以下は『読売新聞』の記事です。
https://www.yomiuri.co.jp/world/20240116-OYT1T50054/
金正恩氏、韓国は「第1の敵対国」…施政演説で憲法明記を主張
2024/01/16
朝鮮中央通信によると、北朝鮮は15日、国会に相当する最高人民会議を平壌で開いた。 金正恩朝鮮労働党総書記は施政演説で、韓国について「第1の敵対国、不変の主敵」と憲法に明記する必要性を強調した。韓国を「敵国」と位置付ける教育の強化もうたい、対抗姿勢を改めて鮮明にした。
正恩氏は演説で「およそ80年間の北南関係史に終止符を打つ」と宣言。「憲法上の『自主、平和統一、民族大団結』という表現が削除されなければならない」とも述べた。憲法改正は次回の最高人民会議で議論するという。
会議では、韓国を「和解と統一の相手とみなすのは深刻な時代的錯誤になる」として、北朝鮮の対韓国窓口機関・祖国平和統一委員会を含む三つの「対南機関」廃止も決定した。〔以下略〕
* * * *
13日付け『東京新聞』によると、「北朝鮮が運営する韓国向けラジオ「平壌(ピョンヤン)放送」が停波したことが13日分かった。」そうです。
ブログ主は、この報道で真っ先に、韓国の内外にいる従北派は ”梯子を外された” ような気分では無いかと思ったのですが、身近に最も梯子を外された人達がいました。朝鮮総連関係の人達です。
気になっていたところ、『李相哲TV』で元朝鮮大学校の朴斗鎮(パク・トゥジン)先生と共にこの件を分析していらっしゃったので、ご紹介します。
韓国と北朝鮮は、互いに相手を「自国の領土を不法に占拠している」という認識で、例えば韓国では、北の人民も韓国国民と見なし、脱北者を保護しています。大韓民国側のこの考えは変わらないでしょうが、1991年9月18日に南北が同時に国連加盟が承認された事で、事実上正式に、別々の国家として歩んで来て以来、両国は平和的(あるいは武力的)統一を目標に掲げてもいました。
元々同国民であるので理解はできますが、韓国人の『民族主義』及び、それと裏表の関係である『反日』は、まずは保守政権が植え付け、その後、北朝鮮や従北派に利用されて来たので、韓国国民は多かれ少なかれ、民族主義に陥っています。
尹錫悦大統領も、金正恩の発言に対し、「反歴史的」・「反民族的」と言って非難しましたが、これは建前上はそう言わざるを得なかったのかもしれません。
そして、それよりも直接影響されていたのは、日本にいる朝鮮総連関係者〔=朝鮮学校〕なので混乱は必至です。彼等は今後どのようになっていくのでしょうか?
以下、動画の対談内容を要約しておきます。
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【金正恩の発言内容】南朝鮮の呼称を大韓民国とし、韓国は敵対国、主敵、交戦国と位置づける。
15日の最高人民会議に於ける施政演説で述べた事は以下の通り。
- 祖国統一三大憲章記念塔(モニュメント)を撤去せよ。
- 憲法の「自主」、「平和統一」、「民族大団結」のような表現を削除、韓国を徹底的に第一の敵対国、永遠の主敵とみなす内容を反映せよ。
- 憲法に、戦争が勃発した場合、大韓民国を完全に占領、平定、(領土を)修復して共和国領域に編入させる問題を反映せよ。
- 共和国の民族歴史から、「統一」、「和解」、「同族」という概念そのものを完全に除去しなければならない。
李相哲〔敬称略。以降は「李」と表記〕: これは、朝鮮総連とは真逆の考え方になる。
朴斗鎮〔敬称略。以降は「朴」と表記〕: これまでは、「北部で社会主義建設を行い、その力を持ってして、南(韓国)の北朝鮮を支持する勢力と力を合わせ、統一を実現する」という平和統一路線。武力統一の場合も、「南の自分達に呼応する勢力と力を合わせて統一をする」であり、「平和統一か武力統一かは韓国側の出方次第」という考えだった。これは朝鮮労働党の綱領にも明記されている。
今回の方針転換は、金日成・金正日が推進してきた革命路線の否定だ。
『金日成主義革命論』、『南朝鮮革命と祖国統一に関する金日成同志の思想』という二冊の本があるが、これらの否定である。2000年6月15日の『6.15南北共同宣言』(金正日・金大中)でも、金正日は継承していた。
李: 金正恩が「朝鮮総連第25回大会」(2022年5月28〜29日)に送った書簡では「総連は民族大団結の旗印の下で団結・協力せよ」という趣旨の事を書いている。
朴: これは法律以上の指令。これを1年8ヵ月後に止めろと言ったわけで、どう理解していいか分からない。
李: 「祖国統一は民族至上の課題であり、総連と在日同胞の一番重要な愛国事業である」とも金正恩は言っている。
朴: 更に「総連の祖国統一事業は、本質に於いて、偉大な首領様(=金日成)、偉大な将軍様(=金正日)が提示され、堅持してきた、一つの朝鮮の路線を貫徹する聖なる愛国闘争である」とも書いている。
李: 路線変更の背景は?
朴: 基本的には金正恩の「怯え」だと思う。「統一」というのは攻めの路線だが、それを放棄して「北だけでやっていく」というのは守りの路線。最近の金正恩・金与正の発言に絶えず出てくるのは2023年4月26日の米韓首脳会談で発表された『ワシントン宣言』。「北朝鮮が核を使用した場合は政権の終末を迎える」という内容。南北で対話を行っていた時は、北朝鮮に主導権があったが、ワシントン宣言以降は主導権を奪われてしまった。韓国も対北最新兵器(キルチェーン、アイアンドーム)構想を見せつける様になった。
李: 北の若い世代が韓国に憧れるのはもはや止められず、これも金正恩は恐れているのではないか。北朝鮮にとって、韓国そのものが脅威。
金正恩は文在寅に騙されたと思っているのでは無いか。2018年4月の『板門店宣言』で、文在寅は「民族」を前面に押し出した。第1条1項にこのように宣言している。
>(1)南と北は、わが民族の運命はわれわれ自ら決定するという民族自主の原則を確認し、既に採択された南北宣言や全ての合意などを徹底的に履行することで、関係改善と発展の転換的局面を切り開いていくことにした。
朴: 私に言わせれば、「民族」とか「平和統一」で騙してきたのは北朝鮮の方だ。朴正煕政権時代は、「平和統一」と言ったらアカだと言われていた。朴正煕政権が言っていた事を今は金正恩が言っている。統合失調症の疑いさえある。
2004年5月の「第20回全体会議」で採択された朝鮮総連綱領の第6項目にはこのように書いてある。
>我々は「6.15北南共同宣言」の旗印の下に、在日同胞の民族的団結と北と南、海外同胞との絆を強化・発展させ、反統一勢力を排除し、連邦制方式による祖国の自主的平和統一を成就する為に全力を尽くす。
論理的には、金正恩は「反統一勢力」になった。これを朝鮮総連はどのように説明するのか?
李: 金正恩は「反統一勢力」であり、「反民族勢力」になったので、金正恩を排除しなくてはならない事になる。金日成の祖国統一三大原則には以下の様に書かれている。
- 統一は、外部勢力に依存せず、干渉無しに自主的に解決する。〔自主〕
- 統一は、互いに相手が反対する武力行使に頼らず、平和的な方法で実現する。〔平和〕
- 思想と理念、制度の違いを超越して、まずは一つの民族として、大団結を図らなければならない。〔民族〕
cf. Wikipedia:南北共同声明(1972年/金日成&朴正煕)
総連はどうするのか?
朴: 総連の知り合いに聞いたが、「理解ができない」、「綱領の第6項目は削除しなければならない」と言っていた。朝鮮総連の存在理由は、「如何に統一の為に韓国に影響を及ぼし、在日同胞をまとめ、世界に統一路線を支持させるか」なので、統一を除いてしまったら総連の存在価値が無くなると言う事。
李: 朝鮮総連HPに書かれている朝鮮総連の基本使命というのがある。その中の一つに以下の様な物がある。
>朝鮮総連は結成当初から一貫して、祖国の統一に寄与する事が自らの基本使命である事を綱領に明記し、力のある人は力を、知識のある人は知識を、金のある人は金を出して祖国統一に貢献する事を呼びかけ、民族最大の課題を実現する為に全力を傾けている。
朴: 更にその下を読めば、「祖国が統一されてこそ、在日朝鮮人問題を根本的に解決できる」と書かれている。
金日成の時代とかは、優秀な人材がいて路線を策定していた事があったが、金正恩の時代になり、北朝鮮は完全な奴隷国家・独裁国家になった。嘗ては「路線の継承性」は大事にしていたので、路線の修正をする時も論理的な理由付けをしていたが、今回はそれが無い。
李: 金正恩と金与正という子供2人が勝手に何でも決めている。
朴: 人材が底を突いたのかも知れない。
朝鮮総連は今後、綱領と今回の金正恩の言葉という180度違うものをどうやって説明するかという問題に直面する。
朝鮮総連は今や朝鮮学校。朝鮮学校が無くなったら朝鮮総連も無くなる。そういう朝鮮学校で、韓国籍の生徒は半分以上を占める。今までなら、韓国民全体では無く、指導層を敵視していたが、敵国の国民が同じ学校にいるという状況をどう解決していくのだろうか?
李: 面白い事に、朝鮮中央放送で表示されていた地球儀が変わった。17日から、北朝鮮だけを赤く塗っている。
今回、韓国の左派にとっても大打撃だと思うが、韓国ではこの様な(今、私と朴斗鎮先生がしている様な)議論がなされていないが、朝鮮総連を含め彼等はどうするのだろうか。
朴: 彼等は宗教と同じだから、今のままの路線だろう。平和統一路線を捨てた事で、一部の盲従者が、『三大騒擾事件』(皇居前「血のメーデー事件」、愛知県「大須事件」、「吹田事件」)の様な暴力的な行動に出る可能性もある。これは警戒すべき。
李: 在日社会の再編も余儀なくされるかも知れない。
朴: 可能性は十分ある。朝鮮総連は、バブルの崩壊と金正日が拉致問題を認めた事、無謬の存在である金正日が謝罪したと言う事で一気に衰弱した。それに匹敵する事態が起きようとしている。
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