【ラムザイヤー教授の反論文】(1)ラムザイヤー論文騒動を振り返る
前回のエントリーで簡単にご紹介したように、今月、マーク・ラムザイヤー教授が、2020年末に「インターナショナル・レビュー・オブ・ロー・アンド・エコノミクス」誌(=IRLE)に掲載された論文に対する批判を受け、その反論文をハーバード大学・ロースクールのWeb上に公開されました。論文の批判者達を名指しで反論しています。
現在、韓国政府の反論は、お得意の「妄言だ!」、「論ずるに値しない」と言ったもので、要するに逃げていますが、それもそのはず、ラムザイヤー教授は批判に対して個別具体例に反駁しているので、ぐうの音も出ないからです。
今回のエントリーでは、ラムザイヤー論文が巻き起こした “騒動” を少し振り返ってみたいと思います。
問題の論文は『Contracting for sex in the Pacific War』(太平洋戦争における性サービスの契約)と言うタイトルです。
これを真っ先に紹介したのが産経新聞〔web版:2021年1月28日付/誌面:1月31日付〕で、青山学院大学の福井義高教授が書かれた記事ですが、論文には「性奴隷(sex slave)」などと言う言葉は出てこないにも関わらず、記事のタイトルが『世界に広まる「慰安婦=性奴隷」説を否定 米ハーバード大J・マーク・ラムザイヤー教授が学術論文発表』という、やや扇情的なものだったので、まず、韓国メディアが噛みついて、更に、韓国以外の反日学者等が論文批判を始めました。
ハーバード大学の学生が運営するサイトでも、主に韓国の留学生が中心となって批判記事を掲載し、その記事のコメント欄で議論が行われました。これにはブログ主も参戦しました。
しかし、多くの批判者はまともに論文を読んでいないか、あるいは、“「慰安婦=性奴隷」説の否定” に条件反射的に反発しただけで、論文の本質を捉えたものではありませんでした。この「論文の本質」については、『反日種族主義』の著者のお一人である李宇衍(イ・ウヨン)博士の解説を後述しますが、ラムザイヤー教授の論文は、戦地で売春婦として働く女性の契約がどのように成立したかを『ゲーム理論』を用いて論じるもので、その前提や背景として、何故、日本軍が「慰安婦」制度を導入したか〔=主には性病を防ぐため〕や、日本や朝鮮の公娼制度を説明していますが、全体でも8ページという短い論文です。
産経の記事が言うような、“「慰安婦=性奴隷」説の否定” が主題ではありませんが、慰安婦達は抱え主との契約に基づいて性サービスを提供した、即ち、ビジネスであったという内容なので、一部の学者、特にアメリカの学者が主張している「強制連行」説や「性奴隷」説を覆すものであったため、猛烈な批判を浴びました。
彼らの一部は学者等に呼びかけ、署名まで集めましたが、論文に対して論文で反論できる学者は一人もいませんでした。
「強制連行」説や「性奴隷」説は、知識の度合いによって定義が様々で、多くの韓国人は、まだ「14、5歳の少女がいきなり拉致され、奴隷のように閉じ込められて性的暴行を受けた」...このように理解してますが、多少詳しい者は、反日の学者でさえトーンダウンしている事は事実です。例えば、吉見義明教授などは、強制連行は主張できない事が分かっているので、とっくの昔に「慰安所の敷地外には許可がないと出られなかった」=「広義の強制性/奴隷制」などと言って誤魔化している始末です。
反日学者等の批判は、まず、「慰安婦の女性は人身売買された」というものです。
ネットの議論を見ていてブログ主が感じたのは、日本人でさえ、「身売り not=人身売買」である事を説明できていないように思います。
字面だけ見ると似ていますが、前者〔=身売り〕は「年季奉公」というシステムの通称で、総収入の大半を前借金として先に受け取るというだけです。娼妓(売春婦)は、売上を抱え主との間で、一定の割合で折半し、収入から借金を返しつつ手取り収入もありました。借金を払い終えるか年季(契約期間)が終了したら自由になれます。“借金漬けにされて足抜けできない” という印象は恐らくドラマ等の影響であり、実態としてそのような悪質な業者〔※〕がいたとしても、それが普通であれば、抱え主に悪評が立ち、新しい娼妓も来なくなります。
※『武漢兵站』という本では、実際に悪質な慰安所経営者がいた事が書かれています。中には数字に疎い女性がいて誤魔化されている事が分からないため、契約している業者の帳簿の監査を軍がすることにしたので女性達が安心した様子だった、というエピソードです。
ラムザイヤー教授は、先立つこと1991年に、日本の年季奉公契約について論文を書いており、一般には娼妓達は契約期間が終われば、稼いだ金を元手に新たな商売に転職していた事が分かります。これが可能なのは、まず、衣食住の内、食と住は無料だった事や、手取りだけでも工員レベルの収入はあったためです。
これから娼妓になろうとする女性は、「賤業に就くという『損失』」があるので、その損失を回収するに足る報酬が担保される事が必要ですが、例えば、「出来高払い制」では総賃金が未確定、「定額払い制」では、途中で解雇されるリスクがあります。「契約金」制度とすると、今度は雇用主側に持ち逃げされるというリスクが発生します。これらを合理的に解決するのが、「年季奉公契約」で、娼妓は総賃金のほぼ総額を最初に受け取ってしまうから、一番安心できる方法だというのが、ラムザイヤー教授の理論です。これ自体を「ゲーム理論」と言って良く、女性と売春業者とがゲームのプレイヤーのようになり、自然と合理的な契約形態ができあがったというものです。2020年の論文は、この理論を前提としたものです。
1991年に書かれた論文とは『Indentured Prostitution in Imperial Japan: Credible Commitments in the Commercial Sex Industry』(芸娼妓契約-性産業における「信じられるコミットメント」)であり、2020年末の論文の参考資料にもこれを挙げているのですから、年季奉公を「人身売買だ」などと言っているのは、この論文を読みもしないで批判しているのです。
では、「人身売買」とはどのような例かというと、例えば、1991年に初めて元慰安婦だとカミングアウトした金学順氏です。彼女は、再婚した母親の連れ合いと折り合いが悪く、14歳の時に母親によって、妓生(キーセン)の検番〔「券番」とも書く〕である男に40円で売られました。検番とは、妓生や芸者を養成・管理するところですが、金学順氏はこの男の養子となりました。つまり、この男の “持ち物” になったのです。なお、それでもこの男は、金学順氏を中国に連れて行く時は実母に連絡をとったようで、母親は黄色いセーターを彼女にプレゼントしています。
少し補足すると、このように所有権が移動してしまうといのは、李氏朝鮮時代からの風習でした。また、朝鮮時代は、ちょっと金が必要になると妻を賃貸ししたり、娘を売るという悪風がありました。それが日本統治時代に組織化され、不法な「人肉市場」と呼ばれる人身売買マーケットができあがったのです。

1924年9月26日付朝鮮日報の「人肉市場探訪記」(人身売買の闇市場)
元慰安婦で、本来日本軍慰安婦になれない年齢(13~15歳)で日本軍慰安婦となったと言っている証言は、嘘ではなければ、最初にこの世界に入ったいきさつを話しているのではないかと推察されます。
このようなシステムの一端に「日本軍慰安所」があったため、全て日本軍のせいにされてしまったというわけです。
別の批判は、「元慰安婦の証言を無視している」と言うものですが、これは、ラムザイヤー教授はきちんとその理由を論文で説明しています。
基本的には、「契約」システムを論ずるのに、慰安婦の証言は必要ないからであり、また、証言をするような女性は、何らかの不満を持った者だけであるため、慰安婦全般を代表する声ではないからです。但し、今回の反論文では、李容洙(イ・ヨンス)が、赤いワンピースに釣られて家出した事などを書いています。つまり、元慰安婦の証言は信憑性に欠けると反論したのです。
それ以外の批判は、「ラムザイヤー教授は『契約書』を提示できていない」というもので、確かに実際の朝鮮人慰安婦の契約書は見つかっていませんが、これには主に『李承晩学堂』の先生方や国史研究所の金柄憲(キム・ビョンホン)所長が積極的に反論しています。
慰安婦になるには、印鑑証明や戸籍謄本等6種類の書類が必要な事や、慰安婦自身の証言で、親や保証人の捺印を貰った話がある事など、契約書に相当するものがあった事は明らかになっているのです。
また、内地で使われていた契約書の雛形〔※1〕 は現存しており、それ以外にも、日本軍慰安婦のものではありませんが、朝鮮で契約違反が事件化したために、民間の娼館と女性の間で取り交わされた契約書の内容〔※2〕 が当時の新聞に掲載されており、朝鮮で使われた慰安婦の契約書もこれ等に準じるものである事は容易に想像できます。
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以下、2020年2月14日付でJBpressに掲載された李宇衍博士の寄稿文『性奴隷説を否定した米論文にぐうの音も出ない韓国』から、ラムザイヤー論文の要点を書いた部分のみ引用します。
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ラムザイヤー論文のシンプルな中身
すべての学術論文は冒頭に「抄録」(論文内容の要約)を付け、3~5個のキーワードを設定する。この論文のキーワードは「売春(Prostitution)」と「年季奉公(Indentured servitude)」だ。日本経済史において年季奉公人として有名なのが江戸時代の「女中」である。彼女たちはふだんは見ることもできないほどの大金を給金として受け取り、就業先へ行って数年間働いた。
世界経済史の次元で有名な年季奉公人(Indentured labor)は、18~19世紀、欧州から米国に移民した労働者だった。渡航には船賃や途中の食費などが必要となり、ヨーロッパの貧しい労働者にとっては大きな負担になった。米国現地の雇い主たちは渡航に必要な費用を代わりに支払い、米国に到着したあと普通は7年間、この労働者たちを働かせた。
ラムザイヤー教授は、アジア太平洋戦争以前に日本の遊廓で働いていた売春婦と楼主、開戦後に軍慰安所で働いていた慰安婦と事業主との間の契約を、年季奉公契約として把握している。事業主は売春婦や慰安婦が就職する前、つまり性サービスを始める前に、前借金という名目で大金を提供し、女性たちは就職後、数年にかけてそれを返済した。女性たちは客から受け取る金額、つまり売上高を一定の割合で事業主と分割し、取り分の一部を前借金の返済に充てた。
一般的に「良い論文」といわれるものがそうであるように、ラムザイヤー教授の論旨は非常にシンプルだ。まずは「売春婦と慰安婦の契約は、なぜこのような特殊な形を取ったのか?」と問う。一般的な労働者の場合は先に働いて、その報酬を日給、週給、月給などの形で受け取る。ところが、なぜ売春婦や慰安婦の場合は事業主との間で、前借金、数年の契約期間、売上高の分割の割合などが定められた独特な契約を交わすことになったのか。
答えもシンプルだ。就職を持ちかけられた女性はある問題に直面する。性労働に従事することは女性の評判を深く傷つけるというものだ。だから、業者は非常に有利な条件を提示する。女性たちは、業者がその約束をきちんと守ってくれるのか、疑わざるを得ない。これを解決する方法は何だろうか。業者があらかじめ高額を支払うことである。それが前借金だ。
業者も問題にぶつかる。この産業の特性上、女性たちが真面目に働いているかどうかを監視することは不可能だ。閉鎖された空間で行われる労働だからだ。たとえ手厚い待遇をしたとしても、一生懸命働いてくれるだろうか。同じ客にまた来てもらい、その女性を指名してもらえるだろうか。
この問題を解決する方法は、女性が稼いだお金(売上高)を一定の割合で事業主と分割することだった。定額の給料を支払われるとなれば、女性は真面目に働かないかもしれないが、売り上げ次第で取り分が変わるとなれば頑張るだろう。その結果、前述のような特殊な形態の契約、一種の年季奉公契約が結ばれる。
以上がラムザイヤー教授の論文の要旨だ。批判するなら、ラムザイヤー教授本人ではなく、論文で提起されている「問題」と「答え」である。「売春婦や慰安婦が契約を交わしたと言うが、朝鮮人慰安婦は日本の官憲によって連行された」と言い、その証拠を提示すればいいだけだ。いわゆる「強制連行」の証拠である。しかし、慰安婦問題が提起されてから30年になるが、官憲による強制連行を証明する資料はただの一つも出ていない。
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