【エネルギー】再生可能エネルギーの課題 (3)電力自由化の弊害
この夏に起きた北海道地震で、生活協同組合コープさっぽろ(以下、コープと表記)が停電により受けた損害に対し、9億6千万円の損害賠償請求を北海道電力に求める、というニュースがありました。(記事後述【※1、2】)
北海道新聞がスクープし、その後、他社も後追いの記事を書きましたが、おそらく、批判が殺到したのでしょう。コープはそれを否定する声明を出し、その後は北海道新聞が訂正するわけでもなく、コープもHPにも掲載していた声明文を削除し、いつのまにかうやむやになって終わってしまいました。
理事長の発言など、かなり具体的なことも報道されていたので、北海道新聞のスクープはかなりの裏付けがあり、コープが損害賠償請求を考えていたのは事実でしょう。
しかし、コープが「トドック電力」という電力の小売事業(新電力)だけでなく、自らも太陽光発電の事業者(「エネコープ」)であることからして、北電にとって足を引っ張る“お荷物”の存在であることを考えると、盗人猛々しいという言葉がピッタリです。
上記の話はこれから連続して書こうと思っている「電力自由化の弊害」の“枕”としてご紹介しました。
電力自由化とは
下の図は色々なことを詰め込みすぎて分かりづらくなってしまいましたが、ここではまず、四角の中だけを見て下さい。
左から、発電所→電力会社→小売業者というボックスが並んでいますが、従来はここを全て北海道電力のような電力会社が一括して行っていました。
電力の自由化により小売業者の部分に様々な企業が参入できることになり、消費者は選択が可能になりました。(「トドック」はこの図では「小売業者」になります。)
消費者は契約した小売業者の料金表に従って電気代を支払います。
送電網は電力会社が所有し、メンテナンス(保守・管理)も行っているので、小売業者はこの費用の一部を「託送料」という形で支払います。
上記とは別に自前の発電設備を備えて電力を売る業者がいます。これが左端の「発電施設」と書かれたボックスで、「エネコープ」がこれに該当します。
この業者は、前回のエントリーで見たように、認可の年度によって固定された価格で電力を電力会社に買い取って貰え(『固定価格買い取り制度』)、初年度に参入した業者なら、40円/1キロワット時(kWh)という価格が20年間固定されます。
一方、電力はマーケット(市場)で売買されます。価格は需要と供給で決まりますが、もちろん、40円では売れません。もっと低いところで価格が決まり、その差額は消費者が『再エネ促進付加金』という名目で支払わされている、というのは前回ご説明した通りです。
「エネコープ」のような会社が北海道電力のような電力会社に“おんぶに抱っこ”と言うのは買い取り価格の件だけではありません。
下はドイツの例なので数字はともかく、ある意味、緯度の高い北海道の電力事情を考えるのにはよい例かと思います。(出典は次回以降に説明します。)
上のグラフは12月13日~19日という真冬の1週間の発電状況を示したものです。
ドイツの再生可能エネルギー(風力発電、太陽光発電)は風力発電の方が盛んということもありますが、日照時間の少ないドイツの冬では太陽光発電は一日の内、発電できる時間も量もごくわずかです。
このグラフで、天候頼みの風力発電(青)、太陽光発電(黄色)はコントロールできず、好き勝手に発電しているのが分かると思います。
そして、需要(ピンクの線)と再生可能エネルギーによる発電量を睨んで発電量を細かく調整(→【2018/10/27追記】)しているのは従来型の発電(グレーの部分:火力発電、原子力発電)です。これを専門家の間では「シワ取り」と呼ぶそうです。
【2018/10/27追記】10月25日付に東京電力の話として、需給調整の方法が載っていました。それによると、
「天候などに応じて変わる需給をAI(人工知能)で予測し、発電出力を調整している」
そうです。
価格は高いわ、送電設備の保守には責任を持たないわ、「シワ取り」はして貰うわで、コープが北海道電力に偉そうに文句言える筋合いではないのです。
* * * *
北海道電力のような電力会社の立場に立つと、企業活動のためには発電所や送電網、変電所などの設備を維持するのに多大な金が掛かります。しかし、電力の自由化により、売上が不安定になり、安定して電力を供給するための設備投資が困難になっています。
これが北海道では特に顕著なのです。
北海道のような土地では、土地の広さや気候などの問題があり、それでなくても北海道電力は収益性が低いのですが、泊電発稼働の許可は下りず、貧弱な送電網と老朽化した火力発電所をだましだまし使ってたのが地震によるブラックアウト(全道停電)の遠因と言えるでしょう。
次回に続きます。
【※1、2】参考記事
ブログ主が保存していたのは北海道新聞の記事ではなく、NHKの記事です。北海道新聞は停電の件では北海道電力を叩いていた立場で、これは北海道庁も同様でした。、
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20181008/k10011662921000.html
“大規模停電で9億円余の損害” コープさっぽろが賠償請求へ | NHKニュース
2018/10/08北海道内のスーパー大手「コープさっぽろ」は、先月の大規模停電で9億円余りの損害が生じたとして、北海道電力に賠償を求める方針を決めました。
札幌市に本部を置く「コープさっぽろ」によりますと、先月の地震のあとの大規模な停電で、物流拠点や食品の加工場では冷蔵庫が使えなくなり、食材の廃棄が相次ぐなどしておよそ9億6000万円の損害が生じたということです。
地震などの自然災害によって生じた損害を補償する保険は契約していなかったということです。
これらの損害について「コープさっぽろ」は、北海道電力に対して賠償を求める方針を決めました。
「コープさっぽろ」は、賠償と合わせて大規模停電が起きた責任の所在も明確にするよう求めたいとしています。
北海道内では停電によって工場が稼働を停止したことや企業が営業をやめたことなどによる経済的な影響が、今月3日までの集計で1318億円に上っています。
北海道電力に停電で生じた損害の賠償を求める動きが表面化するのは、今回が初めてです。
下はかなり生々しい記事。ここまで具体的なので、コープさっぽろが損害賠償請求を起こそうとしていたのは事実だと思います。
http://hre-net.com/keizai/ryutu/33403/
ホーム 北海道の今を読み解く地域経済ニュースサイト「リアルエコノミー」コープさっぽろ「全道停電は人災」、北電に9億6千万円損害賠償請求
2018/10/07 07:45コープさっぽろ(本部・札幌市西区)は、北海道胆振東部地震により発生した全道停電は北海道電力による人災だと判断、北電に冷凍商品の廃棄分など約9億6000万円の損害賠償請求をする。
コープさっぽろは、10月1日に開いた幹部会で地震による被害状況や対応策、今後の課題になどについて総括している。その中で、9月6日の地震によって発生した全道停電で道内店舗の冷凍・冷蔵ケースなどに収納されていた生鮮食品や低温系日配商品の破棄、さらに石狩工場の中間材料などを破棄せざるを得なくなり、約9億6000万円の損害が発生したことが明らかにされている。
全道停電は、北電が苫東厚真発電所に電力源を集中させていたことによって引き起こされたもので、人災によるものと判断。幹部会で北電への損害賠償請求を検討することを決め、10月6日の理事会で請求を決めた。大見英明理事長は、「まず内容証明郵便で損害額の賠償を請求する。これによって北電の出方を待ちたい」としている。
コープさっぽろは、今回の地震や停電によって明らかになった課題に対応するため、非常用電源の確保や冷凍物流の自前化など対応策をまとめており今後、順次投資して整備していく。コープさっぽろは、地震や停電時の商品廃棄に伴う損害保険に入っておらず、2016年3月期から進めている累積損失の解消を目指した再建計画に影響を与えそうだ。
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