【ラムザイヤー論文を読む】(2)1920年代の芸娼妓の法定紹介手数料【金柄憲所長の解説動画】
タイミング良く、チャンネルFujichanで、前回のエントリーと関連する動画が公開されました。
- ペン&マイク その4 契約書は安全装置(ペン&マイクのオリジナル動画はこちら/2021年3月11日)
芸娼妓契約に於ける2人のプレイヤー〔抱え主/芸娼妓=新人〕では情報量の差は圧倒的に前者が多く持ってます。なぜなら、〔論文の表現を借りると、〕抱え主は「繰り返しプレイヤー」で、個々の娼妓は「単発的プレイヤー」だからです。
そのため、新人に「信じられるコミットメント(約束)」を与えるには「年季奉公契約」が最も合理だというのが、前回エントリーの内容でした。トラブルのリスクを引き受けるのは抱え主側で、しかもそのコストは低く抑えられるからです。
もし、「定額払い制」や「出来高払い制」のような契約だと、契約に関する争議が起きて裁判になるケースは賃金の未払いなどで、娼妓が訴える側です。しかし、「年季奉公契約」の場合、娼妓は既にお金を手にしているので、これを回収する(ex. 保証人に残額の返済を求める)コストを負担するのは抱え主側です。しかも、トラブルの処理に関しては抱主は娼妓よりも慣れています。
そして、抱え主のリスクを保障するものが「契約書」です。
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以下、動画の内容(金柄憲所長の解説要約)です。
稼業人(=芸妓、娼妓、酌婦)は、国内(朝鮮半島)や日本、中国、満州、日本軍の駐屯地に行ったが、駐屯地の慰安所は色々ある売春市場の一つに過ぎなかった。
紹介業者は登録制で、1922年8月2日の東亜日報の記事によると、紹介業者に支払う法定手数料は前借金の5%以内と定められている。この手数料は契約が完了した後に支払われる。現代の不動産仲介料が何パーセント迄と決められているのと同じだ。
手数料は慰安所の主人(抱え主)と稼業人とで分担する。
抱え主が2/3、稼業人が1/3。当時の平均で前借金を300円とすると、手数料は15円なので、抱え主は10円、稼業人は5円を負担した。もし、前借金がない場合は15円以内と、厳格な規定だった。
この時代の新聞記事を見るとは前借金の話がたくさんある。600円、320円、500円、550円、240円...
前借金とは「一定の期間、仕事をする対価」を前もって支払う先払い金のことであり、借金でもある。
2年間働いて欲しい場合、その対価を先に渡すわけで、この当時、「年妓」という言葉を使った。
ラムザイヤー教授の論文に出てくる「indentured prostitution」(年季奉公契約の売春)と同じ事で、教授は本当に正確な用語を使った。状況を正確に把握していると言える。
次に、前借金に対する保障が必要になってくる。
お金は誰が出すのか? もちろん慰安所の主人だ。300円は当時米10石に値する。10人の娼妓なら3000円だ。
お金をあげたのに、逃げたらどうするのか? 安全装置が必要だ。それが即ち契約書である。
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この動画の元となった番組が放送された頃は、ラムザイヤー論文に対して「契約書が見つかってないのに、契約があったと言えるのか!」とギャーギャーうるさかった時なので、たとえ、当時の契約書の現物が残存していなくても、契約行為という認識はあった、と反論していた時期です。
この、1922年8月2日の東亜日報の記事は、たまたまシンシアリーさんの『シンシアリーのブログ』でも取りあげているので、画像と翻訳をお借ります。(2021年3月3日付記事「1920年代、『売春婦の契約』関連で朝鮮の各警察署が改善努力・・仲介手数料の制度化、前金の利子を廃止、など」より)
新たに決定した法定手数料の規定を報じる記事です。
京畿道警察部から仲介業者取り締まり規則を制定して施行中であることは当時に報道したことがあるが、警察務ではこれまで紹介手数料に関して管轄内の各警察署と合意した結果、以下のように金額を決め、実行することになったという。その金額についてだが、従来はこれについて規定もはっきりせず仲介人たちは一定の標準無しに人によって多くも取り少なくも取ったが、その中でも娼妓契約のようなものは契約金額の1割以上をももらっていく問題があり、この規定が実行されれば、雇用人の紹介も家屋の仲介もすべて決まった金額だけを払えばいいという。
▲芸妓 娼妓、酌婦などの紹介料金は、(※売春店の)店主と本人の契約が終わった後、前借金に対する100分の5以内の手数料金を受けることとし、ただ、その紹介料の3分の2は店主が、3分の1は本人に負担させること。もし前借金が無い場合は、1回に15ウォン以内とする・・(※以下、他の他の職種の仲介手数料に関する規定が続く)
この頃、芸娼妓の待遇改善を図る動きがあったようで、上記ブログには他にも馬山市の警察署長名で出された「芸娼妓待遇訓則」など、こと細かに指導してた様子が窺えます。
なお、シンシアリーさんはこの頃(上記ブログ記事を書いた頃)、古い新聞を読み漁ってらしたようで、その一つ前には「1930年、朝鮮の弁護士「労働期間を決めて相応の前金を払うなら、人身売買ではありません」というエントリーがあります。
以下、一部を簡単にご紹介します。
*1930年10月31日朝鮮日報「法律問答」
問「法律上人身売買は許されないことですが、にもかかわらず、酌婦を売買することがあります。これは法律に抵触することではありませんか?」
答「人身売買は出来ませんが、酌婦娼妓は一定期間の労務に服することにして金銭を前借するものであるため、現法には抵触しません」
*1924年12月4日、朝鮮日報「平壌署の大失態」
平壌の娼妓が、店の主人の署名がない廃業届を警察署に提出したので拘留された。娼妓は、借金の残金は後で返すと主張。これに対して、日本人達が怒っているという記事。
あらためて書きますが、「年季奉公」というと、「数年間、借金で縛られる」というイメージを持ちますが、発想を転換すれば「総賃金のほぼ全額は前払いで、しかも契約期間の最長が決まっている」(前借金が未返済でも契約期間が終われば廃業できる)という合理的な契約なんです。
但し、これが成り立つのは、業者のモラルも必要で、〔日本では全く無かったとは思いませんが、〕内地(日本)と朝鮮半島では状況が違っていた、というのがラムザイヤー論文(2020年の論文)には書かれています。
次回は、それについて書きます。
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