: 呼んでもらっていいですよ。
ガイド氏: (英語で)あなたは失礼(rude)だ。
日本人女性: 「rude」? お前や。理解してるやん、日本語を。
この後からガイド氏がキレて、「うっせい(うるさい)、お前、だまっとけや!」、「マジでうっせい(うるさい)な」みたいなけんか腰になる。
別のツアー客女性?(若い女性): (英語で)もしかしたら、神聖な場所... 仏教徒にとって失礼な事をしたら、悪かったと彼(=ガイド)が伝えるべきだと思う。
少しはしょりましたが、こんな感じのやりとりです。
すべての登場人物を好意的に解釈すれば、日本人女性は、八坂神社での外国人観光客の無礼な振る舞いが許せずに注意した(らしい)。→やりとりの意味が分からなかったツアー客達はうんざりしていた。→鈴を乱暴に扱ったらしい客の一人が察してそれを認めた。→「英語が話せるか?」のガイド氏の発言で差別問題に論点がすり替わった。→険悪なムードを鎮めようと、ツアー客の一人がガイド氏を諫めようとした。
という流れではないかと思います。
ブログ主個人としては、海外で個人旅行をした経験から、現地の習慣が分からない時は気を遣いますし、現地の言葉が分からないのはこちらの責任だと感じます。それだけに、もし現地ツアーに参加したら、ガイドが習慣も言語も熟知していると思って頼った事でしょう。
ツアー客も気をつけるべきだとは思いますが、料金を払ってガイドを雇ったなら、そのガイド氏が円滑なツアーを遂行する為に、客と現地人の間を取り持つ役目をして欲しいと思います。
また、日本人の第三者として思うのは、日本でガイドをする以上、その役目を負えないガイドが仕事をして欲しくはありません。日本に来た観光客には良い思い出を持って帰って貰いたいからです。
* * * *
ここからはこの一件を離れた個人的経験を踏まえた観光行政に関する見解です。
この件は、喩えれば、日本人観光客が海外現地で日本人が催行するツアーに参加した様なもので、ブログ主はそういうツアーに参加した事は無く、現地人によるツアーしか経験した事はありませんが、その経験から言うと、現地ツアーはあくまでも "俺様(=現地)の流儀に従え” です。その為、(悪意が無くても)流儀を守らない客にはガイドは怒ります。そういう事はしばしば目にしました。
例えば、イギリスのロンドン塔に行くと、勝手に見学もできますが、ビーフィーター〔同名のジンのラベルに描かれたBeefeater(ロンドン塔の守衛)〕のコスプレをした人〕によるツアーに無料で参加する事もできます。彼らはプロ意識もあり、詳しく説明してくれますが、彼らの意に沿わない客には注意をするのを目にしました。
この様な光景はロンドンの他の場所やドイツ等でも目にした事があります。
良い悪い(好き嫌い)は別として、ツアーの主催者のルール/現地ルールが絶対なのです。
今回のイギリス人によるツアーも、ガイド氏が日本の慣習に敬意を払い、ツアー客にそれを説明して従わせてたら良かったのです。そして、質の高いガイドしか認定しない(=営業させない)システムにしていれば良かったのですが、日本/京都はそれもしていない。
ブログ主は問題のガイド氏を擁護するつもりはさらさら無いのですが、政府がインバウンドを当てにするなら、地方自治体やツアー会社、住民に丸投げするのではなく、国が指針を決め、徹底させるべきだと思います。
現地ツアー会社の質を一定に保つのも必要です。
それができない/したくないなら現地人の努力に依存しているくせに、インバウンドなど言うなと言いたいです。
ホテルに関しても、言葉の壁を抜きにしたら、正直に言って、ホテルの選定などはヨーロッパの方が一貫性があるだけ、よほど分かりやすいです。
ブログ主の経験から言うと、ヨーロッパの現地観光局が発行しているホテルリストは、例えば設備による星の数(四つ星とか五つ星)の基準が定められていたり、リストに、ホテルが受け付ける言語(英語、フランス語、ドイツ語、etc. )や利用できる設備(テレビがあるとか、サウナの設備があるとか)がピクトグラムでが表示されていたりします。だから、英語が通じないホテルに泊まるのはこちらの選択となる訳です。
等級やピクトグラムの基準を決めて、それをホテルリストに明記し、選択する側の責任にしてしまうのは一つの手です。
英語圏以外の外国に行くと分かりますが、こちらが下手くそでも現地の言葉を一生懸命話そうとすると、相手は喜んでなんとか手助けしてあげようとしてくれますよ。その気持ち、逆の立場になれば理解できるでしょう。
地方の観光局が発行するパンフレットも、日本の習慣や寺社の拝観ルールなどを数種類のひな形にして作ってあげれば各観光局でコピペすれば良いでしょう。
よく、駅のハングル(韓国語)や簡体字(中国語)は不要だと言う方もいますが、駅員の負担を考えたら、地下鉄の出口案内などに外国語を表示するのは手間を省く事にもなるでしょう。
”おもてなし” と言うよりは、懇切丁寧なパンフレット/リーフレットは観光地に住んでいる方達の負担を軽減するする事にもなり、トータルでコストやストレスが削減されると思います。
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