【韓紙】「溜め漉き」と「流し漉」
前回のエントリーでご紹介した『Wow!Korea』記事〔=国立山林科学院の記事〕は誤訳以外にも誤解を招く点があるので、補足のためにエントリーします。
誤訳を訂正したり、読みやすく漢字表記に変えた上でその箇所だけ抜き出して再掲します。
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(前略)同院とチョ・ヒョンジン韓紙研究所は、文献と現地にある実物の調査を通じて、この「簀(す)」と「漉桁(すきげた)」は、紙をすく技法の1つ「溜め漉き」用の道具であり、韓紙の製作にもこの技法が使われていたことを明らかにした。
紙をすく際はまず、2人が「漉桁」の縦方向に沿って向かい合った後、「簀」の両端に、長さ120センチメートル、縦と横が2.5センチメートルの角材を1つずつ置き、両手でつかむ。その後、水に混じった紙の原料を足踏みで漉くと、角材2つとすだれの両端にある木材2つが、囲み枠として作用する。水が簀を通過しつつ、原料は簀の上に残るという仕組みだ。
韓紙の技法は「流し漉き」以外、とくに伝わっているものはない。現在さまざまな工房が使う「溜め漉き」の手法は、日本の植民地時代に普及が進んだ日本式の技術となる。
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「流し漉き」と「溜め漉き」という2つの製法の違いは後回しにして、製法に絞って見ると、朝鮮では「流し漉き」が伝統的製法であり、日本統治時代に「溜め漉き」が普及したので、現代の韓紙工房で見られる「溜め漉き」は伝統的ではない、と言う事になりますが、「溜め漉き」に置き換わってしまったように誤読する可能性があると思いました。
前回のエントリーでもご紹介した論文にも、”伝統的製紙法で、楮を原料とし、その楮の繊維を絡ませるのに適した漉き方、つまり漉き桁を揺り動かす「流し漉き」の技法を持つのは韓国と日本ぐらいである。” とあり、どちらも1936年のダード・ハンターの著書を根拠にしているので、同じはずですが、日本統治以前は「流し漉き」であったと書かれています。
現代の「韓紙」は伝統的な「流し漉き」と日本から伝わった「溜め漉き」が混在しているわけですが、更に誤解を招きそうなのが、現在、「流し漉き」によって作られる「韓紙」が朝鮮時代のままなのか?、というと違うからです。
ここで、この2つの製法の違いですが、「流し漉き」は、恐らく多くの日本人が紙漉きというと思い浮かべる方法です。
原料の溶け込んだ水に何度も「簀」をくぐらせて、揺らしながら厚みを増して水を切る、という方法ですが、あの水に粘度があるのは「トロロアオイ」が使われているからです。トロロアオイを使う製法は日本統治時代に朝鮮に伝わりました。
※ダード・ハンターは朝鮮にも「流し漉き」があったと書いていますが、『越前和紙の里 卯立の工芸館』のサイトには、”流し漉きは奈良時代の終わりから平安時代の初めに、ねりの発見とともに開発された日本独特の漉き方。” とあり、この「ねり」とは植物粘質物、即ちトロロアオイのような植物なので、朝鮮の「流し漉き」には「ねり」を使わなかったと思われます。
もう一度繰り返すと、李氏朝鮮時代には「流し漉き」で紙を漉いていましたが、その厚さは均等では無く、2枚(以上)を重ねて打つ事で、厚く丈夫にした〔但し、絵を描くような用途には適さない〕紙が伝統的な「朝鮮紙(韓紙)」でした。
現代の「伝統的な『韓紙』製造」風景
『wasa@11ukのページ』というブログで見つけた動画です。
動画「Making hanji: Korean papermaking by Shin Hyun Se」の直接リンクはこちら
朝鮮の「流し漉き」もまた、日本統治時代に進化したのです。
もう一方の「溜め漉き」は、原料液を一回だけ汲んで、そのまま〔あるいは揺らして〕水を切る方法です。幾つか画像を見てみましたが、桁(枠)の部分が厚くなっていて、一度で多くの繊維質をすくい取れるようにしてあるようです。
上の画像は、『Future Learn』というサイトの「製造方法:漉き方」というページの動画をキャプチャした「溜め漉き」の作業風景。この動画では、同じ原料液を使って、「流し漉き」と「溜め漉き」の両方を実演しています。
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