【国会】『ご飯論法』-上手い喩えだが、実は的外れ
公開: 2018/06/30 09:06 最終更新: 2018/12/04 13:22
今更ながら『ご飯論法』を取り上げたのは、先日(6月25日)の読売文化面(9面)に『【ご飯論法】かみ合わない「部分」と「全体」』武田徹専修大学教授・評論家の良質の寄稿文をご紹介したかったからです。
念のため、『ご飯論法』について説明しておくと、「朝ご飯食べたか?」-「(実際に食べたのはパンなので)ご飯は食べていません」というような「はぐらかし」のことです。
上西充子法政大学教授が国会でのやりとりを喩えたものだそうで、ある意味、典型的な「官僚答弁」(国会答弁)なのですが、卑怯な受け答えということを言いたいようです。
後述する武田教授の記事で知ったのですが、「ご飯」(部分)で「食事」(全体)を表したり、その逆(「花」(全体)→「桜」(部分))のような比喩を、修辞法でいうと『提喩』(ていゆ)と言うのだそうで、『提喩』を辞書で引くと必ず「ご飯」と「食事」の例が出てくるので、これ自体は大発見というほどのことではないものの、『ご飯論法』なるネーミング自体は上手いな、と思っていました。
更に辞書を引くと、英語ではsynecdoche(シネクダッキみたいな発音)と言うそうで、例として、“Australia lost by two goals.”(オーストラリアは2点差で負けた)のAustralia(=Australian team)という文がありました。
下は武田教授の記事。
①はご飯論法と呼ばれた国会での質疑ですが、これにはブログ主は異論あり。後ほど説明します。②は提喩の説明。③以降は国会に於けるご飯論法に対する苦言。
武田教授の「質問者は質疑応答の構図が提喩敵になっていると気づいて軌道修正を促すべき」というのは同感です。
実際に国会審議を聴いていると、不誠実な回答だなと思うこともしばしばあるし、質問者の質問がヘタだなと思うことも多々あります。和田政宗議員がよく使う喩えですが、「詰め将棋」のような質疑をするべきなのです。それをせずに、自分が求めるような答弁内容で無いと「答えになってない!」とキレるシーンはよく見ます。
「不誠実な回答」と書きましたが、聞かれた以上のことを答弁すると「聞いてないことまで言うな!」というのも時々あります。
ところで、①の質疑ですが、これはブログ主は実際に観ていたのですが、これが果たして『ご飯論法』に当たるのだろうか?と疑問を持ったので、上西教授による説明がないだろうかと探したら、下のような記事が出てきました。
この記事によると上西教授は『ご飯論法』の直接の命名者ではないようですが、上西教授によると、ブログ主が赤字にした部分がご飯論法の例だそうです。
http://wpb.shueisha.co.jp/2018/06/26/106774/
追及逃れのコミュニケーション術、安倍政権の「ご飯論法」がヒドすぎる
[2018年06月26日]
「ご飯論法」という言葉が注目されている。
意図的に“論点ずらし”や“はぐらかし”をして国会での質問にきちんと答えない安倍政権の答弁手法のことだ。
この言葉の命名者である漫画評論家・ブロガーの紙屋高雪氏がこう説明する。
「上西充子(みつこ)法政大学教授がツイッターで、安倍政権のでたらめな国会答弁ぶりを『朝ごはん食べた?』という質問への回答を例に挙げて上手に説明していたんです。
ちょうど国会での佐川宣寿(のぶひさ)前国税庁長官の証人喚問を聞いて、『なんだ、このはぐらかしぶりは?』と愕然(がくぜん)としていたこともあって、上西教授の説明をもとに『佐川氏の答弁はご飯論法』だとツイートしたら、いつの間にかこの名前がネット上で定着していました」
ではあらためて、「ご飯論法」を発案した上西教授に、安倍政権の答弁ぶりについて聞いてみよう。
「明らかなウソは言わないけど、本当のことも言わない。それでいて、ちゃんと答弁しているかのように錯覚させてしまう。国会の質疑がそんな“騙(だま)した者勝ち”のようになっていることを多くの人に知ってほしくて、『ご飯論法』をひねり出してみたんです」
確かに今の安倍政権の国会答弁は「ご飯論法」のオンパレードだ。
例えば今年2月20日の衆議院予算委員会。裁量労働制のデータ捏造(ねつぞう)疑惑の追及に立った立憲民主党の長妻昭代表代行が「(厚労省の)忖度があったのでは?」と質問したときのこと。安倍首相の答弁は「私や私のスタッフが指示したことはない」というものだった。
「長妻議員は忖度の有無を聞いているのに、首相は自分で勝手に『指示』に限定し、『それはしていない。だから問題ない』と、追及をかわそうとしました」(上西教授)(後略)
まず、単なる「論点ずらし」や「はぐらかし」を「ご飯論法」と呼ぶのはおかしいのですが、取り敢えずこれは置いておきます。
赤字の部分ですが、本当にこのようなやり取りがあったとしたら、これは質問者が馬鹿なだけで、「忖度があったのか?」と、忖度されたと疑われている当人に訊いても答えられるわけはありません。
そして、ちょっと考えれば(野党の“忖度”の使い方を知っていれば)、「忖度を強要したのか?」の意味だと捉えての答弁だと分かるでしょう。
また、自称「ご飯論法を広めた人」の紙屋氏の挙げた佐川元理財局長の答弁(青字)も、単に野党につけいる隙を与えない佐川氏の巧みな答弁に対して悔し紛れにご飯論法と言っただけ。
ちっとも、ご飯論法に当てはまらないのです。
上に書いたように、「はぐらかし」の一手法として「ご飯論法」があるとして、それは「提喩」を使ったものでないとならないはずですが、上西教授の挙げた例は提喩でも何でもありません。
そして、武田教授が挙げた加藤厚労大臣の答弁(記事-①)。これも結論から言えば、ご飯論法とは思えないものです。
もしかしたら、武田教授は誰かに聞いただけで、この答弁を観ていない、あるいは議事録を読んでいないのかも知れませんが、一応どんなものか説明をしておきます。
具体的には、『第30号 平成30年5月25日 衆議院本会議』で、立憲民主党・西村智奈美議員が「ご飯論法だ!」と発言する部分があり、それは以前(3月5日)の参議院予算委員会での石橋通宏議員(立憲民主党)の加藤厚労大臣に対する質疑です。(議事録:http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/196/0014/19603050014006a.html )
この頃は、「高度プロフェッショナル制度」に反対する野党が“野村不動産であった過労による自殺」の事実を厚労省に認めさせたくてやっきになって質問していました。
加藤大臣は、労災の事実は認めながらも、「それぞれ労災で亡くなった方の状況について逐一私のところに報告が上がってくるわけではございませんので、一つ一つについてそのタイミングで知っていたのかと言われれば、承知をしておりません。」というように答えます。
(実はこの時点ではご遺族から死因の公表の許可を得ておらず、プライベートなことなので明言を避けており、後にご遺族の了承を得て事実を認めました。)
質問に対してはぐらかした答えをしていますが、これがご飯論法かと言われてると首を傾げます。
ここまででお分かりかと思いますが、元々、
ご飯論法(に該当するような質疑応答)なんてなかった
んですよ。
冒頭に書いたように、(良いとは思っていませんが)相手の質問をのらりくらりかわしたり、微妙に論点を変えて答えるなんてのは国会質疑では日常茶飯事で、それを不誠実な答弁ととるか質問者がレベルが低いと見るかの違いだけです。
要するに、
『ご飯論法』って言いたいだけ
なのです。
「答えになってない!」に代わる新しい言葉を得て、嬉々として使っているのでしょう。
このエントリーを書いてからだいぶ経つのに、アクセスが伸びてて、何事かと思ったら、「今年の流行語」の一つに選ばれたからだと知りました。
上に提示した記事で既に答えが書いてありますが、「意図的に“論点ずらし”や“はぐらかし”をして国会での質問にきちんと答えない安倍政権の答弁手法」...こんなものは何も安倍政権に限らないのに、むりやり安倍政権に結びつけて批判に使いたいだけなんでしょうね。
あーくだらね。 ('A`)
【関連記事】【false equivalence】大臣答弁を『ご飯論法』と言って悦に入ってるが...
だいたい、佐川氏の証人喚問なんて、こんな体たらくだったのですよ?(共産党・小池晃氏の質問)
ここで、高井康行先生のありがたいお言葉を。
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