【教科書問題】「従軍慰安婦」表現は不適当と閣議決定 その意義は?
公開:2021-04-28 08:15:00 最終更新:2021/04/28 22:36
4月27日付『産経新聞』web版に『「従軍慰安婦」表現は不適当 「強制連行」も 政府答弁書 教科書は使用』という記事が掲載されました。(紙面は4月28日付/記事後述)
この『従軍慰安婦』という用語については以前のエントリーでも解説しましたが、1973年に出版された千田夏光(元毎日新聞記者)の本のタイトルに付けられた“造語”で、本の内容から、「20万人」、「性奴隷」、「強制連行」という3つのキーワードと結びついた用語です。しかし、本来、そのような言葉は無かったので、本文には一切使われていません。(cf. Wikipedia『千田夏光』)
そもそも、「従軍○○」は正式には軍属であり、階級も与えらる立場でした。民間の売春婦はその対象ではありません。
しかし、これによってこの言葉が世間にある程度広まってしまったため、『河野談話』(1993年)では、その文面に「いわゆる従軍慰安婦問題については~」という形でこの言葉が使われました。但し、「いわゆる」が付いていることから、「世にいわれている、世間でいう」という意味で、むしろ、正式な用語ではない事も表しています。
しかし、これを悪用したのが山川出版社の中学生用歴史教科書です。
どういう意味かというと、教科書検定基準には、「閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解」及び「最高裁判所の判例」があるときは、それらに基づいた記述がされていることとなっているからです。
本来、中学生に「慰安婦」を教えることの是非は別として、河野談話に使われていることで「政府の統一的な見解」だとし、正式な用語である「慰安婦」を使わずに、わざわざ「いわゆる従軍慰安婦」という言葉を用いました。
今までも『つくる会』(新しい歴史教科書をつくる会)や『なでしこアクション』が、辻元清美議員の質問主意書に対する政府答弁や安倍総理の国会答弁、植村隆元朝日新聞記者の名誉毀損裁判を引き合いに出し、「強制性はなかった」という理由で、この記述を不適切とするように萩生田光一文部科学大臣に申し入れてきましたが、『従軍慰安婦』という用語を否定するものではないためか、無視されてきました。
「河野談話」を取り消すという方法もありますが、それができないなら、新たな閣議決定でこれを教科書に使わせないようにすべき、というのは『月刊正論』も提唱していました。(チャンネル正論:「@CHANNELSEIRON正論ウィークリー」続・政府は「従軍慰安婦」を使うな)
これが一歩前進したのが、2月8日の衆院予算委員会での藤田文武議員(日本維新の会)の質問です。加藤勝信官房長官が「近年、政府においては、『従軍慰安婦』は用いておりません。」と明確に答弁しました。
その後も、有村治子参議院議員(自民党)や松沢成文参議院議員(維新)が同趣旨の質問を行い、今回、馬場伸幸衆議院議員(維新)が、『「従軍慰安婦」等の表現に関する質問主意書』と『「強制連行」「強制労働」という表現に関する質問主意書』の2つの質問主意書を提出し、その結果、閣議決定された「『従軍慰安婦』表現は不適当」という政府の統一見解が出たのです。
実はまだ政府答弁は公開されていないので、その正確な内容は分からないのですが、「第204回国会 質問の一覧」(項番97と98)で、質問主意書のみPDFで公開されています。(【2021/04/28 22:36追記】答弁書のPDFも公開済み)
この問題は韓国との“歴史戦”の一環ではありますが、直近の問題としては日本の歴史教科書の問題であり、歴史教育の問題です。
韓国では勇気ある方々が慰安婦像の撤去や慰安婦被害者法の撤廃を求めて活動をしているのに、肝心の日本がこのような教科書を野放しにおくわけにはいかないのです。
以下、産経と読売の記事と、馬場伸幸衆院議員の質問主意書(従軍慰安婦の件)からコピペした文面をご紹介します。(【2021/04/28 22:36追記】答弁書のPDFも公開されたので追記します。)
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https://www.sankei.com/politics/news/210427/plt2104270018-n1.html
「従軍慰安婦」表現は不適当 「強制連行」も 政府答弁書 教科書は使用
2021.4.27
政府は27日の閣議で、慰安婦問題に関して「従軍慰安婦」との表現は適切でなく、単に「慰安婦」という用語を用いるのが適切だとする答弁書を決定した。先の大戦中に行われた朝鮮半島から日本本土への労働者動員について「強制連行」との表現が不適切だとする答弁書も決めた。いずれも日本維新の会の馬場伸幸衆院議員の質問主意書に答えた。
答弁書では、平成5年の河野洋平官房長官談話で用いられた「いわゆる従軍慰安婦」との表現に関し「当時は広く社会一般に用いられている状況にあった」と説明した。ただ、その後に朝日新聞が、虚偽の強制連行証言に基づく報道を取り消した経緯を指摘した上で「『従軍慰安婦』という用語を用いることは誤解を招く恐れがある」とし、「単に『慰安婦』という用語を用いることが適切だ」と明記した。
一方、労働者の動員に関しては「移入の経緯はさまざまであり『強制連行された』『強制的に連行された』『連行された』とひとくくりに表現することは適切ではない」と指摘した。その上で、国民徴用令に基づく徴用・募集・官斡旋(あっせん)により行われた労務は、1932年発効の「強制労働ニ関スル条約」で定義された「強制労働」には該当しないとして「これらを『強制労働』と表現することは適切ではない」とした。
一方、4月から中学校で使用されている一部の教科書には「従軍慰安婦」の記述が復活した。文部科学省が3月に公表した令和4年度以降の高校教科書の検定結果でも複数の教科書で「いわゆる『従軍慰安婦』」と記載されている。
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政府が現在も河野談話を継承していることが根拠となっており、表現の在り方をめぐり政府内で食い違いが生じる形となっている。
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https://www.yomiuri.co.jp/politics/20210427-OYT1T50216/
「従軍慰安婦」より「慰安婦」が適切…閣議決定、今後の教科書検定に反映
2021/04/27 22:04
「慰安婦」の表現を巡り、政府は27日、「『従軍慰安婦』という用語を用いることは誤解を招く恐れがある」とする答弁書を閣議決定した。日本維新の会の馬場伸幸衆院議員の質問主意書に答えた。
文部科学省の教科書検定では「従軍慰安婦」という表現を使ったものが合格しており、同省は「今回の閣議決定は今後の検定に反映される」との考えを示した。
教科書検定では1993年の河野洋平官房長官談話などを踏まえ、「いわゆる従軍慰安婦」という表現を使った教科書も合格している。4月から使い始めた中学校の社会(歴史)で1社、来年春から使用される高校の歴史総合で2社がそうした表現を使っている。
答弁書では河野談話は継承しつつ、朝日新聞が2014年、慰安婦を強制連行したとする証言を虚偽と判断し、事実関係の誤りを認めた経緯を踏まえ、従軍慰安婦という表現を「誤解を招く恐れがある」と指摘。「単に『慰安婦』という用語を用いることが適切だ」とした。
教科書検定では閣議決定など政府の統一的な見解がある場合、それに基づいた記述をするという基準がある。文科省教科書課は検定済みの教科書について「教科書会社が訂正申請してくることが考えられる」とした。
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令和令和三年四月十六日提出提出
質問第九七号
「従軍慰安婦」等の表現に関する質問主意書
提出者 馬場伸幸
「従軍慰安婦」等の表現に関する問題の解決は、重大かつ喫緊の課題である。
平成四年の政府調査等では、慰安婦に関して軍や官憲による強制連行を直接示す資料は見つかっていないにもかかわらず、これまで「従軍慰安婦」の用語は、千田夏光氏の著書(昭和四十八年)以降世の中で広く使われており、その結果、あたかも女性たちが強制的に連行され、軍の一部に位置付けられていたとの誤った理解を日本国内のみならず国際的にも与えてしまっているとの問題があり、今後、政府としてこの用語を用いることは適切ではないと考える。その意味で、本年二月八日の衆議院予算委員会で加藤官房長官が「近年、政府においては、慰安婦という用語を用いており、従軍慰安婦という用語は用いておりません」と答弁されたことは高く評価する。
また「いわゆる従軍慰安婦」の用語も、平成五年八月四日の河野官房長官談話をはじめ広く使われている。菅内閣が同談話を継承して、そこで表現されているお詫びと反省の気持ちを引き継ぐことは十分理解するので、同談話そのものを見直すことは求めないが、「従軍慰安婦」の前に「いわゆる」を冠することは、先ほど述べた誤った理解を正すことにはならず、むしろ間違った印象を更に広めてしまう懸念があり適切ではないので、今後この用語を政府として用いることは適切でないと考える。
以上を踏まえ、次の事項について質問する。
一 政府として、平成五年八月四日の河野官房長官を継承するのか、改めて政府の基本的立場を示されたい。
二 政府はなぜ平成五年八月四日の河野官房長官談話において、「従軍慰安婦」という用語を使用したか。
三 「従軍慰安婦」という用語に、軍より「強制連行」されたかのようなイメージが染みついてしまっていると考えるが、近年、政府としてこのような「従軍慰安婦」という用語を使用していない理由は如何。
四 今後、政府として、「従軍慰安婦」や「いわゆる従軍慰安婦」との表現を用いることは、不適切であると考えるが、政府の見解は如何。従軍慰安婦という用語を使用しない場合であっても、例えば、軍や軍からの要請を受けた業者との関係を明らかにせずに、単に女性たちが「慰安婦として従軍させられた」といった表現を用いる等、「従軍」と「慰安婦」を組み合わせた表現を使用することも不適切であると考えるが、政府の見解は如何。
右質問する。
* * * *
衆議院議員馬場伸幸君提出「従軍慰安婦」等の表現に関する質問に対する答弁書
一について
政府の基本的立場は、平成五年八月四日の内閣官房長官談話(以下「談話」という。)を継承しているというものである。
二から四までについて
平成四年七月六日及び平成五年八月四日の二度にわたり公表された政府による慰安婦問題に関する調査において、調査対象としたその当時の公文書等の資料の中には、「慰安婦」又は「特殊慰安婦」との用語は用いられているものの、「従軍慰安婦」という用語は用いられていないことが確認されている。もっとも、談話発表当時は、「従軍慰安婦」という用語が広く社会一般に用いられている状況にあったことから、談話においては、「いわゆる」という言葉を付した表現が使用されたものと認識している。
その上で、政府としては、慰安婦が御指摘の「軍より「強制連行」された」という見方が広く流布された原因は、吉田清治氏(故人)が、昭和五十八年に「日本軍の命令で、韓国の済州島において、大勢の女性狩りをした」旨の虚偽の事実を発表し、当該虚偽の事実が、大手新聞社(←ブログ主註:朝日新聞)により、事実であるかのように大きく報道されたことにあると考えているところ、その後、当該新聞社は、平成二十六年に「「従軍慰安婦」用語メモを訂正」し、「『主として朝鮮人女性を挺身隊の名で強制連行した』という表現は誤り」であって、「吉田清治氏の証言は虚偽だと判断した」こと等を発表し、当該報道に係る事実関係の誤りを認めたものと承知している。
このような経緯を踏まえ、政府としては、「従軍慰安婦」という用語を用いることは誤解を招くおそれがあることから、「従軍慰安婦」又は「いわゆる従軍慰安婦」ではなく、単に「慰安婦」という用語を用いることが適切であると考えており、近年、これを用いているところである。また、御指摘のように「従軍」と「慰安婦」の用語を組み合わせて用いるなど、同様の誤解を招き得る表現についても使用していないところである。引き続き、政府としては、国際社会において、客観的事実に基づく正しい歴史認識が形成され、我が国の基本的立場や取組に対して正当な評価を受けるべく、これまで以上に対外発信を強化していく考えである。
※「強制連行」「強制労働」と言う表現に関する質問主意書については別途エントリーします。
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