【台湾】映画『KANO』撮影時の社会的背景
ブログ主の覚え書きです。
前回のエントリーで映画KANOと嘉義農林学校(通称「嘉農」)の事をご紹介しました。
ブログ主がこの映画のことを知った頃(2014年)には気づかなかったことが、『台湾人と日本精神』 を読んだことがきっかけで分かったので、それを書き留めておきます。
本を読みつつ、更に色々と調べて動画なども観ていたのですが、その一つが、チャンネル桜の台湾チャンネル(台湾CH)の動画です。実は、ブログ主がこの番組を観るようになったのはKANOがきっかけだったので、当時観た番組もありますが、今回初めて観た回もあります。
当時は何も考えずにこの映画やチャンネル桜の動画を観ていましたが、この時の台湾の政治状況を知ったら、色々と合点がいきました。
台湾チャンネル】第76回、「KANO」の魏徳聖プロデュ―サーが語る台湾の心・台湾のAIIB参加問題・他[桜H27/4/11]
2015/04/10 に公開
今回は①朝日新聞問題。その親中反台姿勢に台湾人の間からも抗議の声が。②台湾の馬英九政権が中国主導で設立するAIIB(アジアインフラ投資銀行)に参加表明。国家主権を自己否定する動きに野党や学生が反対の動き。③日本統治の歴史がテーマの「海角七号」「セデック・バレ」で監督を、同じく「KANO」ではプロデューサーを務めた魏徳聖氏にインタビュー。台湾人意識や台湾人の歴史観について聞く。
キャスター:永山英樹・謝恵芝
上の動画の③はKANOのプロデューサー、魏徳聖(ウェイ・ダーション)氏のインタビューです。
この映画は2014年3月7日に台湾で封切られ、日本では翌2015年の1月24日に公開されましたが、当時、台湾は現在の蔡英文総統(民主進歩党/2016年5月20日~)の前、馬英九総統(中国国民党/2012年5月20日~)の時でした。
つまり、親中国であり、反日の政権下だったわけです。
そのため、この、日本統治時代を美化した(と、台湾国内で問題視された)映画に対して国内では風当たりが強く、国会でも取り上げられたほどでした。そして、台湾のアカデミー賞と言われる金馬奨(きんばしょう)で6部門でノミネートされており、多くの人が受賞を期待していたにもかかわらず、無冠という結果に終わったのでした。
この賞は台湾映画だけでなく、中国語の映画を対象にしたものだそうで、従って、香港映画や中国なども対象で、賞の審査員は中国人も含まれているとのことですが、KANOは観客賞と国際批評家連盟賞を受賞していたので、中国当局に配慮したのではないかという噂がネットで広まったそうです。
下はそれを報じる日本の記事の一部。(「観客投票1位でも無冠」 日本統治時代を描いた台湾映画「KANO」/ネット上で「中国に配慮?」 の見出し)
上の記事にも書いてありますが、中国でもこの賞は報道されるようですが、KANOに関する部分は全てカットされたそうです。(下は、挿入歌の「小鳥さん」(小鳥先生)のメイキング風景。この日本語の歌も台湾国内で人気になったのですが、これも問題視されたそうです。)
また、プロデューサーの魏徳聖氏が香港の民主化運動に共感する発言を以前していたのが原因ではないかという台湾の報道もあったそうです。
【台湾チャンネル】第58回、映画「KANO」に中国警戒・深まる日台の観光交流[桜H26/11/28]
2014/11/27 に公開
日本と台湾の交流情報を、日本語と台湾の言語で同時にお送りする情報番組。
回は①日台の歴史的な絆を図説する新刊『台湾と日本人』の紹介、②戦前甲子園で活躍した台湾代表嘉義農林チームの活躍を描いた台湾のヒット映画「KANO」が、“親日”との理由で中国から警戒されているというニュース、
③日台の観光交流が盛んになる中、台湾政府が都内で開催した観光セミナーのVTR紹介、そして④台湾を中国領土とする地図大手の昭文社に対し、この番組が公開質問状を送付したとの報告です。
キャスター:永山英樹・謝恵芝
受賞した映画はブログ主は知りませんし、KANOを純粋に作品として評価すると、確かに多くの要素が盛り込まれすぎていてやや冗長だとは思う(実際、3時間と長い)のですが、台湾にブームを巻き起こしたこの映画がなんの賞も取れなかったことは、台湾の人達が疑問に思うのも分かります。
この映画を観た頃にはあまり深く考えませんでしたが、台湾にはまだ中国にシンパシーを持つ人々がおり、その割合は少ないとは言え、未だに様々な分野で力を持っているのです。
なお、少し付け加えたいことがあります。
最初の動画の中で、プロデューサーを紹介するときに、監督作品として『海角七号』と『セデック・バレ』という映画のタイトルが出てきます。
『海角七号』(2008年公開)はノスタルジックな恋愛映画ですが、『セデック・バレ』(2011年)は原住民のセデック族が日本人に対して起こした反乱(霧社事件/前回記事に追記)を描いたもので、この事件が起きたのは1930年、つまり、嘉義農林学校が甲子園で準優勝をする前年のことです。
馬英九総統の時代であること、日台の負の歴史も描いた作品も撮っていること、年齢的に、反日教育を受けたであろうこと。こうしたことを知って魏徳聖氏のインタビューを聞くと、口の重さも理解できるかと思います。
なお、「KANO」の馬志翔氏監督は俳優として『セデック・バレ』に出演しています。
以下、その他の動画の覚え書きです。
【台湾チャンネル】第20回、映画「KANO」が描く日本時代の台湾人の栄光・「孫文銅像」引き倒し事件の背景[桜H26/2/27]
https://youtu.be/jf9z5k3y5t02014/02/27 に公開
今回は、日本統治時代に甲子園で準優勝に輝いた台湾代表の嘉義農林学校・野球チームを描いた台湾映画「KANO」へのフィーバー現象を紹介し、この作品に対する台湾人の思いの一端を探るとともに、「中華民国の国父」と神格化される孫文の銅像を台湾独立派グループが引き倒した事件を取り上げ、その背景にある台湾の思想危機の問題を考察します。
キャスター:永山英樹・謝恵芝
- KANO公開前からの台湾国内での盛り上がりと中華民国や中国国民党に対する反発。
【台湾チャンネル】第68回、NHKが「KANO」を報道・倒された高砂義勇隊の忠魂碑[桜H27/2/12]
https://youtu.be/zOT_08kcwp82015/02/12 に公開
今回は①台北で起こった旅客機墜落事故について。②台湾映画「KANO」の日本公開に合わせ、東京ドームの野球殿堂博物館で特別展示「嘉義農林と映画『KANO』」。好評につき会期も延長。③「KANO」を取材のためNHKのニュースキャスターが台湾訪問。日本の公共放送としてのNHKへの信頼感から、そのことが現地では大きく報じられた。しかし一方のNHKは台湾が寄せる信頼を裏切るかのように…。④台湾の山中で倒されている戦時中の高砂義勇隊の忠魂碑について。国民党独裁時代の反日政策で破壊されたものだが、修復を求める声が歴史研究家から。
キャスター:永山英樹・謝恵芝
- プレミア上映に伴い、俳優やスタッフの舞台挨拶の模様。しかし、日本の民放は一社も取材に来ず。
- 謝恵芝さんによる、永瀬正敏、坂井真紀へのインタビュー。
- 馬志翔監督、曹佑寧(役名:吳明捷) 陳勁宏(蘇正生)へのインタビューは必見。
曹さんや陳さんはこの映画に出るまで、嘉農のことは知らなかったそうで、永山さんの解説によると、日本統治時代を語ることはタブーだったからとのことです。字幕にある紅葉少年野球チームとは紅葉少棒隊のことで、日本チームに大勝利を収めたリトルリーグのチームだそうです。英語のWikipedia「Taitung Red Leaves」によると、“The team's story is usually regarded as an underdog success story, with "colonized" Taiwan winning over the "colonizer" Japan.”とあるので、統治側(日本)に植民地化された台湾が勝ったという「判官贔屓」の物語として知られているようです。
曹さんはシーズンオフに台湾で行われる教育リーグにも大学選抜で出場しており、ブログ主はほぼ全試合を観ていましたが、大活躍をしていたので野球選手としても一流です。)
【台湾チャンネル】第68回、NHKが「KANO」を報道・倒された高砂義勇隊の忠魂碑[桜H27/2/12]
https://youtu.be/zOT_08kcwp82015/01/22 に公開
日本統治時代の台湾野球の史実を基に、日台の友情を描いた台湾の大ヒット映画「KANO-1931海の向こうの甲子園」がいよいよ1月24日、日本全国で公開!今回は、それに先立ち都内で行われたプレミアの模様を紹介。会場が感動に包まれる中、監督、出演者らにインタビューを行い、この作品の魅力、日台交流に対する意義、更には日本時代の歴史の捉え方などを聞く。観客たちのコメントも、台湾への友情に溢れて感動的だ。作品の予告編も収録。
キャスター:永山英樹・謝恵芝
KANOの日本公開前に、わざわざNHKのニュースウオッチ9が取材に来たという話題。
NHKは以前、ジャパンレビューという番組で、台湾の方のインタビューを恣意的に編集して日本統治時代を“悪く”描いたことでインタビューされた人達の怒りを買い、訴訟騒ぎにもなったのですが、今回は魏徳聖プロデューサーの発言を正しく伝えたそうです。(ブログ主は単に大越キャスターの趣味だと思う。 下は東大時代、日本代表に選ばれた大越キャスター。イケメンの小早川さんがストロボのライトさえ全て持って言ってしまっているのが笑えます。他にも、知った顔がチラホラと。)
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