公開:2021-08-10 10:52:33 最終更新:2021/08/12 5:55
本題の前に、今回のオリンピックでは台湾のメダル数が増加し、また、バドミントン男子ダブルスでは中国を破っての金メダルなので、台湾ではナショナリズムが高揚しているそうです。
上の画像はブログ主が作ったものですが、バドミントンのウィニングショットが上のような判定だったそうで、今、この画像が流行っていて、これを台湾の国旗にしよう!とか、バドミントンのペアがある銀行の所属なので、クレジットカードのデザインにしろ!といった声が上がっているそうです。
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以前のエントリーで、台湾国内で「台湾正名」(台湾名義で東京五輪に参加する国民投票=公民投票)の直前に、IOCから「台湾の名前ではオリンピックに出場させない」という趣旨の通知が届いたと書きました。
この時は文面を公表しなかったようで、真偽の程は分かりませんでしたが、いずれにしても、台湾のNOC(国内オリンピック委員会)、即ち、CTOC(チャイニーズタイペイ・オリンピック委員会)はそのように発表し、選手達に、「オリンピックの出場機会を奪わないでくれ」という記者会見までさせ、それによって「台湾正名」国民投票は反対が賛成を上回り、否決されました。
しかし、チャンネル桜『台湾ch』の番組で、実はその通知の内容は嘘だったという事が分かりました。
キャスター:永山英樹
ゲスト:王紹英(在日台湾同郷会前会長)
CTOCの意を汲んでか、分かり難く書いているのですが、「台湾名義なら出場させない」などとは書かれていません。
ここで抑えておく必要があるのは、民進党、特に蔡英文総統は、台湾正名には及び腰なのです。だから、宛先の一人が民進党の大臣(?スポーツ局長)であるにも関わらず、つまり、文面を知っていたにも関わらず、積極的には公表せず、マスコミも忖度したのだろうと王さんは語っています。
実際のIOCの通知を見てみると、確かに、1981年にIOCとNOCとの間で「チャイニーズタイペイ」という名前を再確認し、変えないという決定をした事は伝えていますが、むしろ、名称変更はIOCの承認が必要だという事(つまり、名称変更の申請はできる)、台湾のオリンピック運動が政治的干渉を受けてはならない、という様な事が書かれています。
以下、動画をキャプチャしながら描き写した、IOCからの通知を全文ご紹介しますが、状況は永山さんが説明しているように、台湾のオリンピック委員会がIOCに問い合わせて受け取った回答でしょう。
しかも、日付は11月16日なので、11月24日の公民投票の直前です。公民投票潰しのために慌てて回答を貰ったのだと当時も言われていました。
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International Olympic Committee 国際オリンピック委員会(←差出人)
NOC Relations Department 国内オリンピック委員会(←宛先)
Mr Hong-Dow LIN
President
Chinese Taipei Olympic Committee
中華台北オリンピック委員会 会長
Dr C. H. KAO
Director General, Sports Administration
Department of Education
教育部スポーツ管理局局長
Lausanne, 16 November 2018
Chinese Taipei - 1981 agreement 中華台北 1981年協定(←タイトル)
Dear Mr Lin,
Dear Dr Kao,
The IOC has been closely following the situation regarding the local referendum about the name of your NOC/delegation for the Olympic Games Tokyo 2020 (and other upcoming International sporting events), which is expected to take place on 24 November 2018.
① IOCは、2018年11月24日に実施が予定されている、東京オリンピック2020(および今後開催される国際的なスポーツイベント)の貴国のNOC代表団の名称に関する貴国での住民投票について、状況を注視しています。
The IOC does not interfere with local procedures and fully respects freedom of expression. However, to avoid any unnecessary expectations or speculation, the IOC wishes to reiterate that this matter is under jurisdiction, in accordance with the Olympic Charter.
② IOCは、貴国に於ける手続きに干渉せず、表現の自由を十分に尊重します。しかし、不必要な期待や憶測を避けるために、IOCは、オリンピック憲章に基づき、この問題が管轄下にあることを改めて強調したいと考えています。
The name of the Chinese Taipei Olympic Committee (CTOC) is currently determined by the agreement signed between the CTOC and the IOC in 1981, and any change to the name of the CTOC/delegation is subject to the approval of the IOC Executive Board, in accordance with the Olympic Charter.
③ チャイニーズタイペイ・オリンピック委員会(CTOC)の名称は、現在、1981年にCTOCとIOCの間で締結された協定によって決定されており、CTOC代表団の名称を変更する場合は、オリンピック憲章に従ってIOC理事会の承認が必要となります。
The IOC Executive Board has already examined this situation - at its meeting on 2 and 3 May 2018 in Lausanne - and decided to re-confirm the IOC's position and not to approve any change to the name of the CTOC.
④ IOC執行委員会は、すでにこの状況を検討しており、2018年5月2日と3日にローザンヌで開催された会議で、IOCの立場を再確認し、CTOCの名称変更を承認しないことを決定しました。
Consequently, the 1981 agreement remains unchanged and fully applicable, and neither the IOC nor the CTOC have any plans to amend the name of the NOC/delegation.
⑤ その結果、1981年の協定は変更されず、完全に適用されており、IOCもCTOCもNOC代表団の名称を変更する予定はありません。
In view of this, any attempts to exercise under pressure on the CTOC to breach the 1981 agreement and/or to act against the decisions of the IOC Executive Board would be considered as external interference, which might expose the CTOC to the protective measures set out in the Olympic Charter in these circumstances (Rule 27.9 in particular).
⑥ このことから、1981年の協定に違反するようCTOCに圧力をかけたり、IOC理事会の決定に反した行動をとろうとする試みは、外部からの干渉とみなされ、このような状況ではCTOCはオリンピック憲章に定められた保護措置にさらされる可能性があります(特に規則27.9)。〔※説明後述〕
Therefore, the IOC is hoping that the interests of the Olympic Movement in Chinese Taipei will prevail over political considerations, so as not to disrupt the CTOC delegation and the athletes in their preparation for upcoming International sporting events, and to avoid any unnecessary complication.
⑦ したがって、IOCはチャイニーズ・タイペイのオリンピック運動の利益が政治的な配慮よりも優先され、CTOC代表団と選手が今後の国際スポーツイベントの準備に支障をきたさないように、また不必要な複雑さを回避することを望んでいます。
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確かに①~⑤を読むと、名称は変更できないと読めます。但し、一般的には、③にあるように、IOCの承認により変更はできます。
問題は⑥ですが、オリンピック憲章の規則27の9を読まないと意味が分かりにくいかと思います。
9. IOC理事会はNOCの国内でのオリンピック・ムーブメントを保護するため、 その国で効力のある憲法、 法律、 その他の規則、 もしくは政府やその他の団体の条例がNOCの活動を阻害した場合、 あるいはNOCの意思の形成または表明を妨げた場合、 オリンピック憲章違反に適用される対応措置と制裁のほか、 NOCの承認の取り消し、 または資格停止を含む、 適切なあらゆる決定を下すことができる。 IOC理事会はそのような決定をする前に、 NOCに釈明の機会を与えなければならない。
オリンピック憲章 Olympic Charter 2019年版・英和対訳(2019年6月26日から有効)
簡単に言えば、その国のオリンピック委員会に政府などが圧力を掛けてはいけないという事です。
仮に公民投票で「台湾正名」が可決されていたら、台湾のオリンピック委員会は名称変更の申請をしなくてはなりませんでした。承認されるかどうかはまた別の話です。しかし、この手続きをしたくなかったので、嘘をついたのでしょう。
全体的には、台湾のオリンピック委員会の意向に沿った文章だとは思いますが、嘘をついてまで「台湾正名」公民投票に水を差したのはオリンピック協会です。
ちなみに、公民投票が行われた総選挙では民主党が大敗。昨年1月の総統選挙で蔡英文氏に敗れた国民党の韓国瑜(カンコクユ)氏が、総選挙では大人気で高雄市長に当選しました。その後、香港の民主運動弾圧や中国の嫌がらせが“追い風”となり、事前調査で韓国瑜氏に負けていた蔡英文氏が大逆転したのでした。
幸い、一度は気持ちが萎えた「台湾正名」運動が、東京オリンピックをきっかけに復活したので、期待したいと思います。

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