前回のエントリーで、日本には一見メリットがなささそうな経済小国とも二国間通貨スワップは結ぶという例をご紹介しました。日本には経済的なメリットはなくても、日本が経済的な保証を与える事で二国間の良好な関係を保つという意味合いです。
良好な関係とは漠然とした言い方ですが、スワップがあることで、例えば、新幹線導入といった巨大プロジェクトを日本企業が受注しやすくなったりと、間接的に日本にもメリットがある可能性があります。
韓国に対する通貨スワップも基本的にはそのような性格のものだったと理解しておいて下さい。また、韓国に対して片務的とも言えるスワップ枠の拡大は悪夢の民主党政権の時に行われたものです。このことも覚えておく必要があります。
ところで、2020年3月に、麻生太郎副総理兼財務相(当時)が、6~7年前の事〔つまり、2013~2014年頃〕として、韓国側がスワップは不要と言い出した事に言及し、「『本当にいいのか?』と聞いたが『日本がお願いするならしてもいい』と答えたのでそれっきり」という趣旨の発言をしたので、ネットではそこで完全終了したという話が伝わっています。
スワップ終了に関してはそれで正しいのですが、実際は2016年8月〔朴槿恵政権〕に再び韓国側がスワップを申し込んで来て、協議には入ったのです。しかし、朴槿恵弾劾、釜山に慰安婦像が建った事等、韓国政府が機能不全に陥ったり日韓関係が険悪になり、協議は中断されてそれきりになりました。
以下の中央日報は、「打ち切ったのは日本側だ」と責任転嫁する記事ですが、大筋の流れとしては間違っていないので、まずは、この記事を紹介して、その後、もう少し詳しく見ていく事にします。〔丸番号は便宜上、ブログ主が振りました。〕
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https://s.japanese.joins.com/JArticle/264227?sectcode=A10&servcode=A00
麻生氏、韓日通貨スワップに言及 「誰が頭を下げて金を貸すか」
2020.03.30 07:16
新型コロナウイルス感染症(新型肺炎)の拡散で、その必要性が提起されている韓日通貨スワップ協定の締結に対し、日本側の担当閣僚である麻生太郎副首相兼財務相が否定的な反応を示した。
韓国の丁世均(チョン・セギュン)首相が今月27日、外信記者懇談会で「(米国に続き)日本との通貨スワップの締結は正しいと考える」と明らかにした直後だった。
麻生氏の関連発言は、この日午後4時50分から行われた記者懇談会だった。
麻生氏は、実際に提案が今年のような場合にはどのように対応すべきかについてはひとまず言葉を控えた。だが、過去の韓国との交渉経験を紹介しながら「日本としては残念に思う部分はない」という趣旨で、否定的な内心を表わした。
懇談会の末尾に記者から「日韓通貨スワップ協定再開を要求する声が韓国から出ているが、どう思うか」との質問を受けた麻生氏は、まず「今から6~7年前の話」と話を切り出した。
「6~7年前ぐらいに(スワップ協定の残額が)日本銀行に50(億ドル)、財務省に100(億ドル)ほど残っていたが、(韓国に)『大丈夫か』と確認したところ、『大丈夫だ』との返事が返ってきた。だからそれ(通貨協力の規模が)が減った。その時、『本当にいいのか』と聞いたら、韓国は『(どうか)借りてくださいと(日本が)言うなら、借りることもやぶさかではない』と答えた。(金を貸す側が)頭を下げて『借りてほしい』などという話は聞いたことがない。(それで)交渉テーブルを蹴って(交渉から)撤収した。それで終わりだ。スワップに対して韓国との間にあったのはそれが最後だった。今はどうなっているのかよく知らない」
記者が再度、「協定を求める声があるが、どうする考えか」と質問したが、麻生氏は「仮定の質問には答えられない」と述べるにとどまった。韓国からの公式な要請がないので答えられないというニュアンスだった。
両国が必要な時に通貨を互いに交換する韓日通貨スワップは、2001年に20億ドル(現レートで約2153億円)規模でスタート〔①〕した。その後、外為市場の動向や両国関係の推移によって規模に増減がありながらも、2011年には一時は700億ドル以上まで規模が拡大〔②〕 した。だが、2012年に李明博(イ・ミョンバク)元大統領の独島(トクド、日本名・竹島)訪問〔③〕などの余波でその後は増額分が更新されず、2013年7月には両国中央銀行間の協定が満了〔④〕した。
東南アジア諸国連合(ASEAN)+韓日中が締結した「チェンマイ・イニシアチブ」体制の中で、なんとか命脈を維持した両国間の100億ドル規模の通貨スワップ協定も2015年2月に満了〔⑤〕し、両国間の通貨協力はここで完全に切れた。
麻生氏が触れた6~7年前が正確にはどの時点なのかは確認されていない。だが、おおよそでは協定満了を控えた2013-2014年に両国の間でやり取りされた対話を指していると思われる。
麻生氏の主張通りなら、日本が「協定を延長しなくてもいいのか」と繰り返しその意志を打診してきたものの、韓国が「日本がお願いするならしてもいい」と硬直した態度を示したため延長交渉が決裂したということだ。
だが「韓国とのことはそれで終わりだった」という麻生氏の発言は明らかに間違っている。両国は2016年8月に通貨スワップ協定締結再推進にひとまず合意〔⑥〕した。
朴槿恵(パク・クネ)政府時期、当時の柳一鎬(ユ・イルホ)副首相兼企画財政副長官との会談で、協議開始に意気投合したのは麻生氏自身だった。
だが、釜山(プサン)日本領事館前の慰安婦少女像設置問題が発生して、2017年1月に日本政府は進んでいたスワップ協議を一方的に中断した。
当時、麻生氏は少女像の設置が「2015年韓日慰安婦合意違反」としながら「約束した話が守られないなら、貸した金も返ってくる可能性もない」と主張した。
突き詰めてみると、直近で韓日スワップ協定再開のテーブルを蹴飛ばしたのは、日本政府、特に麻生氏自身だったということだ。それでも麻生氏はこの直近の交渉には全く言及せず、スワップ協定延長不発のすべての責任を韓国側に転嫁したのだ。
27日の記者懇談会で言及した「金を貸すほうが頭を下げるという話は聞いたことない」という発言も、今後物議をかもす見通しだ。両国間協定で、韓国だけに恩恵があり、まるで日本は一方的に恩恵を与えるような侮辱的な言葉に映りかねないためだ。
* * * *
2016年当時の事を、「協議開始に意気投合したのは麻生氏自身だった」などと、まるで日本側が積極的だったかのように書いていますが、日本側が韓国による保証など必要ない事から、頭を下げてきたのは韓国側であることは間違いありません。
以下、時系列にまとめます。
* * 日間通貨スワップの経緯 * *
2001年7月4日、上限20億ドルのドル・ウォン間の一方向スワップ取極(日本から韓国へドルを供与)を締結。
- 2001年に20億ドル(現レートで約2153億円)規模でスタート とはこのこと〔記事①〕
2006年2月24日、それまでの取極にかえて、日本は100億ドル、韓国は50億ドルの双方向スワップ取極を締結。期限を2015年2月までとする。
2008年2月25日、*** 李明博大統領就任 ***
2009年9月16日 *** 日本、民主党政権誕生 ***
2011年10月、ドル・自国通貨スワップ協定。限度額300億ドル、2012年10月末までの時限措置。2012年10月31日をもって終了。
2011年10月19日、日韓通貨スワップの総額700億ドルへの拡充〔リンク先は外務省報道発表〕
- 2011年には一時は700億ドル以上まで規模が拡大した とはこのこと〔記事②〕
2012年8月10日、李明博大統領の竹島上陸〔リンク先はWikipedia/記事③〕
- 政権末期の支持率低下の打開策だが、日本側にとっては、恩を仇で返されたようなものである。
- cf. 2012年5月23日 大法院が元徴用工8人が三菱重工業と新日本製鉄を相手に起こした損害賠償請求訴訟の上告審で、原告敗訴判決の原審を破棄し、原告勝訴の趣旨で事案をそれぞれ釜山高法とソウル高法に差し戻し。 ※韓国の司法は基本的に政権に阿る。
2012年12月26日 *** 日本、民主党政権終了(野田内閣総辞職) ***
2013年2月24日 *** 李明博大統領退任 ***
2013年2月25日 *** 朴槿恵大統領就任 ***
- 就任直後から反日フルスロットルの朴槿恵、当然こうなる
2013年6月24日〔平成25年〕、日韓両国は、2013年7月3日を期限とする両国中央銀行間による30億ドル相当の円-ウォンの通貨スワップ取極について、期限を延長しないとの結論に至りました。〔リンク先は外務省報道発表/記事④〕
- 麻生発言(↓)はこの頃か次項の2015年の前であろう。
>韓国は『(どうか)借りてくださいと(日本が)言うなら、借りることもやぶさかではない』と答えた。(金を貸す側が)頭を下げて『借りてほしい』などという話は聞いたことがない。(それで)交渉テーブルを蹴って(交渉から)撤収した。〔記事より〕
2015年2月16日〔平成27年〕、日韓両政府は「日韓スワップ協定を延長せず、予定通り2月23日で終了する」と発表
2015年2月23日〔平成27年〕、チェンマイ・イニシアティブ下の日韓通貨スワップ協定満期終了。
2015年12月28日〔平成27年〕*** 日韓慰安婦合意 ***
2016年8月27日 聯合ニュース:韓日 サプライズで通貨スワップ再開へ=韓国側が提案
- ほら、やっぱり、韓国側が頭を下げてきてたじゃねーかw 何が、「意気投合したのは麻生氏自身だった」だよw〔記事⑥〕
>韓国の柳一鎬(ユ・イルホ)経済副首相兼企画財政部長官は27日、麻生太郎副総理兼財務相と同日ソウルで会談し、緊急時に両国間で通貨を融通し合う通貨交換(スワップ)を再開することで合意したと明らかにした。
- 日韓慰安婦合意締結で日韓関係は改善するはずだったので、日本側もスワップ再開協議を受け入れたのだろう。そして、日本は和解金10億円を韓国に渡したが、日本大使館前の慰安婦像〔2011年設置〕は一向に撤去しようとしない。またも、恩を仇で返された。その後、2017年にはソウル市鍾路区が「公共造形物」指定して撤去不可になる。〔2017.09.28付け『聯合ニュース』:日本大使館前の少女像を「公共造形物」指定 撤去困難に=韓国〕
- そうこうしている内に、セウォル号事件(2014年4月16日)の朴槿恵空白の7時間だの、知人女性と共謀した収賄事件だので、朴槿恵批判が高まり...
2016年12月9日〔平成28年〕 *** 朴槿恵大統領弾劾訴追案が可決 〔黄教安(ファン・ギョアン)国務総理が代行~2017年5月10日〕***
- 中央日報(2016.12.12):朴大統領弾劾可決後、韓日通貨スワップはどうなるのか
>12日、時事通信によると、柳一鎬(ユ・イルホ)副首相兼企画財政部長官は11日、韓日通貨スワップ交渉に対して「引き続き努力しているが、遅れそうだ」と述べて年内の締結は難しいという認識を示した。
これに先立ち、麻生太郎財務相は2日の記者会見で韓日通貨スワップの交渉に対して「誰が話を決めるか分からない。交渉のしようがない」と明らかにしたことがある。
2017年1月6日〔平成29年〕 Bloomberg:政府:日韓通貨スワップ協議を中断-釜山総領事館前の少女像で
>日本政府は韓国との2国間通貨スワップ協議を中断することを決定した。釜山の日本総領事館前に慰安婦の少女像が設置されたことに対する抗議。長嶺安政・駐韓大使と森本康敬・釜山総領事も一時帰国させる。菅義偉官房長官が6日の閣議後会見で「当面の措置」として発表した。
- 慰安婦像が建てられたのは2016年12月30日。 ※2017年1月8日の項参照
- 前項でも分かるように、朴槿恵弾劾で、韓国政府は機能不全に陥っていた事に加え、慰安婦合意違反までしたら、スワップ協議どころか、二国間の対話すらできなくなっていたので、当然スワップ協議も中断される。
2017年1月8日 外務省報道発表『在釜山日本国総領事館前の少女像設置に対する我が国の措置』
昨年12月30日(現地時間同日)に在釜山日本国総領事館に面した歩道に少女像が設置されたことを受け、1月6日、我が国の当面の措置を発表しました。
これを受け、長嶺安政駐韓国大使及び森本康敬在釜山総領事は、関係者との打合せ等を行うため、1月9日から一時帰国する予定です。
【参考】1月6日に発表した我が国の措置
(1)在釜山総領事館職員による釜山市関連行事への参加見合わせ
(2)長嶺駐韓国大使及び森本在釜山総領事の一時帰国
(3)日韓スワップ取極の協議の中断
(4)日韓ハイレベル経済協議の延期
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上記経緯を見て分かるとおり、少し従順な態度を見せて来たからと言って日本が甘い顔をすると、すぐに恩を仇で返すような事をするのが韓国。現在は日本側も、慰安婦問題や所謂”徴用工”裁判で日本企業の資産が差し押さえされている状態を「まずは改善しろ」と言っている状態なので、韓国政府も「日間通貨スワップ」は言い出せません。そこで「米韓スワップ」に望みをかけているのです。
次回、もう少し補足します。
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