【ハングル抹殺】日本統治時代の科目『朝鮮語』
前回のエントリーで「第三次朝鮮教育令」(1938年・・・ハングルが随意科目へ→実質的に廃止)について書きましたが、以前ご紹介したパク・ワンソ(朴婉緒/박완서)という1931年生まれの作家の自伝的小説によると、8歳で小学校に入学した時は既に「ハングル(朝鮮語)」の授業は無かったそうで、彼女は幼い頃に母にハングルを教えてもらったので読めたそうですが、周囲の同級生は読めなかったそうです。彼女と友達は一時期、図書館に行って本を読む事に熱中しますが、読む本は日本語に翻訳された外国文学(「ああ、無情」や「小公子」)でした。
下は『百年歴史』さんのブログ〔※後述ブログ1〕からお借りした画像ですが、やや高学年向けの『朝鮮語読本』だそうです。
伝染病をテーマにした文章ですが、『理科』の教科書ではない事に注意して下さい。
他のページを見ても、朝鮮語〔=国漢文(漢字ハングル交じり文)〕で書いてあるというだけで、コンテンツは、現代の我々が『国語』の教科書と聞いて想像するような現代小説や古典文学ではなく、ハングルの歴史や朝鮮の風習等、各章毎に様々なテーマについて、朝鮮語で書かれた文章が集められた形式です。
確かに、朝鮮語の語彙は増やせるでしょうが、章のテーマによっては、上の様にほぼ日本語の語彙です。例えば「天然痘」という単語がありますが、この本を音読する場合はこれを「천연두(チェネントゥ)」などと朝鮮語読みするのでしょうか。もし、『理科(科学)』の時間に同じ内容を学ぶとしたら、「てんねんとう」という単語を覚える必要があったでしょう。
百年歴史さんは過去のエントリーと最新のエントリーで、学校の授業から『朝鮮語』が無くなっていく合理的な理由を説明されています。
- 2021. 6. 24. 조선어 교육의 실태, 한일합방기, 조선총독부는 조선어 사용을 금지했을까?(총정리)/4. 朝鮮語教育の実態、韓日併合期、朝鮮総督府は朝鮮語の使用を禁止したのだろうか?(総まとめ)
- 2024. 4. 26. 일제시대 학교의 조선어수업시간/日帝時代の学校の朝鮮語授業時間
彼がブログで仰りたい事は、
- (教材に使える)朝鮮語のコンテンツが少なかった。
- 朝鮮語は(学校に於いては/進学するには)役に立たない教科だった。
と言う事です。2は、朝鮮語の授業は、あくまでも学校/進学準備に於いては、ですが、無駄な時間だったのです。特に上級の学校に進学する場合、日本人の生徒と張り合う為には朝鮮語で取られた時間はハンデにもなりました。
【追記】1945年の朝鮮の通知表を幾つか見たところ、6学年の期間で1年か2年、朝鮮語の成績が付いていたので、全く無くなった訳ではなく、基礎的な事は教えていたようです。
◆試験科目から『朝鮮語』が排除されたわけ
日本統治時代から「受験地獄」〔시험지옥(試験地獄)〕という言葉があったそうで、「일제 강점기 시험지옥」(日帝強占期 試験地獄)で検索すると、幾つかの記事が見つかります。下記の記事によると、当時あった事件は、「試験に落ちた子が自殺した」とか、「試験の前日、重圧に耐えきれず家出し、発狂した状態で発見された」、「試験中にいきなりナイフで手を切って、答案用紙に『この試験に不合格なら自殺する』いいう血書を書いた」とか... 相当、受験のストレスがあったようです。科挙の国だからでしょうか。
- KBS(2010-09-25):일제강점기 입시전쟁 /日帝強占期試験戦争
下の記事は、全鮮の中学校長が「入試科目を国語(日本語)と算数のみに縮小すべき」という決議をしたという内容です。
上述のKBSの記事から引用します。
>入学難が社会問題に飛び火すると、総督府もこれ以上手を拱いているわけにはいかなかった。 1934年12月、総督府は入学難解消のための「画期的」措置を断行した。 「入試準備教育撤廃」という名前の措置で総督府は初等学校で中等学校入試教育を禁止し、中等学校入試科目を国語と算術2科目に制限し、初等学校校長が作成した所見表〔内申書?〕を中心に学生を選抜させた。 しかし、競争率が10:1を超える試験を控えて、学校で入試教育をしないからといって受験生が入試準備をしないわけでもなく、試験科目を縮小したからといって競争が減るわけでもなかった。 結局、総督府の「入試準備教育撤廃」措置は、世間の嘲笑を買うだけで、全く実効を上げることができなかった。
自分達では近代化できなかったくせに生意気な事を書いてますw が、総督府も受験準備の負担を減らそうとしたのでしょう。この頃から、一部の学校を除き、試験科目から『朝鮮語』が消えます。
百年歴史さんのブログ1には様々な中学の試験問題(新聞記事)が掲載されていますが、朝鮮語は漢文とセットになっていて、問題の形式は、「次の漢字(漢語)の意味を朝鮮語で書け」とか、「朝鮮文を純漢文に翻訳しろ」というもので、日本で言えば、『漢文』の試験問題のようです。
我々が、試験科目に漢文が必須だったら、かなりの負担でしょう。
もちろん「皇民化」... 即ち、日本人として育てる為の目的があった事を排するつもりはありませんが、上記のような合理的な側面もあったのだと思います。
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