【ラムザイヤー論文を読む】(5)何が批判されているのか その1
公開:2021-04-23 14:21:55 最終更新:2021/04/25
このエントリーでは、『李承晩TV』が扱った、ラムザイヤー論文批判等をまとめて取り扱います。今回は前半です。
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- '慰安婦契約'の証拠(2021/02/20)
- 日本では自発的契約だったが、朝鮮では強制連行か?(2021/02/28)
- 有名たアメリカの教授達のラムザイヤーの批判を見てみると...(2021/03/09)
- 吉見義明教授のラムザイヤー批判を見てみると -慰安婦性奴隷論者の知的破綻(2021/03/13)
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まず、過去の【ラムザイヤー論文を読む】シリーズで見てきたように、1991年のラムザイヤー教授の論文では、公娼の「年季奉公」制度の合理性を説明しました。その理論を慰安婦まで拡張したのが2020年の論文(以下、単に「論文」或いは「ラムザイヤー論文」と呼ぶ)で、前者はラムザイヤー論文の第2章「2. Prostitution in Prewar Japan and Korea」(戦前の日本と朝鮮における売春)の前半で要約されています。ここでは、日本軍慰安婦(戦地での慰安婦)は「国内の公娼の延長」と見なして、なぜその契約が6年から2年に短縮されたのか、前金がより高額になったのか、ということを論じただけです。
売春や公娼の倫理的な問題を扱ったわけでも、売春を正当化するものではありません。また、産経が見出しに書いたように「慰安婦=性奴隷を否定」したものでもありません。従って、「道徳的に不適切」という論文批判は、それこそ不適切です。
◆「慰安婦≠性奴隷」論争にラムザイヤー教授を巻き込むな!
2021年2月8日付『中央日報』日本語版の記事によると、実は「歴史学者との論争」も初期の稿にはあったそうですが、雑誌社の要請で削除したとの事です。(記事後述)
これは主に日韓の学者間の論争だと思われますが、「2.4. Recruitment in Japan and Korea」(日本と朝鮮における慰安婦の募集)で、「朝鮮半島でのリクルート方法に問題があった」という事を書いて、間接的に論争の問題点を示唆しているように思えます。
日本の左翼学者や朝日新聞の問題、あるいは、挺対協(現・正義連)の存在などは、2019年のディスカッション・ペーパーやJapan Forwardに寄稿した論文(日本語訳はこちら→その1,その2)を読めば、ラムザイヤー教授はよくご存知なのが分かるからです。
ラムザイヤー教授は、論文内では「性奴隷」(sex slave)という言葉は一切使っていませんが、「性奴隷か否か」という論争はご存知です。
しかし、この論争までラムザイヤー教授や教授の論文に責任を負わせるのは酷です。これは、日韓の学者がすべき論争です。
◆曖昧な「性奴隷」という言葉
それにしても、「性奴隷」という言葉ほど曖昧なものはないのではないでしょうか?
初期には「20万人を強制連行した」だの、「日本軍が道端で若い女性を拉致した」と言われ、今でも多くの韓国人はこうして連れ去られた女性が「閉じ込められて陵辱された」というイメージを持っています。映画「鬼郷」では慰安婦を銃殺するシーンも描かれているようです。
しかし、既に韓国政府は強制連行は主張していません。『チャンネルFujichan』の宮本富士子さんの情報によると、韓国の女性家族部(省に相当)のHPから、昨年こっそりと「強制」の文字が消されたそうです。
◆吉見義明の知的破綻
次に、吉見義明教授の言う「広義の強制」。彼は強制連行説が否定された後は「広義の強制」と言い換え、未だにこれに固執していますが、「慰安所では自由が無かったので、奴隷状態だった」と言うものです。しかし、慰安所管理人の日記や文玉珠(ムン・オクジュ)氏の回想録などにより、慰安所での生活はほぼ明らかになっており、『李承晩TV』でも、冒頭にリストした動画の「4」で、最早彼の説は知的破綻していると言い切っています。
高額な報酬(高額な前金)が要因となって、詐欺まがいの契約を結んでしまった女性〔とその家族〕はいたでしょうが、それは女性と慰安所(民間売春宿)の問題で、これに日本軍や日本政府は関与していません。但し、彼は一応専門家なので、「契約は無かった」とは言っていません。
◆「河野談話」は“証拠”ではない
強制性について、『河野談話』を持ち出す人がいますが、〔確かに、「官警の関与」の意味が不明確だったり、記者会見で強制性を認めたことは不味かったが〕あくまでも政治的な見解であり、「証拠」ではありません。既に、韓国政府との摺り合わせがあったことも明らかになっています。また、当時は、事実が十分に究明されていませんでした。
ちなみに、下記は、韓国で「慰安婦は売春の一種」と講義中に発言して名誉毀損で訴えられた柳錫春(リュ・ソクチュン)元教授が、公判中に原告側から河野談話を持ち出されたときの反論です。(引用は2021年3月14日付『シンシアリーのブログ』の記事翻訳より/緑字はブログ主追加)
リュ前教授はまた、「河野談話(1993年)は日本軍慰安婦問題と関連して、日本政府が責任を負うという趣旨の文書であるが、その後、日本政府が直接責任を負う必要がないと解釈が変わっている」とし「その理由は、吉田清治の証言が虚偽であると明らかになるまで20年の歳月がかかり、吉田の証言を報じた朝日新聞も、その記事が誤報だと認めて記事を下した(2014年)。検察側が「強制連行」の証拠として提示した「河野談話」や国際機関の文書は、その間に出てきた文書であるが、そのような文書を作成するのに関与した人たちのキャリアを見てみると、日本軍慰安婦問題の専門家でもなく、果たしてそのような文書に権威を付与することができるか聞きたい」という意見を、直接明らかにした。
◆低レベルな批判をする学者達
その他の反論というか批判は、例えば、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)政治学部の学部長マイケル・チェ教授が起草した経済学者による論文撤回を求める声明で、3千人を越える学者が署名しているそうです。
しかし、これに対する西岡力・麗澤大学教授の反論文を読めば分かるように、「11歳で性奴隷にされた」、「慰安所で拷問やレイプが行われていた」、「朝鮮人慰安婦の75%は慰安所で死んだ」といった低レベルなものです。(但し、こういう間違った認識が広まっている、あるいは広めようとしている輩がいるという認識は、我々日本人は持たなければなりません。)
ただ、ブログ主は、ここに恐ろしさを感じるのです。
普通、まともな研究者は専門外の事に軽々しく口を出しません。
従って、彼らを動かすもっと大きな存在があるような気がします。恐らく、批判者の多くは単なるDupes(お馬鹿さん)だと思いますが、日本をいつまでも悪者にしておきたい者達や、東京裁判史観を壊したくない人達、そんな力です。
ちなみに、署名をざっと見たところ、日本人名は、浅野順、五郎丸聖子、伊藤慎二(敬称略)の3つが見つかりました。漢字で書かれているか、漢字が添えられているローマ字の名前を拾っただけなので、ローマ字だけの氏名は漏れているかも知れません。
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様々な教授の名前が出てくるので、覚え書きとしてマーキングしておきます。
https://japanese.joins.com/JArticle/275282?sectcode=A10&servcode=A00
「『慰安婦は売春婦』論文、みじめな欠陥」ハーバード教授反撃
中央日報 2021.02.08
「慰安婦は売春婦」という主張を発表したハーバード大学教授の論文に「学術的根拠が不足している」という批判の声が米国学界からあがった。
7日(現地時間)、ハーバード大学の校内新聞「ハーバードクリムゾン」は、米国歴史学・法律学教授がジョン・マーク・ラムザイヤー教授(同校ロースクール)の論文に強い疑問を提起したと報じた。
これによると、かつて同校韓国学研究所所長を務めたカーター・エッカート韓国歴史学教授は、ハーバードクリムゾンに電子メールを送り、「ラムザイヤー氏の論文はみじめなほど、実証的に、歴史的に、道徳的に欠陥がある論文」と指摘した。エッカート教授は「(ラムザイヤー教授が)慰安婦問題の本質である日本の植民主義と軍国主義の脈絡を軽視した」とし「日帝強占期の政治・経済的脈絡は排除したまま『慰安婦』事件だけに焦点を当てて主張を行った」と批判した。従って「慰安婦被害者の性的尊厳性は無視され、単純で一次元的な問題に縮小された」と指摘した。エッカート教授は同校教授のアンドルー・ゴードン歴史学教授とともに、ラムザイヤー教授の論文を批判する別途の反駁文も準備している。この論文は学術誌などに送られる予定だ。
ラムザイヤー教授の弟子も問題を提起した。1990年代にラムザイヤー教授の授業を聞いたコネチカット大学韓日歴史学のアレクシス・ダデン教授は該当論文の偏向性を指摘した。数多くの学術的証拠を排除し、著者の主張を裏付けるための証拠だけを選択的に取り入れたということだ。ダデン教授はラムザイヤー教授の論文について「概念的にも誤りがある」としながら「歴史的背景と慰安婦が設置されるまでの脈絡を全く理解しないで作成したため」と指摘した。あわせて「とんでもない内容で、愚かな学問的生産品のひと欠片」とも批判した。
ダデン教授は昨年12月、ラムザイヤー教授から該当論文の草稿を手渡されて検討した後、問題を提起したと話した。ハーバードクリムゾンによると、ダデン教授は草稿を見たとき「衝撃的だった」としながら「日本政府の立場を反論する主な根拠の多くが脱落しており、深刻な論理的誤りがあるという事実を知らせた」と明らかにした。ただし、ダデン教授の指摘が論文最終原本に反映されたかどうかは確認されなかった。
慰安婦被害者が性奴隷生活をしたという従来の研究に反論するための論理だけを展開したという批判も出てきた。ニューヨーク・クイーンズ大学社会学のミン・ピョンガプ教授は「日本の新民族主義観点だけに片寄っている」としながら論文の意図に疑問を呈した。
ハーバードクリムゾンによると、このような批判をめぐって、ラムザイヤー教授は論文初期バージョンに「歴史学者との論争」形式で入れたが、学術誌側の要請により削除したと答えた。これに関連し、学術誌側はコメントの要請に応じなかったとハーバードクリムゾンは伝えた。
これに先立ち、ラムザイヤー教授は3月に出版予定の法・経済関連学術誌「インターナショナル・レビュー・オブ・ロー・アンド・エコノミクス」(International Review of Law and Economics)誌65巻に「太平洋戦争当時の性契約(Contracting for sex in the Pacific War)」というタイトルの論文を載せた。ラムザイヤー教授はこの論文で、慰安婦女性が日本軍と互いの利益のために契約を結び、日本政府ではなく女性を騙した募集業者に責任があると主張した。
しかし、慰安婦契約理論を研究したハーバード大学ロースクールのノア・フェルドマン教授はハーバードクリムゾンに、ラムザイヤー教授が自身の主張とは反対の根拠を出したとも批判した。論文で、慰安婦契約を社会・経済・教育差別を制度的に合理化した「ジム・クロウ法」にたとえたが、この法はむしろ「負債にともなう奴隷契約」を意味するというのがフェルドマン教授の説明だ。フェルドマン教授は「権力の不一致に伴う強制契約だったということを証明した格好」と突いた。
慰安婦女性が自発的に契約を結んだという主張に関連し、ウェルズリー大学アジア・政治学のキャサリン・ムーン教授は「14~16歳の女性が内容を完全に理解したとどのように証明することができるのか」とし、慰安婦女性が契約を結ぶことになった脈絡を無視したと批判した。
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