24日に韓国がWTOの一般理事会で日韓の貿易問題を持ち出した件に関し、日本の報道では「他国が関心を示していない」、「二国間の問題だ」と、他国の“つれない態度”が伝えられていますが、ロイターの記事を読んで、また韓国のペースに持ち込まれたかもしれないという危惧を抱きました。
一般理事会と言うのは参加国の代表が一堂に会した組織で、その場でこのような問題を深く議論する場ではないので、今後、二国間協議で争われることになるのですが、このような一般理事会の性格を考えると、韓国の一つの思惑は達成されたようです。
まず、日本の報道として、日経の記事を引用しますが、確かに会議後の各国の代表からは冷ややかな言葉が出ており、外交筋も「韓国の主張に賛同する空気ではなかった」と取材に答えています。
WTOの一般理事会は加盟164カ国・地域に共通する貿易課題を議論するのが主な目的。過熱する日韓の対立に対し、出席国からは冷ややかな声も出た。欧州連合(EU)のマルク大使は日本経済新聞社の取材に「2国間の問題であり、我々は関与しない」と述べた。アフリカの国の代表も「日本の措置の是非はさておき、なぜこの場で議題になるかは理解に苦しむ」と首をかしげた。
韓国はWTOに日本を提訴をする準備を進めている。今回、一般理事会で議題にしたのも、提訴を視野に加盟国の支持を得ることが目的とみられる。ただ、「韓国の主張に賛同する空気ではなかった」(外交筋)といい、狙い通りに効果があったかどうかは不透明だ。一般理事会では議長国のタイが「両国が友好的な解決策を模索することを望む」と議論を締めくくった。
しかし、ロイターの記事を読んでみると、少しニュアンスが違うのです。(最後の段落)
https://jp.reuters.com/article/southkorea-japan-laborers-wto-idJPKCN1UJ2JN
日韓がWTOで応酬、対韓輸出規制強化巡り
2019年7月25日
[ジュネーブ 24日 ロイター] - 日本と韓国は24日に開かれた世界貿易機関(WTO)の一般理事会で、半導体材料の対韓輸出規制についてそれぞれの立場を主張した。韓国は日本の動きをけん制するため、他の国・地域に理解を訴えた。
日本は今月4日、フッ化水素など半導体材料3品目の韓国への輸出について規制を強化した。さらに、貿易規制上の優遇措置対象である「ホワイト国」リストから韓国を外すための手続きに入った。[nL4N2421ES]
伊原純一・駐ジュネーブ国際機関政府代表部大使は理事会で、日本は多くの国と同様、定期的に輸出管理を見直していると主張。韓国が制度改善に取り組むという信頼に基づき2004年にホワイト国に指定したが、過去3年間は日本側が要求したにもかかわらず制度改善について全く協議が設けられなかったと説明。「さらに、韓国向け輸出で不適切な事案があった」とした。
「韓国は日本の措置が自由貿易制度に反すると言うが、自由貿易とは武器に転用可能なモノや技術を管理・条件なしに取り引きするものではない」と反論した。日本が世界的なサプライチェーンを混乱させるとの韓国の主張については、日本の輸出管理見直しは安全保障に基づいているため、WTO規制は適用外であり、混乱を招く主張だと韓国をけん制した。
韓国の金勝鎬(キム・スンホ)新通商秩序戦略室長は理事会後記者団に「日本の輸出規制は貿易措置でも安全保障上の措置でもなく、外交上の対立で有利な立場を得るための戦略だ。つまり、元徴用工問題だ」と強調。
2国間協議に応じるよう外務省の山上信吾経済局長に提案したが、日本側は拒否したと批判。「これは日本が自国の過去の行動に向き合う自信も勇気もないことを明確に示している」としたうえで、日本は世界経済に混乱をもたらし、WTOの存在意義を損ねる恐れがあると主張した。
伊原氏は、日本側は既に韓国側に5時間にわたり説明を行ったと指摘。山上氏は、日本側はさらなる対話を拒んではいないが、正式な協議の要請は受けていないと述べた。
山上氏は、両国の輸出管理機関の間で対話が不足しているのは明らかだとし、そこから取り組むべきかもしれないと述べた。
韓国は国際社会を動員して日本の動きをけん制するために一般理事会にこの問題を持ち込んだが、会議では第三国による発言はなかった。日韓以外の複数国の代表はロイターに、複雑な歴史が絡む2国の対立に巻き込まれたくはないと述べた。
つまり、他国の代表は、この貿易問題が「二国の歴史問題に根ざした対立」という認識です。(少なくとも、ロイターの記事はそう報じています。)
ロイターの記事は日本語版記事は元記事(英語)の翻訳ではなく、日本向けにアレンジしているのですが、上の記事の元記事に当たる英文記事を読むと、これがもう少し顕著になります。
まず、記事の書き出し(1段落目ー①)から既に韓国目線なのです。そして、次の段落(②)で、すぐに「“徴用工”裁判」に言及しています。記事はその後、日韓それぞれの発言内容が続き、最後(③)に、日本語の記事と同様な締めくくりをしています。
https://www.reuters.com/article/us-southkorea-japan-laborers-wto/japan-and-south-korea-clash-at-wto-over-trade-row-idUSKCN1UJ1EM
Japan and South Korea clash at WTO over trade row
訳:日本と韓国が貿易論争を巡りWTOで衝突
July 24, 2019
①Japan has enraged South Korea with a plan to “normalize” trade procedures that are currently “simplified”, effectively curbing exports to South Korea and erecting a barrier that could disrupt the global supply of semiconductors.
【訳】日本は現在「簡素化」されている貿易手続を「正常化」する計画で韓国を怒らせた。それ(計画)は、韓国への輸出を効果的に抑制し、世界的な半導体の供給を妨げるやもしれない障壁を築くものだ。
②That followed a ruling last year by a South Korean court that Japanese companies had to pay compensation to South Koreans forced to work in Japanese factories during Japan’s occupation of the Korean peninsula from 1910 to 1945.
【訳】これに先立って、昨年、韓国の裁判所(大法院)で、1910年から1945年までの朝鮮半島の占領中に日本企業が日本の工場で働くことを余儀なくされた韓国人に補償を支払わなければならなかったという判決が出されている。
Japanese ambassador Junichi Ihara told the WTO meeting that the change in trade procedures was Japan’s prerogative, was nothing unusual, and reflected Seoul’s failure to maintain dialogue on the mutual streamlining of trade procedures.
It also was also based on national security concerns, following “some cases of inappropriate export” to South Korea, the ambassador said.
That national security claim could make it exempt from the rules of the WTO, where South Korea chose to raise the issue on Wednesday, sending deputy trade minister Kim Seung-ho to address the WTO’s top-level meeting short of a ministerial conference.
“It’s not at all a trade measure, it’s not at all a security measure, it’s purely strategically planned to gain the upper hand in the diplomatic rows, I mean the forced labor issues,” Kim told reporters.
Japan sent the director-general of economic affairs at its Foreign Ministry, Shingo Yamagami, and Kim said he had asked for a face-to-face meeting with Yamagami but had been flatly turned down.
“That clearly shows that Japan has not confidence or even courage to face what Japan has done,” he said. “This evasive attitude shows that Japan tries to close its eyes to what it has done and Japan tries to close its ears to... Japanese actions’ victims.”
Kim said Japan risked causing disruption to the world economy and undermining the WTO, and called on Japan to return to bilateral talks.
Ihara said Japanese officials had already briefed their South Korean counterparts for five hours and although Japan was not refusing further talks, Yamagami said he had not received an official request for dialogue.
“There is apparently a paucity of dialogue between export control agencies between the two countries, maybe that is where they should start,” Yamagami told reporters.
South Korea had brought the dispute to the WTO’s General Council, hoping to rally international opposition to Japan’s move.
【訳】韓国は、日本の動きに対する国際的な反対を呼びかけること期待して、WTO一般理事会に論争を持ち込んだ。
③But no other WTO members took the floor, and diplomats from several other countries told Reuters they preferred not to get involved in the dispute between two nations with an intertwined and complex history.
【訳】しかし、他のWTO加盟国は踊らされなかった(何もしなかった)。そして他の数カ国の外交官がロイターの取材に語ったことには、複雑に絡み合った歴史を持つ2国間の紛争に巻き込まれたくないとのことだった。
結局、韓国は、英文でこのような記事を発信させることに成功したわけです。
下の画像にあるパネルはレーダー問題の時に産経の黒田特派員が語ったことですが、韓国はお得意のやり方で2番目の「周囲にアピール」までは成功したことになります。
もちろん、だからといって、韓国にとって、これが功を奏してホワイト国外しを取り消せる、とは限りません。と言うより、このままホワイト国から除外されるでしょう。それによって、韓国経済が完全に死ぬかも知れません。
しかし、海外には、“日本が「(自称)徴用工裁判」の報復でやった”という印象を与えることには成功ました。これは、ボディーブローのように、後々響いてくるかも知れません。この問題ではなくても、別の場面で。
もしかしたら、WTOでは白黒つかないことが分かっているからこそ、裁判と結びつけるようなことを騒ぎ立てたのかも知れません。
韓国という国は、自分が傷つくことなどお構いなしに、日本にダメージを与えさえすればいいという国なのですから、これは彼等にとって「勝利」かもしれません。
このように裁判と結びつけられてしまった一つの原因は、世耕経産相のTwitterでの“失言”にあります。(下の画像は、24日放送のプライムニュースより/最近括弧付きとかクォーテーション付きで書く意味を知らない方が多いのですが、このブログを読んで戴いている方は大丈夫だと思います。)
ブログ主は、この③は、韓国という国が「国際的ルールを守れない国」であるという一つの例として出しても問題ないと思いますが、結果として①や②と並列的に扱われ、韓国のみならず、朝日新聞などの反日メディアにつけいる隙を与えてしまいました。
彼等が「報復だ」と騒ぐ根拠になってしまったのです。
また、菅官房長官や安倍総理も、この③に言及していたことも、敵(朝日を含む)の思う壺でした。
これにより、反日メディアは決まったように「実質的報復措置」という言葉を使い続けています。
* * * *
ところで、先月のG20でも議題になったのでご存知だと思いますが、各国、特にアメリカは現在のWTOに不満があり、「上級委員会」、つまり、裁判所のような機能が、まもなく委員が1人だけになり、機能不全に陥ることが分かっています。
従って、このまま日韓の二国間協議が不調に終わり、(不調に終わる可能性の方が高いですが) その後、パネル(委員会)を設置しても、“裁判官がいない”状態になり、永遠に採決が降りないことになります。
通常でも2年ほどかかるので、韓国政府にまともな頭があれば、もし、「韓国が安全保障上ホワイト国たり得ない国だというのは“誤解”だ」と言い張るなら、素直に「ごめんなさい」した方が得策なのですが、何分常識では測れない国なので、行き着くところまで行ってしまうでしょう。
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最後に、上述のWTO改革に関するNHKの解説を掲載しておきます。(NHKなので反アメリカ(反トランプ)の論調ですが、それを差し引いて読めば、基礎的なことからよく分かると思います。
アメリカ以外の国はなんとかWTOを維持する形で改革を行おうとしてきましたが、アメリカのせいでWTOが無くなることは必至です。ただ、福島産の海産物で日本に不当な判断がなされたことは記憶に新しく、既存の組織を立て直すより、新たな組織を一から作る方が容易いというのはよくある話です。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190606/k10011943091000.html
WTO改革って何? 世界のキーマンたちが語る
2019年6月6日
日本では初めて、G20=主要20か国の首脳会議が、今月、大阪で開かれます。議題の1つが、WTO=世界貿易機関の改革。今回のG20で、世界は、トランプ大統領と習主席の首脳会談に注目していますが、その米中の貿易摩擦にも、密接に関わるテーマです。そして、日本も、その議論の当事者です。なぜWTOに改革が必要か? そもそもWTOって何…? 本部のあるスイス・ジュネーブで、3人のキーマンに聞きました。(ウィーン支局長 小原健右/ロンドン支局記者 栗原輝之)
貿易戦争は本当の戦争につながる
「貿易戦争は、実際の戦争につながる不幸な傾向がある。事態がエスカレートして予想外の方向に展開してしまうからだ。それは歴史が証明している現実だ」
悲壮感漂う表情でこう話したのは、スイス・ベルン大学のピーター・バン・デン・ボッシュ教授。WTOの“最高裁判事”を2年前まで務めた人物です。
WTOとは、何か。第二次世界大戦では、世界で貿易のブロック化が進んで戦争の要因になりました。その反省に立ち作られた前身の組織をもとに1995年に設立されたのがWTOです。
貿易での対立を「紛争処理制度」という仕組みで解決しています。しかし、この仕組みがいま、崩壊の危機にあります。アメリカがWTOに対し“制裁”を科しているからです。
裁判所が機能しなくなる
この「紛争処理制度」ですが、“裁判所”をイメージするとわかりやすくなります。2つの国が貿易をめぐって対立し、一方が訴え出たとき、WTOは加盟国で委員会を作ります。これが裁判所の役割を果たし、双方の主張を聞いたうえで“1審判決”を下します。
“判決”に不服があった場合は、「上級委員会」で審理します。審理は2審制なため、上級委員会は“最高裁判所”に当たります。160を超える加盟国が選んだ7人の専門家で構成され、下した“最高裁判決”には法的拘束力があります。
ところがアメリカは、上級委員会の専門家の新たな選出を2年前から拒否しています。この間、4人が任期を迎えて退任し、いまは3人しかいません。そして、ことし末には、さらに2人が任期満了を迎え、1人にまで減ってしまいます。上級委員会が機能するために必要な最少人数は3人。このままでは“最高裁判所”は審理が行えなくなり、「紛争処理制度」は機能停止に陥ります。
背景にはアメリカの不満
なぜアメリカは選出を拒むのか。バン・デン・ボッシュ教授は、上級委員会が8年前に出した“最高裁判決”がきっかけの1つになっていると話します。
当時アメリカは、中国から輸入される製品は不当に価格が安いとして、高い関税をかけていました。不当に価格が安いのは、自国の企業に対して、中国政府が出資する企業が部品を格安で提供したり、政府系の銀行が補助金を出したりしているためだとして、アメリカは国内の産業を守ろうとする措置をとっていたのです。
これに対し中国は、部品の安値での提供や、銀行からの補助金は民間どうしのやり取りで、政府は関係ないなどと主張し、「紛争処理制度」に訴えました。その中国の訴えが上級委員会でおおむね認められ、アメリカの対抗措置は不当だとする “判決”が下されたのです。
「アメリカの対中政策を制限する“判決”だと受け止められた。その後も中国に有利な“判決”が下され、アメリカは強い不満を抱いていた」
上級委員会で“敗訴”すると、それに従わなければなりません。このためアメリカは上級委員会の新たな委員の選出を阻んで、「紛争解決制度」を機能停止にしたうえで、貿易問題をすべて2国間で解決しようとしているのではないか。今の米中貿易摩擦はその象徴だと、バン・デン・ボッシュ教授は指摘します。
「アメリカは、力ですべてが決まり、小国は強国のいいなりになるしかない時代に、世界を逆戻りさせたいのだろうか。同じ過ちを繰り返さないため作った仕組みを否定すれば、多国間主義と自由貿易体制の否定にもつながる。各地で自国第一主義が台頭するなか、世界は同じ過ちを繰り返してしまうのではないかという不安さえ覚える」
WTOは自由貿易の“公共財”
機能停止に追い込まれかねないWTOの紛争解決の仕組みをなんとか守ろうと、奔走している日本人がいます。ジュネーブにある国際機関の日本政府代表部で特命全権大使を務める伊原純一大使です。
「WTOは世界の貿易にとって非常に重要な組織。貿易の問題はルールに基づいて解決できるようにすることが、日本の基本的な立場だ。どの国の大使も共通の公共財としてのWTOを維持していくために働いている」
日本もアメリカと同じ立場に?
そのWTOの“判決”が、ことし4月、日本に衝撃をもたらしました。
福島県などの水産物に対する韓国政府の輸入禁止措置について、撤回を求める日本政府の訴えが、WTOの上級委員会によって退けられたのです。WTOは特定の国の商品を理由なく差別することを禁じています。
しかし、上級委員会の判断は、韓国の輸入禁止措置そのものが問題かどうかまで踏み込まないまま、“1審の日本勝訴”を取り消しました。日本もアメリカと同様、納得のいかない“敗訴”に、直面したのです。しかし伊原大使は、アメリカがとる強硬的な手段は否定します。
「アメリカの措置は必ずしも同意できない。しかし、アメリカが問題としていることは、日本も確かに問題だと思っていることが多い。そういう共通の問題意識をうまく実際の政策に反映し、アメリカとの協力関係につなげていくことが重要だ」
(後略)
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