【「徴用工裁判」】ソウル中央地裁で原告一審敗訴、その理由は?
公開:2021-06-09 13:58:36 最終更新:2021/06/10 6:27
今回のソウル中央地裁の「却下」(裁判の要件を満たさない)という判断について幾つかの記事を読んでみましたが、以下の2点がポイントです。
- 日韓請求権協定第2条(両国の請求権は完全且つ最終的に解決された)により、個人請求権は消滅していないが、訴訟では行使できない。
- ウィーン条約第27条(条約の不履行を正当化する根拠として自国の国内法を援用することができない)を根拠に、強制執行時に懸念される国際的逆効果がある。
1の日韓請求権協定は基本的に両国の債権債務の清算で、韓国政府の要望により一括して日本が支払っている(「経済協力資金」という名目で無償3億ドル、長期低利の政府借款2億ドルの供与)ので、もはや日本に対する請求はできない、という意味ですが、「一括処理されている」というような表現で、どの記事も既に韓国政府が金を受け取っていることを説明しない為、これを読んだ韓国人は、「請求権があるのに何故訴訟できないんだ?」と、あまり理解できていないようです。〔韓国人の反応を見る際には、韓国人は「日韓請求権協定」そのものを理解していないという前提で見る必要があります。〕
ただ、「個人請求権は消滅していない」が、日本に対してなのか、韓国政府に対してなのか、不明です。後者なら問題はないのですが。
それと、あくまでも請求権は未払い賃金や労災のような「債権」であり、「(精神的苦痛などの)賠償金」はそもそも含まれていません。この裁判だけでなく、原告側は「日本統治が不当な占拠」という前提で訴訟しているので、「消滅していない個人請求権」とは何かで今後も議論を呼ぶでしょう。
2は、日韓基本条約に付随する日韓請求権協定を遵守しないと国際法に違反し、国際的な信用を無くすという事ですが、かなり政治的は発言であり、明らかに2018年の大法院判決による差押えた資産の現金化を牽制するものです。
が、大法院(=最高裁に該当)の判決を覆すものであり、これを釈然としない韓国人は多いようで、これ自体は理解できます。
しかし、あくまでも『朝鮮日報』の記事に付けられたコメントですが、意外にも、「そもそも大法院判決がおかしかったので、これが正しい」と受け止めている読者が、「共感/非共感」数を加味しても圧倒的でした。これには、大法院の金命洙(キム・ミョンス)大法院長に対する不信感も大きいようで、彼を批判するコメントも多数見られました。金命洙は春川というところの地方裁判長を文在寅が抜擢したのですが、その後、およそ法の番人として許されない嘘をついていることがバレたり、経費を湯水のように使っているのが報じられて国民の怒りを買っているからです。
尤も、韓国与党の議員などはまるで日本の主張そのままだと批判し、青瓦台の国民請願では、この裁判長を弾劾しろという請願が立ち、既に昨日の時点で10万筆以上集まっているなど、いつもの “The 韓国人” ぶりを見せています。(【2021/06/10追記】その後、請願署名は20漫筆に達したそうです←カイカイ反応通信:「キム・ヤンホ判事の弾劾を要求します」国民請願、1日で22万人同意)
この判決はほぼ正しいのですが、なぜ、このような判決が出たのかということに興味移ります。ブログ主は、①レームダック化した文在寅政権の顔色を窺う必要が無くなったこと、②どうせ大法院まで行くのだから、最終的な責任は大法院が負うため、自分は正論を吐いてみた、というところかな?と思うのですが、識者の中には、司法界の右派と左派の対立と見ている方もいました。
左派は一見愛国者のようなフリをしていますが、彼らは「反・大韓民国」、大韓民国の否定なので、国際的な信用などどうでもいいが、保守は大法院判決を踏襲したら国益にはならないと判断したということでしょうか。
李相哲先生は9日の動画で、文在寅大統領の意向に沿ったものだという仰っていました。あまり詳しい説明はなかったので、想像ですが、1月8日の慰安婦裁判の結果(原告勝訴)に「当惑している」と発言したり、今は歴史問題に係る裁判で日本を刺激したくないという事かも知れません。
【追記】カイカイ反応通信(韓国の反応翻訳サイト)の記事でこの裁判を担当したのはソウル中央地方法院民事34部だと分かりました。この部署は1月8日の慰安婦裁判で原告勝訴の判決を出したのですが、その後に人事異動で人が入れ替わり、その後、(記事によると3月29日)に、訴訟費用を被告に負わせることは「主権免除」に反するという「決定文」を出したのでした。その決定文を出したのが今回の裁判官というわけです。4月8日の李容洙(イ・ヨンス)等が原告の裁判で原告敗訴の判決を下したのは、15部と別の部署ですが、同様に「主権免除」を理由としました。
リンク先の記事を読むと分かりますが、今回の判決を出したキム・ヤンホ裁判官に対する魔女裁判が始まっています。
以下に、法律系のサイトの記事をご紹介します。
◇ ◇ ◇ ◇
https://www.lawtimes.co.kr/Legal-News/Legal-News-View?serial=170566
原題:[판결] 강제징용 피해자들, 日 전범기업 16곳 상대 소송 냈지만 '각하'
徴用工団被害者、日本の戦犯企業16社を相手取って訴訟起こしたが、「却下」
ソウル中央地裁民事34部判決 大法院判決と背馳(=背くこと)
日本による植民地時代 強制徴用被害者とその遺族たちが、日本企業を相手取って損害賠償請求訴訟を起こしたが、却下された。 今回の訴訟は、日帝強制徴用被害者が起こした損害賠償請求訴訟の中で最も規模が大きいという。
ソウル中央地裁は7日、徴用工被害者と遺族85人が、日本製鉄、日産化学、三菱重工業など日本企業16社を相手取った、損害賠償請求訴訟(2015가합13718)で、「この訴訟の訴訟費用は原告が負担する」として、原告敗訴の判決を言い渡した。
却下とは、訴訟又は請求が要件を満たしていないときは、その主張を判断せずに裁判を終えることをいう。
裁判部は「韓日請求権協定とそれに関する了解文書などの文言、請求権協定の締結経緯や締結当時に推断される当事者の意思、請求権協定の締結に伴う後続措置などを考慮すると、この事件の被害者たちの損害賠償請求権は請求権協定の適用対象に該当する」とし「このように請求権協定第2条は大韓民国国民と日本国民の相手国およびその国民に対する請求権まで対象としていることは明らかであるため、請求権協定を締結した被害者の損害賠償請求権は請求権協定の適用対象としている。文言の意味は個人請求権の完全な消滅まではいかなくても、'大韓民国国民が日本や日本国民を相手に訴えとして権利を行使することは制限される'という意味に解釈するのが妥当だ」と明らかにした。
続いて「ウィーン条約第27条によると、植民地支配の不法性を認める国内法的事情だけで植民地支配の適法または不法に関して相互合意に至らず、一括してこの事件の被害者の請求権などに関して補償または賠償することで合意した『条約』に該当する請求権協定の『不履行』を正当化することはできず、大韓民国は依然として国際法的には請求権協定に拘束される」とし、「大韓民国と日本の間でこれまで締結された請求権協定、合意権協定など各種条約の性格は少なくとも国際法的に、国際的には合意権協定に拘束される」として、「この事件の請求を引用するのはウィーン条約第27条と禁反論の原則(「禁反言の原則」=エストッペルの原則:過去の行動と矛盾する主張を禁ずること )など国際法に違反する結果を招く」と説明した。
また、「ウィーン条約第27条により、国内的な事情および国内的な解釈にもかかわらず、条約の効力は維持され、そのような場合の強制執行は、確定判決が実体的真実に反するものであり、禁反論(=金反論)の原則など信義則に違反することで、判決の執行自体が権利濫用に該当し、請求異議の訴えおよびその暫定処分の対象になる可能性を排除できない」とし、「原告らの請求を引用する本案判決が言い渡され、確定し、決定された。」と付け加えた。
そして、「この事件の被害者たちの損害賠償請求権は、憲法上の国家安全保障、秩序維持及び公共福利のために、国内法的には法律の地位にある条約に該当する請求権協定によって、その訴権が制限される結果となる」とし、「結論的に大韓民国国民が日本または日本国民に対して持つ個人請求権は、請求権協定によって直ちに消滅し、または放棄されたとはいえないが、訴訟でこれを行使することは制限される。」と判示(=判決の中で見解を示すこと)した。
当初裁判部は、判決期日を10日に開く予定だったが、突然期日を繰り上げたため論議を呼んだ。
これに対し裁判所は「この裁判所は憲法機関として、憲法と国家そして主権者である国民を守護するため、このような判決を下すしかなかった」とし、「判決期日の変更は当事者に告知しなくても違法ではない。 法廷の平穏と安定など諸般の事情を考慮して判決期日を変更し、訴訟代理人に電子送達及び電話連絡などでこれを告知した」と明らかにした。
今回の事件は、日帝強制徴用被害者たちが起こした損害賠償訴訟のうち、訴価が86億ウォンに達し、最も規模が大きいという。 被害者らは計17社を相手取って訴訟を起こしたが、日本の菅原建設(←翻訳ママ)1社に対しては訴訟を取り下げた。
これに先立ち、日本企業は15年に訴訟が提起された後も無対応で一貫してきたが、今年3月に裁判所が公示送達をして判決期日を決めると通知すると、後になって弁護士を代理人に選任し、訴訟対応に乗り出した。
日本企業側は先月28日に開かれた1回目の弁論期日で弁論を終結するか予想できなかったとし「強制徴用被害者の主張は立証もされていないし、事実関係も不十分だ」と追加弁論を要請した。
しかし裁判部は「すでに2回にわたり最高裁の判断を受けた事件」とし「次の期日に直ちに宣告する」と明らかにした。
今回の判決は、最高裁全員合議体の判決の趣旨とは反するものだ。
大法院(日本の最高裁判所に相当)全員合議体は2018年10月、強制徴用被害者と遺族が日本製鉄(旧新日鐵住金)を相手取って起こした損害賠償請求訴訟(2013다61381)で、日本製鉄の上告を棄却し、「日本製鉄は被害者に1億ウォンずつの慰謝料を支払うように」と原告勝訴判決を言い渡した原審を確定させた。
強制徴用被害者側の代理人であるカン·ギル法律事務所ハン·セ弁護士(56)はこの日、判決直後の記者会見で「これまで韓国の裁判部を見ると、判決を先送りする場合はあっても引っぱるのは理解できない」とし「現裁判部の判決は既存の最高裁判所の判決と正反対に対比され、既存の最高裁判所は訴訟物として審判対象として認めたため、現裁判部は非常に不当だ」と抗訴する方針を明らかにした。
一方、ソウル中央地裁には同事件のほかにも、徴用被害者が日本の戦犯企業を相手取って起こした損害賠償請求訴訟19件が進行中だ。
◇ ◇ ◇ ◇
ここには書いていませんが、これ以外に、日本から供与された3億ドルは、当時の韓国にとって決して少なくない金額だとか、この金を使って「漢江の奇跡」(朴正煕時代の国土開発や経済成長)が成されたという事にも言及したそうで、これも物議を醸しています。
また、後述する『朝鮮日報』の記事に書いてありますが、「(日本が提訴し、)韓国が請求権協定に違反したと国際司法裁判所(ICJ)が判断すれば、大韓民国の威信が地に落ち、代表的な自由民主主義国家である日本との関係が損ねられ、それは結局韓米同盟で韓国の安全保障と直結する米国との関係が傷つくことにつながる」 ということも言ったそうです。これが、政治的な発言だと批判されています。
ここで忘れてはならないのは、慰安婦訴訟において、同じソウル地裁でも1月と4月では判決が分かれたことです。まだ同様の裁判が19件あるとのことですが、もし、右派・左派の違いなら、左派の裁判長に当たったら、これとは違う判決が出ることでしょう。
以下に、『朝鮮日報』の記事を引用しておきます。
判決内容の説明以外に、内部事情にも触れています。
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2021/06/08/2021060880002.html
記事入力 : 2021/06/08 08:08
既存の大法院判決と異なる判断…徴用被害者、一審敗訴
日本企業16社に対する損害賠償訴訟に「韓日協定で個人の訴訟不可」
ソウル中央地裁は7日、強制徴用被害者とその家族85人が日本企業を相手取り起こした損害賠償訴訟で、「1965年の韓日請求権協定により、提訴する権限がない」として、原告の訴えを却下する一審判決を下した。2018年に大法院全員合議体(大法廷に相当)が徴用被害者に韓国の裁判所での訴訟を通じた賠償請求権を認めたのとは正反対の判断を下したことになる。
今回の訴訟は原告らが日本製鉄、日産化学、三菱重工業など日本企業16社を相手取り起こした。却下は訴訟が要件を満たさないため、審理に入らずに訴訟を終了させるもので、事実上の敗訴判決だ。
ソウル中央地裁は「大韓民国国民が日本や日本国民に対して保有する個人の請求権は1965年の韓日請求権協定で消滅したり、放棄されたと見なすことはできないが、訴訟でそれを行使することは制限される」と指摘した。また、「(被害者が勝訴し、)強制執行まで終えた場合の国際的逆効果まで考慮すると、強制執行は国家の安全保障と秩序維持という憲法上の大原則を侵害するもので権利の乱用に当たる」とした。
被害者側のカン・ギル弁護士は「既存の大法院の判例と正反対で非常に不当だ」と述べ、控訴する意向を表明した。民主社会のための弁護士会(民弁)も「国家的利益を掲げ、被害者らの権利を否定した」と指摘した。一方、釜山大法科大学院(ロースクール)のチュ・ジンヨル教授は「国際法的にとても妥当な判決だ」と評価した。
同日午後2時、ソウル中央地裁558号法廷で金亮ホ(キム・ヤンホ)部長判事が原告に「却下」を言い渡すと、被害者側の傍聴席がざわついた。別の法廷で裁判の中継を見ていた韓日の取材陣と日本企業の代理人らも同様だった。強制徴用被害者の日本企業に対する損害賠償請求権を認めた18年の大法院判決が生きている状況で、今回の却下決定を予想した人はほとんどいなかった。
今回の判決について、裁判所内部からは「当初の大法院判決に無理があった」との評価が聞かれた。ある部長判事は「18年の大法院判決は国際関係を考慮しない、多分に国民の対日感情を意識した判決だった。その後、韓日関係の行き詰まりを解決しようとする現政権にも負担になった」と指摘した。別の中堅判事は「金命洙(キム・ミョンス)大法院長率いる大法院が十分な社会的合意を経ず、性急に判決を下したため、現在のような裁判所内部の混乱を招いた」と話した。
ソウル中央地裁の判決は1965年の韓日請求権協定が徴用被害者の賠償請求権を認めるか否かについて、2018年の大法院判決と決定的に異なる。韓国は請求権協定を通じ、日帝強占期(日本による強制占領期)当時に日本が犯した侵略・違法行為について、「経済協力資金」という名目で「無償3億ドル、長期低利の政府借款2億ドル」の供与などの条件を受け入れた。
そこには徴用被害に対する賠償金も包括的に含まれるという解釈が支配的だった。しかし、18年に大法院は故ヨ・ウンテクさんら強制徴用被害者4人が日本製鉄を相手取り起こした訴訟で、11対2で原告への各1億ウォンの賠償を命じる判決を下した。当時大法院は「韓日請求権協定は両国間の財政的・民事的債権債務関係を解決するためのものだ」とし、「日本が植民支配の不法性を認めずに被害賠償を否認したため、被害者個人の慰謝料請求権が協定に含まれたとは言えない」と判断した。それを受け、現在日本製鉄の韓国国内の資産に対する強制執行手続きが進んでいる。
しかし、ソウル中央地裁は今回、韓日請求権協定の文言を挙げ、「個人請求権が完全に消滅したわけではなくとも、大韓民国国民が日本国民を相手取り訴訟で権利を行使することが制限される」と解釈した。
ソウル中央地裁はまた、「ウィーン条約27条により、国内的な事情や解釈があっても、条約の効力は維持される」とも指摘した。ウィーン条約27条は「当事国は条約の不履行を正当化する根拠として自国の国内法を援用することができない」としている。同地裁は「大法院の判決は徴用の不法性を前提としているが、これは国内法的な解釈にすぎない」とした。法律専門家は「大法院が国内用と同様の効力を持つ条約(韓日請求権協定)を否定する愚を犯したと指摘した格好だ」と指摘した。
ソウル中央地裁はさらに、「(日本が提訴し、)韓国が請求権協定に違反したと国際司法裁判所(ICJ)が判断すれば、大韓民国の威信が地に落ち、代表的な自由民主主義国家である日本との関係が損ねられ、それは結局韓米同盟で韓国の安全保障と直結する米国との関係が傷つくことにつながる」とし、大法院の判決で韓米の同盟関係までも損ねられることにも懸念を示した。
今回の判決は10日に言い渡される予定だったが、前倒しされた。ソウル中央地裁は「法廷の平穏と安定など諸般の事情を考慮したもので、手続き上違法ではない」と説明した。韓国外交部は同日、「日本側と関連協議を続ける」とした。日本の加藤勝信官房長官は「引き続き動向を注視したい」と述べた。
元記事(韓国語):https://www.chosun.com/national/court_law/2021/06/08/NH3O6LLCTZDGPA4I62M5ENPVUU/
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