『日本のイメージ 韓国人の日本観』(鄭大均 著)読書メモ(2)植民地世代とハングル世代
以前のエントリー『【韓国語に於ける日本語】日本語語彙を「日帝残滓」と言うけれど...』に引き続き、『日本のイメージ 韓国人の日本観』(鄭大均 著/中公新書/ 1998/10/25)の読書メモです。
「第二章 世代の裂け目」では、「植民地世代」、「ハングル世代」と、日本統治時代の記憶や名残のある時代の世代と、それがすっかり消えた世代に分けて論じられています。
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※ページはKindle版故、目安としてください。〔〕内は筆者(ブログ主)による補足。
植民地世代
植民地世代に共通するのは、日本統治期に普通学校に通ったとか、日本の活動写真や漫画に夢中になったとか、日本人と喧嘩をしたというような体験で、それは当然の事ながら郷愁を伴う物である。(p.64) 〔しかし、〕解放後の彼等に期待されたのは植民地時代への郷愁を自らに禁ずるという態度である。(p.75)
この自己葛藤をオイディプス・コンプレックスに喩えるのは言論学者の崔禎鎬(延世大学教授 33年生)である。(p.75)
この世代が過去を語る時、より一般的に見て取れるのは、反帝国主義や反植民地主義という解放後のPC(ポリティカル・コレクトネス=政治的適正)に沿って植民地世代時代を語るという態度で...(p.80)
ハングル世代
彼等は、社会化の過程で、否定的な日本人のイメージをよく刷り込まれており、植民地世代が経験する自己葛藤や自己懐疑からは比較的自由である。(p.82)
〔著者が韓国の大学で日本語を教えていた時に女子大生が書いた作文 ... 日本人同級生と接して自分の中の「日本人観」が揺らいだという内容 ... を引用して、〕この女子大生に見て取れるのは、むしろ、規範との葛藤であるが、その種の葛藤がより劇的に経験されるのは、ハングル世代が日本を経験した時である。(p.88)
一方には、日本体験をとおして、日本の否定性を発見する者もいる。KBSの東京特派員として90年代初の日本を体験した田麗玉〔1959年生/『悲しい日本人』(原著:『日本はない』)の著者〕は...。(p.90) 懐疑主義や対抗意識は、氏のようなハングル世代のエリートには広く共有されたもので、それは自尊や自己肯定の感覚と表裏一体のものである。
〔田麗玉のような〕新しいタイプの韓国人が出現し始めたのは80年代後半以降のことであり、この時期は韓国ナショナリズムが昂揚した時期であると共に、日本においては「共生論」という名の多文化主義が台頭し始めた時期でもある。(p.93)
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以下にご紹介するのは、2024年1月29日付け『産経新聞』の「正論」コーナーに掲載された荒木信子氏の寄稿文です。
荒木氏はこの本(『日本のイメージ 韓国人の日本観』)と同様な手法で書かれた『韓国の「反日歴史認識」はどのように生まれたか: 終戦から朝鮮戦争までの南朝鮮・韓国紙から読みとく』(草思社、2023/3/31)の著者です。ちなみに、拉致問題の荒木和博 拓殖大学海外事情研究所教授の奥様でもあります。
この記事を引用するのは、上記「植民地世代」、特に軍政期に通じる事が書かれているからです。
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軍政期(米軍占領下の3年間)の南朝鮮では、対日協力者のような人々は縮こまり、海外から共産主義者や独立運動家が戻り、後者は知識層でもあったので言論界も彼等が牛耳り、『反日』がポリコレとなります。これは米国の宣伝にも合致するものでした。
しかし、一方で、町には日本食の食堂など日本の痕跡がまだ多く残り、それを享受していました。また、メディアは日本で今流行っている映画を紹介したりして、南朝鮮の人々は今ではもう手の届かない日本文化を外から眺めていました。
小見出しに「過去と相似する韓国の反日」とありますが、今とよく似ていると思います。
ブログ主の印象ですが、荒木和博氏と信子氏とでは日韓関係に対する見方が少し違う様に思えます。
荒木和博教授はよく、「韓国人は日本の文化が好きだし、何だかんだ言って本当は日本が好きなんだ」みたいな事を仰るのですが、ブログ主はそれには異論があります。
それはあくまでも 韓国より優れている/美味しい/面白い/美しい/SNSで自慢できる、etc. ”日本文化” を消費・享受したいという欲望であり、社会全体のポリコレ統制が緩むか厳しくなるかの違いで、欲望を露わにするか隠すかの違いだと思っています。
尤も荒木教授は、慰安婦問題など個別具体的な問題に対して仰っている訳ではないのですが、どこか楽観的に聞こえます。
彼等には強固な民族主義があり、それは理屈ではない ... 慰安婦問題に見られる様に、事実は既にいくらでも提示されているのに、大部分の人はそれに目を向ける以前に、生理的・感情的な部分で拒絶している様に思えます。まぁ、これはブログ主が動画や記事のコメント欄に(まさか日本人が読んでいるとは思わずに)書く本音から感じる事で、定量的に示す事はできませんが。
従って、荒木信子先生が文章の最後を結んでいる、「『解決』できるとはとても思えない」に同感です。
ただ個々には、実証主義的な韓国人はおり、そういう方々がSNSやYouTubeなどで発信できるくらいには寛容にはなってきているのは確かです。
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