【熱海土石流】解明されてきた土石流のメカニズム-盛り土全体が多量の水を含んで一気に流れ落ちた
熱海で発生した土石流に関しては、静岡県の難波喬司(なんば たかし)副知事が連日のように記者会見を行っています。調べたら、国土交通技官や工学博士の肩書を持つ方で、動画も観てみましたが、なるほど、川勝知事のようなボンクラを出すよりはよっぽど詳しい説明ができるはずです。
16日の会見で分かったのは、災害の当日は、問題の赤井谷に廃棄された産廃混じりの盛り土全体が多量の水を含んでいて、発表では、“ダム”のような状態と表現されていましたが、全体が液体化していて一気に流れ落ちた、という事のようです。〔記事後述〕
それ以前の発表では、盛り土に集まる水は1万6千立方メートルと試算されていましたが、それでは5万4千立方メートルの盛り土全体が満杯にはならず、全てが一気に流れ落ちることはないというのが今回の説明です。
そもそも1万6千立方メートルという計算は地表を流れる表流水を計算したそうですが、実際には、染みこんだ地下水は逆方向に流れる可能性もあり〔【図-1】〕、更には、想定した集水域よりももっと広い範囲〔【図-2】〕も計算しなくてはならなかったという訂正がなされました。
【図-1】
※点線で囲んだ部分は、本来、鳴沢川の集水域と見なされている(実線矢印)が、赤井谷から発する逢初川の集水域とも見なす必要がある。(図は毎日の記事より)
なお、赤井谷の左側に隣接する尾根を削って作ったメガソーラーの雨水は、赤井谷とは反対側の渓流に流れるようになっているらしい。〔→太陽光発電施設からの雨水の流れ(PDF:1655KB)作成日:7月9日〕
【図-2】の説は地質学者の塩坂邦雄氏が9日に記者会見で語ったもので、「造成で尾根が削られたことによって雨水の流れ込む範囲(集水域)が変化、盛り土側に雨水が流入した結果、土石流を誘発した」という分析でした。但し、難波副知事は、地下の水脈はボーリング調査をする必要があり、点線の範囲の造成地の風評被害を避けたいという事でした。
下図は盛り土内がほぼ満水状態だったことを示しています。
もし、これが、例えば下1/3だけ水を含んでいたとしたら、パイピング現象〔※〕によって流れ出すのは1/3の土砂で、残りの上部はずり落ちても、その場に留まり、一気に下まで流れ落ちないはず、とのことです。〔盛り土に適切な排水設備があれば防げた可能性がある。〕
※パイピング現象:地下水が土の中に浸透して地下水位が高くなると、高低差によって盛り土の下部に掛かる水圧が大きくなる。 耐えきれなくなると、水と土砂が強い勢いで噴き出す。
なお、これほど大規模な土石流を引き起こしたそもそもの原因は、申請よりも多くの土砂(+産廃)で盛り土されていたからですが、別の会見では、神奈川県よりも静岡県の方が規制が緩く、持ち込まれやすかったという事を認めていました。
話は脱線しますが、記者会見で興味深かったのは、今回、原因の解明が予想外に早く進んでいる理由です。
県内でも専門家委員会のようなものもありますが、そこで分かったデータと分析をオープンにすることによって、部外者の専門家達が、勝手に様々な分析をし、更にその専門家のネットワーク内で議論されて、静岡県側にフィードバック(帰還)してくれるのだそうです。
15日の記者会見動画で難波副知事がそれを話されているのですが、その外部ネットワークが非常に役に立っているそうで、これからはそういう時代なんだなとしきりに感心されているのは、副知事という立場を一瞬離れて学者の顔を見せていました。〔プレスリリースはこちらからDLできます。〕
これ以前の会見で塩坂邦雄氏の説を否定していたようで、その事を謝罪されてましたが、部外者の専門家達のように県に直接フィードバックしてくれるのではなく、塩坂氏が直接記者会見を開いて自説を発表した事も原因のようです。
ふと、難波副知事と川勝知事って、合うのかな?と疑問に思いました。
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https://mainichi.jp/articles/20210716/k00/00m/040/131000c
熱海土石流 盛り土は満水で崩落、上流の水も流入か 県が分析
2021/7/16
静岡県熱海市伊豆山(いずさん)地区の土石流で、県は16日までに、土石流の起点付近にあった盛り土が満水状態で崩落したと分析した。土石流が流れ下った逢初(あいぞめ)川の北側には、並行するように鳴沢川が流れている。県は盛り土よりも標高の高い鳴沢川流域の地下水も盛り土に流入した可能性があるとみている。【山田英之】
盛り土崩壊の仕組みを調べている県によると、盛り土に直接降った雨に加えて、上流から地表を流れてきた雨水、地下水も流入。盛り土に適切な排水設備を設けていなかったため、ダムのように内部に水がたまり、満水状態になって崩壊したと推定している。
今回、盛り土の締め固めが不十分だったため、隙間(すきま)が多く、水を吸収しやすかったことも盛り土内部の地下水位を上昇させた要因とみる。
県が公表したデータや分析結果を見た研究者からも「盛り土は上部まで満水状態になって、いったん崩れると流動化しやすい状態だったという県の推定の確度はかなり高い」と連絡があった。研究者は理由を「盛り土の上部まで満水状態でなければ、盛り土の下部が崩れ落ちても、上部は流動化しないで上流の河川内に残ったはずだ。レーザー光の照射による地形データの計測結果を見ると、崩壊した盛り土は河川内にあまり残っていない」と説明したという。
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