【ハングル】鎮痛、陣痛→どっちも「진통」!?
たまたま目に付いたアゴラの『チョ・グク法相の電撃辞任に慌てふためく韓国各紙』という記事の中で、本論とは直接関係ないのですが、筆者がハングルの同音異義語に目を留めていた箇所がありました。
曺国(チョ・グク)氏の辞任に際して文在寅大統領が発した言葉として、「大きな鎮痛」(朝鮮日報)、「大きな陣痛」(中央日報)と韓国紙の日本語版がそれぞれ異なった表記をしているというのです。それで、AI翻訳を使ったら、どちらも「진통」だとして筆者は納得されているのですが、これは正しくは「沈痛」ではないだろうか?と思いました。
そう思ってGoogle翻訳を使って翻訳してみたら、これも「진통」でした。
但し、韓国語に「沈痛」に該当する語があるかどうかは分かりません。
発音は、沈痛:chimtong、鎮痛:jintong、陣痛:jintong、らしいので、少なくとも「鎮痛」と「陣痛」は同音異義語です。
韓国語に同音異義語が多いというのは有名ですが、大抵は文脈で理解できるでしょう。とは言え、このような微妙?な違いだと、新聞記者レベルでも解釈を間違えるということが分かりました。
ただ、単純にそれだけが理由ではないかもしれません。
「진통」の元の漢字が「鎮痛」だとしても、果たして、その意味が「痛みを抑えること」だけなのか?ということも考える必要があるからです。
ハングルだと分かりにくいので別の例で説明すると、
最近、中国語の「粉身碎骨」(日本語では「粉骨砕身」が一般的ですが、四字熟語辞典によると「粉身砕骨」、「砕骨粉身」とも、とあるので中国語と同じ熟語と考えても良い)が、日本語の意味と同様の、①目的のために骨身を削って努力する(小学館日中辞典)だけでなく、②あることに加担したために生命の危険に遭う or 死ぬ(成語辞典)という意味があるということを知ったからです。
日本語では最初から①の意味しかなかったのか、②の意味がなくなってしまったのかは分かりませんが。
韓国語の「진통」は「粉骨砕身」の逆(意味が増えた)のことが起こったのかも知れません。(ただ、それなら「鎮痛」と訳したら誤り。)
最近、文大統領が使った「적반하장(賊反荷杖)」という熟語に対しての日本語の「盗っ人猛猛しい」という訳語が専門家界隈で話題になっていました。意味は正しいのですが、日本語の「盗っ人猛猛しい」程の強さはないということです。(とは言え、大統領が他国に対して使う言葉ではないと思いますが。)
こういう所に翻訳の難しさがありますね。
ただ、今回の韓国紙の誤訳(?)は、やはり、「同音異義語」による解釈の違いが原因だと思います。
下は前後の文も一緒に引用したものですが、二紙の訳文をご覧下さい。
朝鮮日報(日本語版):チョ法相辞任で文大統領が謝罪「国民に多くの葛藤を引き起こした」
文大統領は同日、チョ長官辞任発表から1時間後に招集した首席・補佐官会議で「今回韓国社会は大きな鎮痛を経験した」とし「その事実だけでも大統領として国民に非常に申し訳ない」とした。文大統領は「私はチョ国法務部長官とユン・ソギョル検察総長の素晴らしい組み合わせによる検察改革を希望した。夢のような希望になってしまった」と述べた。
中央日報(日本語版):文大統領、チョ・グク長官辞任に「葛藤を招いて申し訳ない」
文大統領はこの日午後、青瓦台(チョンワデ、大統領府)で首席・補佐官会議を開き、冒頭発言で「チョ・グク法務部長官と尹錫悦(ユン・ソクヨル)検察総長の幻想的な組み合わせによる検察改革を望んだが、夢のような希望に終わってしまった」とし、このように述べた。冒頭発言の最後に「我々の社会には大きな陣痛があった。その事実だけでも大統領として国民に非常に申し訳ない気持ち」と述べ、繰り返し遺憾を表明した。
朝鮮日報の訳は、少なくとも日本語訳として「鎮痛」では「痛みを抑える」ことになってしまうので誤訳ですね。中心となる意味は「痛(み)」らしいので、無理して熟語を使わずに「痛み」と訳すべきかと。
しかし、中央日報の「大きな陣痛」はどうでしょうか。「産みの苦しみが大きい」→「始まったばかりの検察改革は大変苦しいスタートとなった」ととれば、これはこれで正しいのかも知れません。
ムンちゃんはどっちの意味で「진통」を使ったのでしょう?
下は原文です。
原文(朝鮮日報)
문 대통령은 이날 조 장관 사퇴 발표 1시간 뒤 소집한 수석·보좌관 회의에서 "이번에 우리 사회는 큰 진통을 겪었다"면서 "그 사실 자체만으로도 대통령으로서 국민들께 매우 송구스러운 마음"이라고 했다. 문 대통령은 "저는 조국 법무장관과 윤석열 검찰총장의 환상적인 조합에 의한 검찰 개혁을 희망했다. 꿈같은 희망이 되고 말았다"며 이같이 말했다.
日本語版記事が原文の直訳とは限らないので、確認のためにGoogle翻訳(ママ)
ドア大統領はこの日、ジョー長官辞任発表1時間後招集したシニア・アドバイザー会議で「今回私たちの社会は大きな鎮痛を経験した」とし「その事実だけでも大統領として国民に非常に辱め心」とした。ドア大統領は「私は祖国司法長官とユンソクヨル検察総長の素晴らしい組み合わせによる検察改革を希望した。夢のような希望になってしまった」と述べた。
機械翻訳で判断すると、朝鮮日報のこの部分は韓国語記事をそのまま日本語に訳したと考えても良さそうですね。
したがって、朝鮮日報と中央日報の二人の記者は、こんなシンプルな表現でも別の解釈をしたことになります。
ところで、先日のBSフジ・プライムニュースで元駐韓日本大使の武藤正敏氏が、『反日種族主義』が韓国で10万部売れるのは異例のことという説明で、「全部平仮名で書いてあるようなものなので、知的レベルが高くないとこういう本は読めない」という趣旨のことを仰っていましたが、確かにその通りだと、上の例で分かります。
元が中国語であろうと日本語(和製漢語)であろうと、「熟語」を「発音(記号)」だけで覚えないとならないのは大きなハンデです。
韓国語は漢字を棄ててしまったことで、表意文字の便利さの恩恵も棄ててしまった訳ですが、漢字のデメリットというか、大変なことももちろんあります。
漢字は「書けなくても読める・意味は分かる」ことが多いので便利な一方、なんとなく分かった気になっていたり、漢字の見た目で実は間違って意味を覚えている熟語とか、正しい漢字を知らないと誤変換していても気付かなかったりして恥をかくことがありますね。
いい例が見つからないのですが、昔、林真理子氏が「閨秀作家」(女流作家の美称)と書かれたとかで、「閨」(女子の部屋→女性の意)を「閑」とでも見間違えたのか、「悪い意味だと思ってた」というようなことを本に書いていたのを読んだことがあります。「閨」などという漢字は「閨秀」くらいでしか見かけない文字です。
* * * *
なお、「ハングル」とは1446年に李朝の世宗が「訓民正音」の名で公布し、かつては漢字に対して諺文(オンモン)、女手(アムクル)と呼ばれたそうです。
日本語の「漢字」に対する「仮名」に該当しますが、漢字を「真書」と言うのに対し、「諺文」は「通俗的な文字」の意味で、科挙の国では四書五経を学ぶことが学問なので普及をしませんでした。(ただ、数ヶ月前にハングルで漢字にルビを振っている文書かなにかが見つかったという記事を見たので、実はコッソリと使っていたのかも知れません。)
現在の呼び名のハングルは、han=大・正、geul=文字、で「偉大な文字」という意味だそうです。
24種類の「パーツ」の組み合わせで文字を作れるので、論理的にはどんな音も表せることになり、それ故「科学的な文字」と自負しているそうです。「진통」(ちんつう)の例を見ても分かるように、平仮名と異なり「1拍」以上の文字もあるので、平仮名よりはもっと多くの文字がありますが、いずれにしても「表音文字」なので、学術的な本とか、高度な内容の本を読むのは大変でしょうね。
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