【2015年慰安婦合意】(1)金柄憲(キム・ビョンホン)所長は何故「慰安婦合意を破棄せよ」と主張するのか?
国連などで海外に向けて慰安婦の真実を発信していらっしゃる『なでしこアクション』のサイトに、「慰安婦法廃止国民行動」代表であり、韓国の歴史教科書の歪曲を正す「国史教科書研究所」の金柄憲所長の論文が掲載されました。
- 金柄憲氏 論文 「日本軍慰安婦問題~全世界を騙した国際詐欺劇をいかに解決すべきか? 」 October 14, 2023
ソウルの旧日本大使館や釜山の領事館前に設置されている慰安婦像はウィーン条約違反であり撤去すべき、という主張は日本人と同意見であり、この論文の主旨はおおよそ理解できるのですが、その中に『廃棄すべき「2015日韓慰安婦合意」』という一節があります。
実は金柄憲先生は以前からこのように主張されているのですが、日本側としては、道義的な謝罪と10億円と引き換えに、韓国側は慰安婦像の撤去に向けて努力する事を、”最終的かつ不可逆的に解決されることを確認” したのだから、約束を守れ、という立場です。
cf. 外務省HP:日韓外相会談 平成27年12月28日
我々は、その進展が全く見えないのに文在寅大統領が「和解癒やし財団」を勝手に解散した事に不満を持っているわけです。
それでは何故「慰安婦合意」に関して金柄憲先生の意見と日本人の意見にこのような齟齬があるのか、分析してみたいと思います。
以下、該当部分だけでも長いので、合間にブログ主のコメントを挿入します。
* * * *
廃棄すべき「2015日韓慰安婦合意」
2023年3月、日韓首脳会談で岸田首相は韓国が提示した「徴用問題第三者返済案」について、「日本政府としてはこの措置について非常に厳しい状況にあった両国関係を健全な関係に戻すためのものと評価している」と言及するとともに、尹大統領に2015年の「日韓慰安婦合意」の着実な履行を要請したというメディア報道がなされた。 このことから見ても岸田首相が考える慰安婦問題の解決策は「2015年日韓慰安婦合意」の履行であることは明白だ。 2015年当時、日本外相として合意を主導した当事者であるから、当然のことかもしれない。しかし、「2015年日韓慰安婦合意」はそもそも合意してはならない「合意」だった。
”そもそも合意してはならない「合意」” というのは、ブログ主も同意します。「これ以上、謝罪も金も払う必要は無い」というのが、ブログ主が知る限り、多くの保守の意見ではありました。
では、金柄憲先生はなぜ合意してはならないと考えるのでしょうか。このあと理由が述べられます。
その根本的な理由は合意の適用対象がいないという点だ。〔←※後述〕 先に述べたように韓国における「慰安婦被害者法」第2条1号に合致する「日本軍慰安婦被害者」は一人も存在しないからだ。「合意」は「日本軍慰安婦被害者」がいないのにいることを前提とした合意だ。
もう一つの理由は、「合意」の詳細が、現在、韓国で有効な法律として存在している「慰安婦被害者法」に反しているからだ。 実際、慰安婦合意の韓国側表明事項には「在韓日本大使館前の少女像について、関連団体との協議などを通じて適切に解決できるよう努力する」とし、日本大使館前の少女像を撤去する可能性も示唆した。 しかし、これは「追悼事業及び慰霊事業等の事業を行うことができる」とした同法第11条1項と4項に背馳している。
慰安婦被害者法とは1993年6月11日に公布されたもので、改正を経て今日まで運用されています。現在の正式名称は『日帝下の日本軍慰安婦被害者に対する保護·支援及び記念事業等に関する法律』。
1993年というと、盧泰愚(ノ・テウ)大統領から金泳三(キム・ヨンサム)大統領〔2月25日~〕に代わった年で、既に個別の慰安婦訴訟は始まっていましたが、金泳三大統領は「日本に物質的補償は求めない...韓国の予算で生活保護支援を行う」と発言し、元慰安婦の認定作業に取りかかりました。そして、8月4日には『河野談話』が出ました。後から分かりましたが、韓国側はそこに「強制性」を込める事を要求し、その結果誤解を招く悪文の談話が出来上がりました。その後韓国政府は、慰安婦被害者法に基づき、一時金500万ウォンと生活支援金の支給や住宅の提供が行われます。〔→年表〕
つまり、韓国のこの法律は「日帝/日本軍に強制動員された被害者」を救済する法律です。
金柄憲氏の主張は、国内法に合わないから二国間の約束を反故にしろというものですが、一方で、慰安婦被害者法に該当するような被害者は1人も存在しないとも仰っています。その理屈なら、廃棄すべきなのは慰安婦被害者法の方 だし、そもそも自分で「慰安婦廃止国民行動」という団体名を名乗っているではありませんか。
以下も、慰安婦被害者法と矛盾するから慰安婦合意の方を破棄すべきという意見が続きます。
また、「合意」は「今後、国連など国際社会において慰安婦問題に対し相互非難·批判を自制する」としながら「『教育·広報および学芸活動』、『国際交流および共同調査』などの国内外の活動」などの事業ができる」とした同法第11条3項及び4項についても背馳している。 慰安婦問題に対する教育と広報、そして国内外活動を持続するとしながら、非難·批判を自制することは到底不可能なことだからだ。
すなわち「合意」を実行するのには「慰安婦被害者法」を廃止しなければならないのに、その法律を廃止せず有効なままに合意している。
このように両立不可能な論理的に矛盾した内容だけでなく、現実的に日韓慰安婦合意が履行されれば、正義記憶連帯をはじめとする慰安婦運動団体は、「慰安婦被害者」は存在するのに非難が封じられるとして、激しく抵抗してくることは明白なことだ。彼らにとって慰安婦問題は事実や論理の問題とは関係なく、反日プロパガンダをするための問題であり、団体存立のための問題だからだ。よって歴史的な事実に合致もせず、しかも論理的欠陥性を内包するこのような合意は、彼らの強い抵抗を免れることはできない。 これに伴い、韓国は再び対立と葛藤の渦の中に陥ること間違いなく、慰安婦問題の解決はさらに遠のくであろう。
* * * *
韓国では日韓合意は「日本は加害を認めて謝罪した」とされています。(下記ポスト〔ツイート〕参照)
「(日韓)合意の適用対象がいない」とはこの事を指しています。「被害者はいないのになぜ日本は加害者であると認めるのだ!」という事です。
「2015年韓日合意」を認めるということは、「日本軍慰安婦被害者」の加害者が「日本軍」ということです。 「日本軍慰安婦被害者」の加害者が「日本軍」であることを認めますか?
— 國史正立 金柄憲 (@Byungheonkim2) October 14, 2023
「慰安婦被害者法に該当する女性はいないので、慰安婦被害者法を廃止すべき」という主張を実現するために、その間違った法律に矛盾するから2015年合意を破棄しろと言うのは不可解ですが、本音というかロジックはこうです。
↓ ↓ ↓
”日本政府が『日本軍が加害者』だと認めた日韓合意” 〔←実際は認めてはいない〕があるから、慰安婦被害者法が廃止できない。
「河野談話を破棄しろ」と言っていたときと同じです。
”朝鮮人女性の強制連行を認めた河野談話”〔←実際は認めてはいない〕があるから、慰安婦被害者法が廃止できない。
気持ちは痛いほど分かります。
金柄憲先生を始め、慰安婦問題の最前線に立っている方達がいくら実証的な歴史的事実を主張しても、世間は聞いてくれない。だから、政治的に変えようとされているのでしょう。
しかし、8月19日に李承晩学堂で行われた西岡力教授との懇談会で、李栄薫(イ・ヨンフン)博士はこのように語っていました。
歴史的事実を追求する立場でいつも違和感を抱く事の一つが、「日本政府も認めた」または「国連も認めた」。
それなら、日本政府とか国連とかそういうのが歴史の法廷において神の役割を果たすわけですが、歴史の事実はそのようなものとは関係がありません。
たとえ認めたとしても、歴史学者の努力によって明らかになる歴史の真実は別にあるのです。
歴史の真実は政治的に、外交的に決定されるものではなく、歴史学者の真実を追究する学問的努力によって決定されるのです。
国連の権威を借りるとか、日本政府も認めたとか、そして河野談話を挙げること自体、相当政治的なことです。
そのような面で、韓国は知識社会がもう少し率直でなければなりません。
※ここまでで十分ですが、最後まで書き取ります。
最近、秦郁彦先生の本を読み返してみました。その中の言葉で一番胸が痛かったのは、「韓国人はなぜ慰安婦の証言を検証しようとしなかったのか」です。
法廷で被害に遭ったと主張する人が現れたとき、裁判所は必ずその事実を検証する必要があります。
いくら無念であり悲惨であり、それが明白な事実に見えても検証しなければなりません。
歴史という法廷でも同じだと思います。
いくら国連が認めても、歴史学者が事実を追求する努力は別で進められなければならず、歴史の真実はそのようにして判明するのです。
歴史の記録に残るものですから、私はそう思います。
▲【日本語字幕】 「慰安婦問題の真実」 西岡 力 教授 招請 懇談会(2022年8月19日、李承晩学堂) 1:41:07~
ちなみに、李栄薫博士は、文在寅政権が慰安婦合意を事実上破棄した事を批判し、「和解癒やし財団」も元に戻すべきと仰っています。
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