【憲法改正】1.自民党の憲法改正条文案とそのポイント
公開: 2018/05/05 12:02 最終更新: 2018/05/05 19:43
前回のエントリーで予告したこととは異なりますが、まずは前提として、自民党の憲法改正推進本部が3月24日の地方議員向けの会合(全国幹事長会議)で示した改正案をまとめておきます。
新聞各紙では3月25日(日)の朝刊で報じています。(ブログ主の手元には読売と日経がありますが、読売は8面に詳細を掲載しているので、それを使ってまとめます。)
今後の議論の叩き台となるものであるので、まずは条文案を確認しておきましょう。
自民党の憲法改正案4項目のポイント(要点)
◆自衛隊の明記: 9条
- 「9条の2」を新設し、自衛隊の保持を明記する
- 戦争放棄と戦力不保持などを定めた9条は維持する
◆緊急事態条項: 64条、73条
- 大災害で国政選挙を実施できない場合に、国会議員の任期延長を認める
- 内閣は緊急に政令を制定することができる
◆参院選の合区解消: 47条、92条
- 参院選は、3年の改選毎に各都道府県から1人以上選出する
◆教育の充実:26条、89条
- 国に教育環境整備の努力義務を課す
以下、もう少し詳しく条文案を見ていきますが、最初に、自民党の憲法改正推進本部がまとめた『憲法改正に関する論点取りまとめ』(平成29年12月20日付)を提示します。これを読むことで3月24日に公表された案に至る議論の経緯が伺えます。
2017年12月20日 憲法改正に関する論点整理を取りまとめ
自由民主党憲法改正推進本部
以下、一旦図のみ提示して記事を公開し、後ほど追記します。
自民党の憲法改正案のポイント-自衛隊の明記
補足は別途エントリーとする。
自民党の憲法改正案のポイント-緊急事態条項
大災害などで国政選挙が行えない時に国会が機能不全にならないよう、国会議員の任期を延長できることを目的とするもの。
現憲法下では衆院4年、参院6年(3年毎に半数改選)の任期が明記されているため、衆院の全員あるいは参院の半数が任期満了を迎える直前に大災害が起きた場合に備えるもの。
例えば、
- 衆院の任期満了直前の場合、現行では衆議院議員がいなくなって国会が機能しない
- 参院の半数の任期満了直前の場合、現行では参議院議員の半数がいなくなって国会が機能しない
のを防ぐ。
しかし、
- 衆院が解散中の場合は憲法で定められた「参院の緊急集会」(※)で対応する。
※参院の緊急集会: 衆院解散で衆議院議員がいない間、緊急の場合に参院だけで法案や予算の議決や条約の承認ができる制度。議決した事項は、衆院選後のの国会が開かれて10日以内に衆院の同意がない場合、執行する。過去、吉田内閣で2回の開催例がある。
論点は、混乱でも選挙を求める意見が根強いこと。また、憲法73条6号などは内閣の政令制定権を認めており、法律の範囲内で予め定めた措置に限り、罰則を含めて政令で定めることができるため、自民党案に盛り込まれた緊急時の政令が、現憲法下で認められている政令とどう違うのかも議論になる。
※第七十三条 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
二 外交関係を処理すること。
三 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
四 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。
五 予算を作成して国会に提出すること。
六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
七 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。
自民党の憲法改正案のポイント-参院選の合区解消
目的は「各県から議員」を復活させること。背景には自民党が地方に強い地盤を持つということがある。
憲法上は法の下の平等を定める憲法14条(※)などで有権者の1票の重みは同じでなければならないという「投票価値の平等」を求めている。そのため、過去には2010年参院選(1票の格差=5.00倍)や13年(4.77倍)を最高裁では違憲状態と判断した。
そのため、47条を改正して格差があっても合憲となることを目指す。
※第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
15年7月成立の改正公職選挙法で「鳥取と島根」、「徳島と高知」を統合し、改選定数(※)を1とする合区が決定した。合区で浮いた人数を人口の多い選挙区に割り振るなどの定数配分を見直した結果16年の参院選では格差は3.08倍に縮小し、最高裁は合憲と判断。
但し、最高裁は人口比だけで合憲性を判断していたわけではない。14年衆院選では人口比例以外に「市町村その他の行政区画などを基本的な単位として、地域の面積、人口密度」なども考慮した区割りを認めた上で2.13倍の格差を「違憲状態」と判断した。このため、今回の改定案の条文でも最高裁の判断にあまり影響しない可能性もある。
※改選定数: 参院では3年毎に半数が改選されるので、議員定数が2なら改選定数は1となる。
1票の格差は参院だけではない。過去には、格差が2.43~2.13倍だった2000年、12年、14年の衆院選を3回連続として「違憲状態」と判断。衆院選挙区画定審議会(区割り審)の韓国により、17年6月に、97選挙区で区割りを見直す改正公選法が成立。これにより、17年の衆院選では格差が1.98倍に縮小。
しかし、人口移動が激しい都心部では5年毎の区割り審で区割りが変わる可能性があり、住民に混乱を招く危険性もある。
自民党の憲法改正案のポイント-教育の充実
日本維新の会に配慮した案。自民党内には「高卒で働く人に不公平感が出る」といった反対が根強い。そのため、無償の明記を見送り、努力義務とした経緯がある。
憲法26条2項は「義務教育は、これを無償とする」としており、政府は国公立の小中学校に限って授業料を徴収しないことと解釈している。だが、国は「私立学校振興助成法」に基づき補助金を出している。また、私立も含めた小中学校の教科書を「教科書無償措置法」に基づいて無償としている。
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