『朝鮮統治問題論文集 第1集』(李種植 編/出版者 井本幾次郎/1929)
『朝鮮統治問題論文集』〔※〕は「X」で相互フォローしている韓国人の方に教えて戴いたもので、1910年以来、各種新聞や雑誌に発表された、如何に朝鮮を統治すべきかを論じた論文約50編を、編者(李種植)が蒐集し、併合から約18年経った1929年にまとめたものです。
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跋(ばつ=後書き)によると、3回編集し直して、同好の士にのみ配布していたものを、今回、公に出版する事にしたとの事です。
この本に収められている論文は、各識者が様々な視点で ”朝鮮統治かくあるべし” という意見を述べており、政府の意見というわけではありません。
編者によると、朝鮮の統治方法は大きく分けて「内地延長論」と「朝鮮自治論」2つの趨勢があり、前者は内地の延長として、後者は従来通り別個の政府の自治をすべきというもので、結論としては、内地延長主義でまとまりつつあるとしています。
方向性が決まったので、今後は理想論を排し、内地延長策を中心とした方法論が出る事を祈る、と結んでいます。
目次は後述する事にして、例えば2つめの論文「文明伸張」(松岡正男 著〔※〕)では、まず、「植民地の意義」について各国の例から考察しています。
※松岡正男(まつおか まさお/1880~1944):青森県出身。京城日報社社長 毎日申報社社長 時事新報社社長 羽仁もと子の弟。
※羽仁もと子:日本における女性ジャーナリストの先駆け。また、自由学園および婦人之友社の創立者。家計簿の考案者としても知られている。
今日、「植民地だ/いや併合(国の一部)だ」と、朝鮮統治に関する議論がありますが、ブログ主が以前書いた様に、「併合」とは『行為』であり、「植民地」は『その結果得た領土』の事であり、そもそも比較になるものではありません。
この論文でも、『植民地』の定義を論考しています。
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※以下、漢字は新字に直し、読みやすい様に読点を適宜挿入しています。また、フォントの大きな文字は原文では傍点が振られています。
フランスの有名なる批評家、マクス・オーレルは英国の領土拡張を評して、
『ジョンブル〔=英国人〕は如何なる所でも巧妙な理屈を述べる。彼等は明白に侵略せる邦土に対しても、侵略とは断じて言わない。彼等曰く「我に汝の邦土を与えよ。我は汝にバイブル ... 聖書等を与へん。」これ交換にして強奪ではない。』といって、侵略を糊塗しているといっている。しかし、そういう仏国人の植民地も、その大部分は征服によってから得たものであります。
しかし、総ての植民地は征服によったものでありません。買収によったものであり、また併合によったものもあります。例えばこれを米国植民地に見るに、アラスカは露国より買収したもの、ハワイは併合したものであります。然らば植民地とは如何なるものであるかといへば、これには、文字上の見解、実際の事実に立脚せる解釈、または法制上の見地から論ぜるもの等によって相違がありますけれども、今日学者の一般に認める所の定義を申し上げますれば、『植民地とは本国に従属せる領土であって、これが行政は母国と異なるけれども、しかもその間、政治または法律的連鎖の存在するものをいふ』といふのであります。
即ちこの定義から見まするならば、日本帝国内にあって内地と行政をこと〔異〕にするもの、即ち、朝鮮、台湾、樺太の植民地であることは勿論でありますが、北海道も琉球も二十年ばかり前までは植民地と称すべきものであったのであります。即ち植民地といふ名称は、今日では行政上の便宜から設けられた名称でありまして、殊に我国において何等その他に意味のないのであります。〔中略〕
植民地といふからといって、母国より劣等なるもの、母国に利益の搾り取らるべきものと解するは、大なる誤りであります。
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「行政は母国と異なるけれども、しかもその間、政治または法律的連鎖の存在するもの」とは、例えば、内地では国民徴用令や女子挺身勤労令が発令されても朝鮮では適用されず、しかし、政治的には戦時体制で、募集や官斡旋で労働力を内地に供給したり、学校単位で挺身隊を集めたり、挺身隊になれる程のスキルの無い者でも、奉仕隊のようなものが多数結成されました。
調べたら、韓国でも2023年6月30日に翻訳出版されていましたが、その説明欄を読むと、「植民地統治を美化し正当化しているので、読む時には注意せよ」などと書いてありました。この本を手に取る様な読者ならば、各論文がどのような目的で書かれたのかを読み取るリテラシーくらいはあると思うのですが...。
- 일본의식민지 조선통치론 ‘내지연장론’과 ‘조선자치론’
이종식(李種植)著/최은진 訳
* * * *
目次
朝鮮自治論と内地延長說…小松綠/(1)
文明伸張…松岡正男/(4)
國民參政の階梯としての朝鮮地方自治…松岡修太郞/(16)
朝鮮問題と政黨…能勢岩吉/(20)
朝鮮に自治を許せ…國民新聞/(21)
朝鮮人國外移住と愛蘭の例…鶴見祐輔/(22)
帝國議會と朝鮮代表…大垣丈夫/(23)
内地延長の精神で事業を起せ…團琢磨/(25)
帝都を京城に遷せ…難波淸人/(26)
半島に於ける國際勢力の消長…篠田治策/(28)
内地人の半數は朝鮮人の後裔…大垣丈夫/(32)
朝鮮の現在及將來…千葉了/(35)
考慮を要する朝鮮の軍情…丸山鶴吉/(55)
未發見の朝鮮人…牛丸潤亮/(69)
内鮮問題の歸結…大木遠吉/(71)
朝鮮縣治論…京城新聞/(72)
内鮮人の進路…細井肇/(73)
治安上より見たる朝鮮事情…藤原喜藏/(81)
議會に對する朝鮮人の心理…朝鮮公論/(88)
理解より融和へ…杉市郞平/(89)
朝鮮の新血液…京城日報/(95)
拓務省所管の利を靜觀せよ…生田淸三郞/(97)
朝鮮統治の根本義…副島道正/(98)
獨立思想と敎育の方針…朝鮮地方行政/(104)
時代に目醒めつつある朝鮮人の思潮…釋尾東邦/(105)
朝鮮統治の方針…矢内原忠雄/(106)
朝鮮統治の根本義…小久保喜七/(122)
諺文投票を有効とせよ…大阪毎日新聞/(125)
朝鮮總督の地位…京城日日新聞/(127)
朝鮮の民心を考慮せよ…渡邊定一郞/(128)
治めずして治まりし朝鮮民族…漢江漁夫/(129)
内鮮還元に就いて…小松寛美/(130)
政黨政治と朝鮮問題…土師盛貞/(143)
内鮮融和の一考察…朝鮮警察新聞/(150)
朴烈事件…牧野英一/(152)
誤れる植民地敎育政策…山本美越乃/(154)
日本の朝鮮政策…アレクサンダーバウヱル/(155)
朝鮮問題について…守屋榮夫/(161)
民族の歸趨…河野節夫/(174)
理解と同情…中村健太郞/(182)
内鮮融和促進の方法…飯島傳三郞/(190)
朝鮮統治策私見…上塜司/(194)
朝鮮統治論…天野行武/(208)
朝鮮問題と愚見…新羅亮/(222)
社會及敎育に關する事項…岩本善文/(226)
日韓併合の由來に鑑みて…高橋章之助/(239)
三人寄れば七つの團體…伊藤韓堂/(250)
朝鮮統治の根本問題…藤井寛太郞/(251)
永劫に渝りなき我が國策…有賀光豐/(263)
朝鮮人の疲弊を救へ…權藤四郞介/(264)
内鮮時局論の趨勢と内地延長論の骨子…編者/(265)
跋…編者
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