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2024/03/27

【韓国】日本人コレクター所有の国宝級の百済金銅観音菩薩立像、韓国の美術展に貸し出される

朝鮮日報日本語版に『「取り戻そう」という声が強かった百済の仏像、日本に持ち出し後95年ぶりに韓国へ』というタイトルの記事があったので、驚いたのですが、掲題の通り、京畿道竜仁市の湖巌美術館で開催される企画展(3月27日~6月16日)の為、所有者が貸し出しただけのようです。

韓国語の記事の「取り戻そう」の部分は「환수」〔還収, 他人の手に渡ったものを取り戻すこと〕となっていますが、単に価格が折り合わない為で、所有者と韓国政府との間で価格交渉が決裂したのは4年程前の事です。〔過去エントリー

以下、記事の一部をご紹介してから、この仏像について補足説明をします。

 

* * * *

https://www.chosun.com/culture-life/culture_general/2024/03/26/I64PBLQUMJGM5PC7CHU5I6VWS4/
“환수” 목소리 높던 백제 불상, 95년 만에 한국 전시 나왔다
https://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2024/03/26/2024032680079.html
「取り戻そう」という声が強かった百済の仏像、日本に持ち出し後95年ぶりに韓国へ
2024/03/26

百済の「金銅観音菩薩立像」
日本に持ち出された後、初めて韓国へ
湖巌美術館の企画展で公開

 日本に渡っていた7世紀の百済の仏像が、95年ぶりに故国の地で展示された。

 25日、京畿道竜仁市の湖巌美術館でメディアに公開された企画展「泥に染まらない蓮花(れんげ)のように」では、意外な作品が視線を引き付けた。卵型の顔、横長の目、真っすぐ伸びるすらりとした鼻筋。顔全体にほほ笑みをたたえた、百済の「金銅観音菩薩(ぼさつ)立像」だ。日本へ持ちだされたこの仏像が、1929年に大邱で展示されて以来、95年ぶりに韓国国内の展示で公開された。

 

▼【写真】記事よりキャプチャ
20240327_butsuzo

 高さ26.7センチ。頭には仏をたたえる宝冠をかぶり、左手には浄瓶を持った観音菩薩像だ。口角を上げてほほ笑みを浮かべた顔立ちは、若い青年を連想させる。湖巌美術館のイ・スンへ責任研究員は「すらりとした腰と軽くよじった骨盤が紡ぎ出す体の線が美しい」とし「青年の顔と女性の体が持つ美しさを調和させて組み合わせた姿は、百済の匠(たくみ)が到達した芸術的境地を示している」と語った。

 この仏像は、1907年に忠清南道扶余・窺岩面の寺院跡で発見された「金銅観音菩薩立像」のうちの一つだ。1点は韓国の国宝に指定され、現在は国立扶余博物館に所蔵されている。こちらの仏像は日本人収集家・市田次郞が買い入れ、日本へと搬出した。なお、搬出の正確な時期は確認されていない。

 2018年に日本の個人コレクターがこの仏像を持っていると公表し、話題になった。当時、韓国を代表する仏像専門家らが集まった評価会議で「仏像の鑑定価格は42億ウォン(現在のレートで約4億7000万円。以下同じ)」という結論を出し、国立中央博物館がこれを購入金額として提示したが、コレクター側は3倍以上の150億ウォン(約16億9000万円)を提示し、交渉は決裂した。湖巌美術館の関係者は「展示準備の初期から、この仏像を借りようと所蔵家側と接触していて、最後の最後で実現した」と明かした。〔後略

* * * *

 

国宝級なら、4億は安すぎるのでは?

同時に発見されて、一つは韓国の国宝になっているという『扶餘 窺岩里 金銅觀音菩薩立像』〔国宝 293号〕は下のものです。素人目に見ても、上の菩薩像の方が良く見えますね。韓国政府が喉から手が出る程欲しがるのは無理もありません。

 

▼【写真】Wikipediaより
부여 규암리 금동관음보살입상

 

韓国に貸し出すことに一抹の不安は感じますが、後述する日本人の手に渡った経緯から、韓国政府が差し押さえでもしない限り、対馬の仏像のような自称 ”所有者”(浮石寺)みたいなのは出てこないはずですが、恐らく、文在寅政権の時なら貸し出さなかったのでは?と思います。

 

朝鮮の建築と芸術』〔関野貞 著, 関野博士記念事業会 編/出版:岩波書店/出版年月日:1941〕P.504~によると、今回、韓国で展示される金銅観世音菩薩立像は、この本の出版時点では「大邱 市田次郎氏所蔵」となっています。

上記図書は閲覧にログインが必要なので、説明を写し取っておきます。

※漢字は新字に書き換え。適宜読点を補う。

此観音立像は明治四十年百済の旧都扶余の付近、窺岩面窺岩里より発見せしものにして、蓋付鉄釜内に次に挙げたる広瀬氏所蔵の小銅像と共に蔵(おさ)めてあったさうである。当時、憲兵隊に遺失物として保管し、一箇年経過の後、競売に附して二体共に某氏に落札せしを、大正十一年に至り市田氏が購入せられたものである。〔特徴など、後略

 

この次の項に「此像は前者と同時に窺岩里より出土せしもの」という金銅観世音菩薩立像があり、それが後に韓国の国宝になる菩薩像のようです。この時点では「庭瀬博幸 藏」となっています。市田氏所蔵の仏像が写真付きで1ページほどの長さの説明なのに対し、こちらはたった3行のみです。

 

鉄釜に仏像を入れたというのは、恐らく、李氏朝鮮時代の仏教弾圧/廃仏毀釈で、仏像だけは守ろうと隠したのだと想像します。

 

ところで、市田次郞という方は、国立国会図書館のDBでこの名前で検索すると、蒐集家としてひとかどの人物である事が分かりました。

この名前が出てくる書籍は、古瓦、銅鐸、陶磁器など多岐に渡り、『支那・満鮮の陶業を視て』〔加藤土師萠(かとう はじめ)著、昭11〕p.55にも言及があります。加藤土師萠氏は1961年に人間国宝に認定された陶芸家です。

加藤氏は、大邱の医師である市田次郞氏を訪ね、「貴重な蒐集品多数を拝見」したと書いています。

更に、「市田氏の蒐集は相当権威あるものとなっている。突然の申し入れに対して、見せたのは宮様以外にはないそうで... 」、「市田氏の蒐集は無傷ものの逸品ぞろいで、一寸(ちょっと)博物館にも無いような絶品がある」などと書かれています。

その他、市田氏が所有していた菩薩立像は国立博物館の『Museum』という本(1955年11月)にも記述があり、他の2体(庭瀬氏藏、東京芸術大学藏)の百済時代の菩薩立像に比べて評価はかなり高く、日本に於いても貴重なもののような気がします。

本来なら、博物館に展示されるべきなのかも知れませんが、日本政府が買い入れたりしたら、あの国が五月蠅く騒ぐでしょう。

 

* * * *

【追記 2024/03/28】当初、引用していませんでしたが、今回は東京国立博物館など、海外からも所蔵品を借りているので、その部分も記事から転載しておきます。

 27日に開幕する今回の展示は、東アジア仏教美術に「女性」という観点から本格的に光を当てる、初の展示だ。韓国・中国・日本の仏教美術のスポンサーとなり、制作してきた女性たちに焦点を合わせた。湖巌美術館は、韓国国内および海外合わせて27カ所から仏画や仏像、写経、螺鈿(らでん)経箱、刺しゅう、陶磁器など仏教美術品92点を集めた。米国のメトロポリタン美術館、ボストン美術館、ドイツのケルン東アジア美術館、東京国立博物館など米欧日18カ所から遺物52点を借り、韓国国内からはLeeum美術館など9カ所が所蔵する国宝1点、宝物10点など40点が出品された。

今回の展示では、福岡・本岳寺蔵の15世紀の朝鮮仏画「釈迦誕生図」とドイツ・ケルン東アジア美術館蔵の「釈迦出家図」が初めて一堂に会する。

 

 

  


 

 

 

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