ラムザイヤー教授の新著『 慰安婦性奴隷説をラムザイヤー教授が完全論破 』を読み終えました。〔訳者:藤岡信勝、藤木俊一、矢野義昭、茂木弘道、山本優美子〕
本書の内容は上記リンク先、Amazonの商品ページに詳しいので、そちらも参考にして下さい。
◆構成
本書は五部構成で、以下の様になっています。
- プロローグ
- 第1論文 1991年
- 第2論文 2019年
- 第3論文 2020年
- 4に対する批判者への反論
ラムザイヤー教授がバッシングを受けるきっかけになった論文(学術雑誌『IRLE』に掲載された論文)は、4の第3論文ですが、教授は上記の通り、この時に初めて慰安婦問題(=日本型芸娼妓システム)を扱ったわけではなく、1991年の第1論文で、日本国内の芸娼妓、即ち、売春婦と業者との間の『年季奉公契約』の論理を扱い、第3論文では、それを参考文献として、「日本軍慰安婦の契約はその延長である」ものとして、「何故、日本軍慰安婦が高額な前金となったのか?」を論じた物です。
つまり、慰安婦あるいは一般的な公娼と業者の間に『契約』がある事は既に第1論文で論考済みで、第3論文ではそれを前提にしているので最早「契約の有無」など扱ってはいませんが、(慰安婦となった女性全てが理解していたかはともかく、)「性奴隷」では無かった事を間接的に証明するものです。
ラムザイヤー教授へのバッシングは『産経新聞』の2021年1月31日付け『「慰安婦=性奴隷」説否定』とタイトルがつけられた記事が火を点けたようなものですが、本来は二段論法、つまり、①「慰安婦と業者の間には契約があった」→②よって、「慰安婦は性奴隷ではない」、の①を飛ばしたようなタイトルだったので、「慰安婦=性奴隷」だと考える人達に火を点けてしまったのです。
各章をもう少し詳しく見ていくと、
◆プロローグ
1の「プロローグ」は、産経の記事が出た後にラムザイヤー教授の身に何が起こったのかが書かれています。
殺害予告など、身の危険を語る他、アメリカの、特に人文系の学問が如何にポリコレに犯されているかをラムザイヤー教授自身が語ります。一例を挙げれば、ハーバード大学の人文系の教授はほぼ「民主党支持者」に占められている、といった話です。例えば、日本の古典文学に興味を持った学生が来ても、そんな授業が無いので、学生が専攻を変えてしまい、益々ポリコレ教授が幅を占める、という悪循環があるそうです。
この騒動には、韓国系などの新聞編集者も加担しました。
◆第1論文
2の「第1論文」については、前述の通り、(日本の)芸娼妓契約の特徴である「年季奉公契約」が如何に合理的なものであるかを論じた論文で、タイトルの『Indentured Prostitution in Imperial Japan: Credible Commitments in the Commercial Sex Industry』(直訳:日本帝国に於ける年季奉公売春:性産業における「信じられるコミットメント」)だけでは分かりにくいのですが、
できるだけ簡単に言えば、
これから性産業で働こうとする「女性」と「業者(売春宿)」はそれぞれにリスクを抱えており、女性は①「自分の名誉を毀損する仕事」、②「どれだけ稼げるのか分からない」、③「業者が契約違反をした時の訴訟リスク」等の不安(ジレンマ)を抱えており、業者は、④「(密室での仕事なので)女性が客にちゃんとしたサービスを提供するか分からない」(=店の信用に関わる)というリスクを抱えています。
しかし、総報酬の大部分を「前金(前借金)」の形で、且つ、それを借金とすることで、女性は総報酬の大部分を既に受け取っている事から②の不安は解消され、それが①と相殺できる額であれば、①の不安も低減されます。
業者に取ってみれば、「○年」という年季契約期間で、娼婦の売上の一部から借金を返済させる/一部は娼婦の手取りとする事で、良いサービスで売上が高ければ高い程、娼婦のインセンティブ〔目標への意欲を高める刺激〕となり、④のリスクが低減されます。彼女達の目的は短期間で大金を稼ぐことなのですから。
両者の間での「訴訟リスク」は、娼婦が前金を持ち逃げする事くらいなので、リスクはほぼ業者が全面的に負担します。これにより、女性の③の不安も解消されます。
◆第2論文/第3論文
長々と「第1論文」の核心部分を説明しましたが、これが分からないと、芸娼妓の年季奉公契約が如何に合理的なものであり、性奴隷ではない事が理解できないからです。
これが理解できれば、第3論文は尤もな事だと理解できるのですが、その前の第2論文は、第3論文の元となった論文であり、慰安婦の契約だけでなく、韓国の「挺対協(現 正義連)」や「元慰安婦と称する女性達の裏付けの無い証言」についても述べられています。この2つを削ったのが、第3論文です。
第3論文に対する批判者は、第1論文で述べられた事もろくに理解せず、単に彼等が守りたい「慰安婦=性奴隷」という神話を崩すものであるから、論理的に反論せず、論文撤回署名や、雑誌『IRLE』の編集/査読者に対する抗議メールという形で、論文を闇に葬ろうとしたのです。
これは、最近起きた、KADOKAWA書店の「LGBT」本の出版取消運動と似ています。KADOKAWAは批判に屈してしまいましたが、『IRLE』は屈せず、批判者達に「論文で議論したらどうか」という提案をしました。
当時のハーバード大学の学長も、ラムザイヤー論文を学問の自由という見地から擁護しました。
◆第4論文(批判者への反論)
さて、第4論文ですが、これは、第3論文を批判する者達へのラムザイヤー教授からのアンサー(反論)です。これが本書の半分近くのページ数を占めます。
主な批判者は3グループに分けられ、①ゴードン/エッカートという教授、②茶谷さやか、エイミー・スタンレー等 ”お笑い” 5人衆〔下図参照〕、③吉見義明教授です。
①と②のグループは基本的には「慰安婦問題」に関しては無知な輩(やから)です。
①は「契約書の実物が提示されていない」といちゃもんを付けますが、実物がなくても、芸娼妓の年季奉公が「契約」をベースにしてあり、実際には「紙の契約書がなければシステムが成り立たない」事をラムザイヤー教授は説明します。
一例を挙げれば、元慰安婦の女性が、業者と前金の金額で交渉したり、父親だけでなく祖父母の「ハンコ」(押印)が無ければ駄目だったと証言しています。
②も無知な事には変わりないので、雑誌『IRLE』の論文掲載の申し出を断り、自分達のサイトで反論文を公表します。〔彼等だけでは反論文は書けないのは、彼等の日本語能力レベルからも明らかで、バックには手助けしている者がいると思われる。〕
①も②も、日本語の一次史料すら読めないレベルなので、始めからラムザイヤー教授の敵ではありません。
③の吉見義明教授ですが、彼は本当は事実は分かっています。既に、強制連行が無かったことも認めているので、「慰安所では外出の自由がなかった」等の、所謂 ”広義の奴隷” 説や、「人権問題」を唱えます。
しかし、外地、即ち前線近くの場所では、休みの日以外の外出が制限された事などは当然の事であり〔現代だって、勤務中の行動は制限を受けるでしょう〕、「人権問題」は、ラムザイヤー論文(第3論文)が論じる内容、つまり「契約」とは全く関係無いことです。教授は慰安婦制度の善悪や道徳を論じている訳ではないのですから、吉見教授の批判は反論にはなっていません。
ブログ主は第1~3論文は既読で、ある程度慰安婦問題の知識があるのですが、それでも、見落としていた/忘れていた事に気付かせて貰いました。
それは、慰安婦や一般の公娼達は、借金の返済が終わらなくても、途中で契約を解消できた事です。前金には利息が付かないのですが、中途解約する場合には1割のペナルティが課せられる仕組みでした。その請求先は女性のみならず、連帯保証人となっている親にも及びます。この事からも、業者は自分を守る為に紙の契約書が必要だったと、常識があれば理解できます。
この章では、厚顔無恥な教授達をラムザイヤー教授がバッタバッタと切り捨てる心地よさが醍醐味です。
* * * *
◆出版記念シンポジウム
この本の出版記念に12月24日に訳者によるシンポジウムが開催されました。
ブログ主は動画配信(有料)を視聴しましたが、ここで、この本の韓国語訳が来年1月中旬に発売されることを知りました。
英語圏向けには、元々の論文が英語なので、ジェイソン・モーガン准教授とラムザイヤー教授の共著という形で1月下旬に出版される事が決まっています。〔当初の予定は12月だったので、やや不安は残りますが...〕
既に多くの日本人は気付いていますが、最早「資本家×労働者」という構図では戦えなくなった共産主義者による文化やモラルの破壊 ... 登壇者のお一人はこれを「文化共産主義者」と呼んでいらっしゃいましたが、我々はこれとの戦いの最中です。
シンポジウムの別の登壇者が仰っていましたが、国連での活動に新たなアイディアもあるそうです。
* * * *
◆この本の意義
この本(日本語版/韓国語版)と英語圏向けの本の意義は、議論の叩き台となる知識が共有できる事だと思います。
それぞれの言語圏でどのように活用されるか/読まれるかはまた別の話ですが、今までは、韓国は韓国で、日本は日本で、その他の世界ではその他の世界で、別々の論戦があり、それぞれの「慰安婦=性奴隷」説を否定する論者の基礎知識も差があったのですが、9月に西岡力教授等が韓国を訪問して意見交換をし、韓国側(主に李承晩学堂)が疑問点などを西岡教授に質問して、知識の共有化ができたようです。
韓国では、李承晩学堂による新たな慰安婦本 ... 日本で言えば、秦郁彦教授の『慰安婦と戦場の性』のような決定版も先日発売されました。〔尤も、メディアは相変わらず無視していますが...〕
つまり、少数の良識的な学者の連携がしやすくなった事が大きいのです。
韓国の、「”定説” に反することを言うと社会的/司法的に制裁される」という異常な社会も知らしめられました。アメリカでは、アカデミックの世界での異常なポリコレに一石を投じるかもしれません。
ところで、この本とは直接関係無いのですが、 Pershing Squareという投資会社のCEO、Bill Ackman氏が自身の 2023年12月19日付け「X」で、以下の様なポストをしていました。
Finally, the @Harvard
faculty are speaking up. Tenure was supposed to protect faculty so they could speak the truth. Unfortunately, cancelling, shaming, and the inevitable accusation of being a racist have prevented faculty from speaking the truth.
Kudos to Harvard Law Professor Mark Ramseyer for his bravery. Perhaps he will inspire others.
〔ついに、ハーバード大学の
教員たちは声を上げている。テニュア(終身教授)は、教授陣が真実を語れるように保護するはずだった。残念ながら、キャンセル(カルチャー)、辱め、そして人種差別主義者であるという避けられない非難が、教授陣が真実を語ることを妨げてきた。
ハーバード大学のマーク・ラムザイヤー教授の勇気に拍手を送りたい。おそらく、彼は他の人々を鼓舞するだろう。〕
これはどうやら、ハーバード大学の現学長〔※〕を批判したポストのようですが、ラムザイヤー教授に賛辞を贈っている所を見ると、ある層の人達はラムザイヤー教授に起こった事に注目しているのでしょう。
※黒人女性で、反イスラエル、且つ、過去の論文剽窃が問題になっている。つまり、ポリコレの為に本来のその立場に相応しい能力が無い者が高い地位を得ているという批判。
このブログエントリーが、この本に関心のある方の一助になれば幸いです。
最近のコメント