【日本語と韓国語】『賊反荷杖』と『盗っ人猛猛しい」について
『賊反荷杖』〔적반하장(チョクバンハジャン)〕という言葉、覚えていらっしゃるでしょうか?
日本が2019年7月に韓国に対して「輸出管理厳格化」を発表〔当時は『ホワイト国』からの除外という形だが、その後、このホワイト国という分類は廃止〕した後に文在寅大統領(当時)が発した言葉です。
この言葉を日本メディアが「盗っ人猛猛しい」と訳した事で、多くの日本人が怒り、韓国でも話題になりました。
確か、『真相報道 バンキシャ!』(BS日テレ)で、東海大学の金慶珠教授が、「大袈裟に騒ぎすぎ。韓国では日常でもよく使われる表現」と言って、司会者が、「『おまいう(お前が言うな)』みたいな?」と聞くと、彼女が「そこまで軽い言葉では無いけれども...」みたいなやり取りがあった事を覚えています。
これを見ていて、日本語の「盗っ人猛猛しい」程きつい言葉ではないのだろうと理解しましたが、とは言っても、大統領ともあろう立場の人間が、他国に使うのはどうなの? と思った記憶があります。
何故、今更、この言葉を取りあげたのかというと、たまたま、朝鮮日報の鄭権鉉(チョン・グォンヒョン)論説委員の『韓日言語疎通の難しさ』と題するコラムを見つけたからです。〔記事後述〕
彼は、韓国人の割には比較的冷静な分析をする事が多いのですが、この『賊反荷杖』という言葉をコラムで取りあげて金慶珠氏のような文在寅擁護をして読者から突っこまれていたのが面白いと思ったので。
先にこの部分を抜き出して機械翻訳でご紹介します。
▶文在寅(ムン·ジェイン)大統領が日本を批判しながら使った「賊反荷鞍」という表現を日本のマスコミが過度に辞書的に翻訳報道したため、事態を悪化させたという日本の毎日新聞の指摘があった。 「賊反荷鞍」 は私たちの生活で「誤った人がむしろ怒る」という意味で使われる。 ムン大統領もそのような意味で書いただろう。 しかし、盗人猛々しい行為は日本では使われていない。 ところが日本メディアがこれを「泥棒がむしろ厚かましい」と翻訳したということだ。 「泥棒」が出てくると意味が大きく変わってしまった。
これに対するコメント欄の反論は概ね以下のようなものです。〔機械翻訳ママ〕
キョン·ジヒョン
2019.08.09 12:06:27
『賊反荷杖』が韓国では何かの「悪い人が怒る」ということで些細に使われるように言うが、どういうことなのか···。 むしろ『賊反荷杖』は「泥棒がムチを持つ」という意味そのまま相手を強力に非難し叱責することになるのが事実だ。
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イ·ハング
2019.08.09 08:36:33
論旨を曇らせている. 日本側の翻訳は正確で、それが今回の事態悪化の大きな理由ではない。そして安倍晋三首相への「日本は同盟ではない」という発言、安倍首相が用意してくれたケーキを「甘いものは好きじゃない」と手もつけなかったのは、言葉の疎通の問題が全くありえない明白な侮辱だ。 そして、イバー事態の端緒となった慰安婦合意破棄したことと徴用工判決を覆したことも、言語疎通とは関係のない文在寅の日本に対する無視と強い意志をそのまま表している。 それでも我慢できず、対応措置として優遇措置を廃止するというから、道が暴れている。 日本側の表現である泥棒がむしろ厚かましい(盗っ人猛猛しい〔←日本語で書かれていた〕)が似合う者は果たして誰なのか。
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非共感:1
おそらく、日本語の「盗っ人猛猛しい」よりは日常的に使われる表現というのは事実なのでしょう。しかし、韓国語でのニュアンスはさておき、文在寅の態度は、まさしく、「賊(泥棒)が開き直って杖を振り上げ、相手を殴る」状態であり、日本語の訳の方がピッタリではないか、それ程非礼な態度だ、というのが大方の読者の意見でした。
多分、鄭権鉉論説委員には、比較的「親日」というか、左派嫌いで常識のあるファンが付いていて、〔逆に左派は彼のコラムには見向きもしないから、左派のコメントは少ない。〕 それ故に彼らは結構シビアな評価をするのでしょう。
以下、コラム全文の機械翻訳です。
* * * *
https://www.chosun.com/site/data/html_dir/2019/08/08/2019080803514.html
【万物相】韓日言語疎通の難しさ
入力2019.08.0903:16
1990年に明仁天皇が訪日した盧泰愚(ノ·テウ)大統領に言及した「痛惜の念」は、後々まで謝罪の真正性論議を残した。 「痛くて残念な気持ち」という意味だが、直接的な謝罪の意味が含まれていないと言って反発を呼んだ。 2012年李明博大統領は再びこの言葉を取り出して、「(天皇が)痛惜の念のような表現を使うなら、韓国に来るな」と述べた。 しかし、韓国に友好的な天皇が政界の反対を押し切って悩んだ末に選択した表現だという回顧談が出た。
▶韓日両国は微妙な言語の違いで外交葛藤が増幅する場合がある。 日本と交渉しながら「前向きに検討する」という返事を聞けば、その交渉は失敗したものとみなすべきだ。 韓国では「検討」という言葉が積極的な意味だが、日本では面皮的な発言だったり否定的な意味が強い。 「遺憾」は正式な謝罪ではないが、韓国より日本ではもっと丁寧な感じで使われる。
▶同じ漢字語でも意味やニュアンスが全く異なる場合もある。 様々な面で優れた才能を持つ人を指す「八方美人」は、日本では誰にでもよく見えるように振舞う機会主義者という意味で通じる。 恋人とは不倫相手という意味だ。 韓国メディアがよく「極右」または「右翼」と呼ぶ日本の政治家たちは、このような表現を極めて侮辱的な意味として受け止めている。 日本では極右または右翼は敵軍派のようなテロ分子と同じ水準で公安警察の監視と牽制を受ける。
▶1995年に日本政府主導で設立されたアジア女性基金が失敗したのは誤訳のせいだという話がある。 当時、アジア女性基金側は被害者支援の性格を「償い金」と明らかにしたが、一部メディアが「慰労金」〔위로금〕と翻訳した。 この報道が出ると、当事者たちは「慰労金を受け取るわけではない。 日本政府の直接謝罪と補償を望む」と反発し、アジア女性基金の活動は中断された。
▶文在寅(ムン·ジェイン)大統領が日本を批判しながら使った「賊反荷鞍」という表現を日本のマスコミが過度に辞書的に翻訳報道したため、事態を悪化させたという日本の毎日新聞の指摘があった。 「賊反荷鞍」 は私たちの生活で「誤った人がむしろ怒る」という意味で使われる。 ムン大統領もそのような意味で書いただろう。 しかし、盗人猛々しい行為は日本では使われていない。 ところが日本メディアがこれを「泥棒がむしろ厚かましい」と翻訳したということだ。 「泥棒」が出てくると意味が大きく変わってしまった。
* * * *
この中で、「賊反荷鞍」以外に面白いと思ったのは「八方美人」〔팔방미인〕です。
調べて見た所、特に中国の古典からの言葉という訳ではなく、日本の四字熟語のようで、元々は、①「どこから見ても美しい人」という意味だったのが、②転じて、「誰とでも愛想よくつき合う人。」という、軽蔑の意味を持つようになったようで、韓国語の方が正しいと言えば正しいのです。
但し、プロレタリア文学の宮本百合子(1899~1951)の小説『海流』(1937年/昭和12年)で、「泰造には深いところがない。思索的なところがない。八方美人である。」と、朝鮮の日本統治時代でも既にネガティブな意味で使っているので、朝鮮人には表面的な意味だけが伝わったのかもしれません。
取り敢えず、韓国人から「あなたは八方美人〔팔방미인/パルバンミーイン〕ですね」と言われても怒らないようにしましょう。
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