【佐渡金山】『戦後日本における朝鮮人戦時労働研究史』(勝岡寛次氏報告)2.「朝鮮人強制連行の歴史」が佐渡金山史や相川史に与えた影響
3月23日に開催された学術セミナー「佐渡金山における朝鮮人戦時労働の実態」〔→発表者一覧〕より、勝岡寛次氏(歴史認識問題研究会事務局長、明星大学戦後教育史研究センター)の発表内容を『メディアウォッチ』の記事よりご紹介します。〔[일본 역사인식문제연구회 세미나] 사도금산에서의 조선인 전시노동 실태 (2)/[日本歴史認識問題研究会セミナー] 佐渡金山における朝鮮人戦時労働の実態(2)〕
藤岡寬次先生の報告は以下の5つのパートに分かれており、今回は3以降の章をまとめてを扱います。
- 「強制連行」という言葉は、80年代以降に一般化した
- 在日朝鮮人運動史研究会と「在日朝鮮人研究」〔1と同じエントリーに掲載〕
- 状況を一変させた「新潟県史」と「相川町史」の「強制連行」記述
- 「強制連行派」も認めた朴慶植のミス
- 官民共同で「歴史の事実」を明らかにしたい
「新潟県史」や「佐渡・相川史」は一次史料的要素もあるが、後世の、思想的にバイアスがかかった人間も執筆している。『朝鮮人強制連行の記録』(1965年)の著者、朴慶植(パク・ギョンシク)が設立した「強制動員真相究明ネットワーク」が韓国側と連携している、という内容。
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〔補足は緑字で追加。多少日本語として不自然でも理解に影響が無いと思われる翻訳は機械翻訳ママ〕
3 状況を一変させた「新潟県史」と「相川町史」の「強制連行」記述
この状況を反転させたのが「新潟県史」(通史編8(近代3)、新潟県、1988年)の記述だ。 そこには「強制連行された朝鮮人」(第4章第2節5)という項目が含まれ、「朝鮮人強制連行と新潟県」という小見出しで次のように断言している。
「昭和10年に実施された労務動員計画は、名称上は"募集"、"官斡旋"、"徴用"と変化しているが、朝鮮人を強制連行した事実では同質であった」(782頁)
この項目を執筆したのは佐藤泰也で、(本の執筆者一覧、878頁)佐藤泰也は朴景植を師匠と崇める在日朝鮮人研究会の会員で、師匠の「朝鮮人強制連行」説に基づいてこれを作成したものと考えられる。 しかし、募集、官斡旋、さらには一定の強制性を持った徴用さえ、当時の国際法に照らして強制連行とは言えないことは明白だ。
▲〔画像省略〕「新潟県史」計37冊。古書籍を扱う三月兎之杜で公開した写真。
このような明白な虚偽事実が「新潟県史」という公的刊行物に掲載されたことは大きな問題であったが、これが今日まで続く佐渡金山の朝鮮人強制連行問題の起点になっている点も指摘すべきである。
「新潟県史」に引き続き、佐渡金山のある相川町史「佐渡相川の歴史」(通史編近現代、相川町、1995年)も「朝鮮人労務者の動員」という小見出しで、県史の記述を踏襲して次のように書いている。
「戦争中、多くの朝鮮人が鉱山で働いた。 昭和14年に始まった労務動員計画は、名称は募集、官斡旋、徴用へと変化したが、朝鮮人を強制連行した事実においては同質だった」(「新潟県史」近代編10)。
また、
「昭和17年1月に県内に連行されたのは1,708人で、最も多かったのが佐渡鉱山の802人(小沢有作編集『近代民主の記録』、10 在日朝鮮人)だった。 (中略)佐渡鉱山の非正常な朝鮮人連行は戦時産業金国策から始まり、敗戦でやっと終わる」(679-684頁)
このように相川町史は「新潟県史」を踏襲し、「新潟県史」は朴慶植の「朝鮮人強制連行の歴史」を踏襲しているので、朴慶植の本、「新潟県史」、そして「相川町史」は一蓮托生の関係にあると言っても過言ではない。
4.「強制連行派」も認めた朴慶植のミス
一方、強制連行という用語は、「強制連行」派の間でも強い批判を受けている。
例えば、朴慶植の後継者とされる金英達氏は、強制連行という用語の問題点を指摘し、真っ向から批判している。
"「強制連行」は、その定義が確立されておらず、人によってまちまちに解釈して受け入れられている。 (中略)その実質や程度について共通理解が確立されないまま強制連行という言葉だけが一人進み、まるで特定の時代の特定の歴史現象を指す歴史用語であるかのように使われているところに混乱の原因がある。
したがって、「強制連行」という語を用いる者は、それぞれあらかじめ用語の定義と範囲を明確に示さなければならない。 ただし、この場合、朝鮮人の日本渡航は一斉に「強制連行」と定義する者もいれば、国民徴用令によって徴用された朝鮮人労働者だけが「強制連行」という者もいるだろうし、あるいは日本人も含めて法的強制力によって戦争に駆り出された者も皆「強制連行」と主張する者も出てくるだろう。 こうなると、おそらく百家争鳴の状態となり、さらに混乱するのではないかと思われる。
そこで筆者の提案では、戦争中の朝鮮人に対する強制的な戦争動員については総称として「戦時動員」という用語を使い、その戦時動員の中で具体的な現象の一つである暴力的な動員については「強制連行」という概念を再構成してみたらどうかと思う。”
(金永達『朝鮮人強制連行の研究』金永達著作集Ⅱ、明石書店、45-46頁)
このように金英達は、朴慶植が最初に使った「強制連行」の概念が曖昧で、様々な混乱が生じていることを認め、戦時動員という言葉を提案した。
しかし金永達氏が早くに殞命〔死去〕したこともあり、「強制連行」をめぐる議論は今日さらに混乱したといっても差し支えない。 そして「新潟県史」や「相川町史」が募集・官斡旋・徴用を一斉に「朝鮮人を強制的に連行した事実においては同質」と認めたことが混乱をさらに煽った最大の例として挙げられる。
5.官民共同で「歴史の事実」を明らかにしたい
朴慶植の学説を1990年代の運動レベルで支持した団体が「朝鮮人および中国人強制連行、強制労働を考える全国国民集会」であった。 2005年以降は「強制動員真相究明ネットワーク」(共同代表:庵逧由香、飛田雄一)がその役割を担い、これらは佐渡金山問題に関して韓国と密接に連携し、運動を展開している。
▲〔画像省略〕庵逧由香は立命館大学文学部教授で朝鮮近現代史などを専攻しており、徴用工、慰安婦問題で日本左派の典型的な立場を明確にしている。 飛田雄一理事長は神戸学生青年センター理事長で、同じく在日朝鮮人などを専門とする日本の左派だ。
例えば、韓国の東北アジア歴史財団は2月16日、「日本の佐渡鉱山世界遺産登録強行への対応と展望」という学術セミナーを開催したが、最初の提案者は強制動員真相究明ネットワーク事務局次長の小林久公だった。
小林久公氏は、「佐渡鉱山の世界遺産登録に関する趣旨と経過、最近の動きなどを中心に」というテーマで発表し、その中で次のように述べた。
「現在の岸田総理大臣も安倍氏と同様に胸に青いバッジをつけているが、その歴史認識、価値観は歴史的事実に基づいたものではなく、虚構を事実に捏造して自己満足するだけだ。 この価値観は「人類全体のための」遺産という世界遺産の価値観とはかけ離れたものであり、世界遺産を自身の遺産に変質させている。」
北朝鮮による拉致被害者救出を忘れないという象徴である青いバッジを日本首相が胸につけたことについて、「その歴史認識、価値観は歴史的事実に基づいたものではなく、虚構を事実として捏造し、自己満足するだけだ」と躊躇なく断言している。 「歴史的事実に基づかず、虚構を事実として捏造している」のは果たしてどちらか。
強制動員真相究明ネットワークは、1月25日に緊急声明を発表し、そこでは次のように主張している。
佐渡山のユネスコ世界遺産登録に関連して、日本政府は22年1月21日の記者会見で、「佐渡島の金山に対する韓国側の主張に対して、日本は全く受け入れられない」(木原官房副長官)と述べ、日本は昨年末、韓国外交部に抗議したと発表しました。 「日本政府は、韓国側の主張である戦時朝鮮人強制労働を公式に否定したのです。 (中略)日本の総力戦体制下、戦時労務動員政策によって朝鮮半島から日本に約80万人が強制動員されたことは歴史的事実です。 佐渡鉱山が強制労働の現場だったという韓国側の主張も事実です。 それを「独自の主張」なので「受け入れられない」という姿勢は、強制労働の歴史を否定することです。 日本政府は歴史を否定せず、これを機に強制労働の真実を認めなければなりません。 韓国側の批判を問題視するような対応は間違っている」。
「歴史的事実」、「強制労働の真実」というが、彼らが言う歴史的事実とは、朴慶植が半世紀前に書いた「朝鮮人強制連行の歴史」を金科玉条のように振り回すだけで、実は歴史的事実の裏づけが全くない主張だ。
そのような主張に対しては、今日の韓国の学者たちからも異論が噴出しており、彼らは一部の日本人学者が主張している「強制連行」説、「強制労働」説を全面否定している(「反日種族主義」「反日種族主義との闘争」)。
本日も、韓国の発表者から、このような趣旨の反論があると聞いており、期待している。 日本は何が歴史の事実かを判断し、韓国側の不合理な主張に対しては、日本は官民一体となって「歴史戦争」をしなければならない。 そして、この闘争において、我々の主張に同意してくださる韓国の方々までいらっしゃって、心強い。
一緒に手を携えて、歴史の事実を明らかにしていきたい。
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