1月2日付『朝鮮日報日本語版』に奇妙な記事が掲載されました。
それは、23年度に創設される事が決定した「こども家庭庁」の名称に失望したという駐日特派員(チェ・ウンギョン特派員)の記事です。〔記事後述〕
何故、韓国人がこの名称に失望したなどと書くのでしょうか? 記事には “(名称に関し)日本の人々が注目”、 “これまでの話し合いで「こども庁」と呼ばれていたこの組織の名称が突然、「こども家庭庁」に変わった経緯に、多くの関心が寄せられた” とも書かれていますが、日本国民の間で名称など議論にもならなかったし、関心を呼んだとは思えません。
確かに議論はありました。しかし、それは自民党内や政党間、そして政府内部の議論で、国民を巻き込んだ議論とは言えません。
後ほどご紹介する記事を読むと分かりますが、「こども庁」を推していたのは自民党の一部の議員です。それに対し、自民党内で強い反発がありました。
一般人からすると、「こども庁」だろうが「こども家庭庁」だろうが、問題は中身だろ?と思うのですが、実は、特定勢力には大きな問題だったのです。
1月2日付『日経』の記事「難産のこども家庭庁 縦割り拭えず、命名も紛糾」によると、自民党内の会合で座長の加藤勝信前官房長官が「こども家庭庁」で押し切った事が分かります。
“「意見は言ってもいい。反対しないでほしい」。12月15日の自民党「『こども・若者』輝く未来創造本部」の会議前、議員に根回しがあった。政府・与党内で子どもに関する政策を一元化する新組織の名付けが紛糾していた。この日の会議は座長の加藤勝信前官房長官が「『こども家庭庁』でいかせてほしい」と取りまとめ、21日の閣議決定に至った。”
「家庭」の文字を入れる事に反対する理由としては、後述の記事にも書かれていますが、「家庭の無い子供もいるから」や「家庭内で虐待にあった子供にとっては『家庭』はトラウマだから」みたいな尤もらしい事が述べられていますが、実は嘘だと言う事が、月刊『正論』2021年12月号で、高橋史郎・麗澤大学大学院客員教授が『左翼政策「こども庁」実現めざすのか」という文を寄稿されているので、次回はその内容をご紹介するつもりですが、今回のエントリーでは、まず、一部の議員による名称の拘りを示す関連記事をピックアップして提示します。
少し、意図が見え隠れしています。
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まずは、「こども家庭庁」創設を報じる、朝日新聞の記事です。
https://www.asahi.com/articles/ASPDP3C5RPDNUTFL00L.html
「こども家庭庁」23年度創設、閣議決定 調整難航分野は文科省に
2021年12月21日
政府は21日、「こども家庭庁」の2023年度創設を含む子ども政策の基本方針を閣議決定した。幼稚園分野やいじめ問題は、引き続き文部科学省が担当し、こども家庭庁が連携して対応する。年明けの通常国会に関連法案を提出する。
こども家庭庁は首相の直属機関で、内閣府の外局にする。専任大臣を置き、他省庁の大臣に改善を促す「勧告権」を持つ。厚生労働省や内閣府が担当する保育所、児童手当、児童虐待防止対策といった福祉中心の分野が移される。一方、幼稚園や義務教育といった分野は調整が難航したため、文科省に残される。
幼稚園の教育や、保育所の保育の内容について基準を定めた要領や指針は、こども家庭庁と文科省が共同でつくる。どの施設でも共通の教育・保育が受けられることをめざす。いじめ問題に関しては、重大事案について両省庁が情報を共有し、一体的な対策を取る。
新省庁の構想は、縦割りの弊害をなくし、政策に一元的に取り組む「こども庁」として菅前政権時代に浮上。その後、岸田政権となり、政府と与党が協議して「こども家庭庁」に名称が変更された。(久永隆一)
* * * *
次に名称変更の背景を報じるTV朝日の記事。尤もらしい理由が述べられています。
https://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000238520.html
「こども庁」→「こども家庭庁」へ なぜ名称変更?[2021/12/15 19:10]
政府は、こども政策を一元化するための組織の名称を「こども庁」から「こども家庭庁」に改める方針です。名称変更の背景には何があるのでしょうか。
15日、自民党の会合で話し合われたのは、こども庁について。
こども庁とは、子どもを社会の「真ん中」と位置付けて新しく創設する組織です。
最大の特徴は複数の省庁にまたがる子どもの課題を一元化して解決し、総理大臣の直属機関として強い司令塔を目指します。そんななか、持ち上がったのが…。
こども庁から、こども家庭庁への名称の変更です。
「家庭」という言葉を入れるかどうかで会議は紛糾、1時間半にも及びました。
「こども庁」派・自見はなこ議員:「子どもさんすべてが、親御さんがいるわけじゃない。なかには病気で自分の両親を亡くされた方もいるし、生まれながら様々な事情で養護施設で育つ子どもたちもいて、本当の意味で『子ども』真ん中を貫くのであれば、やはり名称は『子ども庁』が定着して愛されてますし、良いのではないかという意見は多数ありましたが、最終的な取りまとめは座長一任ということで『こども家庭庁』ということで了承されたということです」
「こども家庭庁」派・山谷えり子議員:「『家庭』が入って良かったと思っております。家庭的なつながりというなかで『子ども』というのは、本当に『子ども』真ん中で育っていくと思いますので、しっかりと全体をみながら支援が行き渡るように、これから努力をしていきたい」
子どもの基盤は家庭だとする自民党の保守派議員らの声に押される形で家庭という言葉が入ることになりました。
政治部・土田沙織記者:「元々『こども庁』を主導した議員たちは『いじめ』や『家庭内の虐待』などを防ぐため、『家庭の中の子ども』という位置付けではなく、子どもも権利を持つ主体だとしたい思いがあって、あえて『家庭』は入れていなかった」
政府が示した基本方針には「子どもの成長を支えるためには、家庭における子育てをしっかりと支えることが必要」などが足されました。
こう変わっていった背景には他党への配慮も見え隠れします。
ある閣僚:「公明党も『子ども家庭庁』と言ってたでしょ。立憲(民主党)も『子ども家庭省』を主張してるでしょ。自民党で『こども庁』の名称が維持できても、国会で『家庭を入れろ』と議論になっていたと思う」
政治部・土田沙織記者:「ある政府関係者は『積み上げてきた構想が他党からの反発によって崩れるのは避けたい』と危機感を漏らしていました。今回、実を取るべく、手を打つべきところで手を打ったということだと思います。子ども目線の政策が実現し、着実に支援が届いていくのかが今後の焦点です」
ここで自民党の自見英子(はなこ)参議院議員の名前が出てきますが、もう一人、自民党で「こども庁」を推しているのが山田太郎参議院議員です。この名前を覚えておいて下さい。一方、保守系の自民党議員(山谷えり子参議院議員)は、これに反対だと言う事が分かります。
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最後に、冒頭に書いた朝鮮日報の記事です。韓国人の記者がなぜ名称の問題に熱心なのか?と違和感を覚えると同時に、「こども庁」を推す勢力との繋がり。この勢力が外国の声を利用しようとしている気配も感じます。
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2021/12/31/2021123180099.html
2022/01/02 07:21
【コラム】日本の「こども家庭庁」創設に失望感
先日、日本では「こども家庭庁」創設というニュースが議論になった。少子化対策および子ども政策全般を総括するこども家庭庁を2023年に総理大臣直属機関として創設するという方針が閣議で正式に決定されたためだ。ただし、日本の人々が注目したポイントは、この組織が創設されるということではなく、名称だった。これまでの話し合いで「こども庁」と呼ばれていたこの組織の名称が突然、「こども家庭庁」に変わった経緯に、多くの関心が寄せられたのだ。
子ども関連政策を専門に担う行政機関を創設するという方針は、菅義偉前首相が昨年4月に正式発表した。菅前首相は「子どもを社会の中心にする」という目標の下に「こども庁」を作ると明らかにした。高齢者に比べて子ども・若者が政策から外されてしまっていたという反省から出たアイデアで、与党・自民党内の若手議員らが提案した。内閣府・厚生労働省・文部科学省などに分かれている少子化、児童貧困、児童虐待、いじめ、ヤングケアラー、保育園不足問題などに総合的に対処できる組織を作ろうという趣旨だ。その中核となる考え方は「子どもファースト(first=第一・優先)」。保護者よりも子どもの立場をまず考えようという意味だ。教育・児童専門家はもちろん、児童虐待被害者といった当事者たちが積極的に支持の意向を表明した。
ところが、先月15日に1時間半余りの自民党の会合で、「こども庁」は「こども家庭庁」になった。この会議で「子どもは家庭が基盤になって成長するのだから、新しい組織の名称は『こども家庭庁』にするべきだ」という主張が支持を得て、名称変更が決定されたという。自民党の中堅議員らは先月初めから「子どもは家庭で母親が育てるので、『家庭』という言葉が入るのが当然だ」「青少年が健全に育つには、家庭がまずしっかりしていなければならない」として、こども庁の名称変更を要求したと言われている。だが、名称変更に失望の声が上がっている。「家庭という囲いの中で育つことができない子どもたちもいることや、虐待の被害に遭った子どもたちにとって、『家庭こそ地獄だ』という現実を無視した決定だ」ということだ。
さらに失望したのは、日本の政策を主導する政治家たちの根本的な考え方だ。「子どもの成長は家庭の責任」という本音が読み取れる。子どもたちが経験する問題を子どもの立場から考え、解決策を模索するという「こども庁」創設の趣旨が台無しになったと感じられた。子育ては韓国よりもましだと言われる日本だが、それでも依然として「子育て罰」と言われる問題がある。子育て罰とは、社会が親に対してあまりにも大きな責任と役割を要求しているため、親が子どもを育てる過程を社会的な罰のように感じている、という意味だ。
子どもをめぐる社会問題を解決するには、結局、子どもの成長の責任を社会が分かち合うところから出発すべきではないだろうか。少子化・児童虐待といった問題を抱えている韓国社会にとっても反面教師になる話だ。
東京=チェ・ウンギョン特派員
次回に続きます。

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