【NHK】最高裁の「NHKの受信料は合憲」判決全文を読んでみた/NHKの金満体質【言論テレビ】
最終更新: 2017/12/19 19:34
12月6日、NHKが受信料の支払いを拒む都内の男性に対して起こした訴訟の最高裁判決がでました。
それは、「受信料は合憲」との判断で、男性は受信料約20万円の支払いを求めて提訴されていたものです。
報道によると、2006年3月にテレビを設置、NHKは11年9月に受信契約の締結を求める通知を行いましたが拒否をし続けました。
基本的には弁護側の主張は認められず、「大山鳴動して鼠一匹」「納得いかない」と不満を露わにしていますが、NHKの主張が全面的に認められたわけではありません。下の日経記事のタイトルに注目して下さい。
NHK受信契約を巡る最高裁大法廷判決を報じる記事(日経 2017/12/6)
NHK受信契約、成立には裁判必要 最高裁
支払い義務、テレビ設置時まで遡及.
2017/12/6 15:25 日経より一部引用
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO2432340006122017000000/
NHK受信契約をめぐる6日の最高裁判決は、受信契約が成立する時期について「裁判で契約の承諾を命じる判決が確定すれば成立する」とした。「契約を申し込んだ時点で自動的に成立する」とのNHK側の主張は退けた。契約を拒む人から受信料を徴収するためには、今後も個別に裁判を起こさなければならない。
またいつまでさかのぼって受信料を徴取できるかについては「テレビ設置時点まで遡って受信料の支払い義務がある」とした。
この最高裁大法廷判決というのは、受信料の支払いを拒む方(以下、被告)だけが上告して争ったわけではなく、NHKも2審の判決を不服として上告しています。
詳しくは次項に書きますが、そもそも「放送法第64条1項」が合憲か違憲かという争点があり、被告は憲法13条,21条,29条に違反しているとし、また、受信契約の成立や時効を主張しており、原告のNHKも、受信契約の成立は「(NHKからの)申込書が受信者に到達した時点」という主張が2審で退けられたので、これを不服として上告しています。
争点と双方の主張、最高裁の判断
【判決文の要約と全文(リンク先)】
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87281
事件番号: 平成26(オ)1130
事件名: 受信契約締結承諾等請求事件
裁判年月日: 平成29年12月6日
法廷名: 最高裁判所大法廷
裁判種別: 判決
結果: 棄却判示事項: (要約)
1 放送法64条1項は,受信設備設置者に対し受信契約の締結を強制する旨を定めた規定であり,日本放送協会からの受信契約の申込みに対して受信設備設置者が承諾をしない場合には,その者に対して承諾の意思表示を命ずる判決の確定によって受信契約が成立する
2 放送法64条1項は,同法に定められた日本放送協会の目的にかなう適正・公平な受信料徴収のために必要な内容の受信契約の締結を強制する旨を定めたものとして,憲法13条,21条,29条に違反しない
3 受信契約の申込みに対する承諾の意思表示を命ずる判決の確定により受信契約が成立した場合,同契約に基づき,受信設備の設置の月以降の分の受信料債権が発生する
4 受信契約に基づき発生する受信設備の設置の月以降の分の受信料債権の消滅時効は,受信契約成立時から進行する
全文: (2の方が読みやすく、所々に解説も入っています)
- http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/281/087281_hanrei.pdf
(全27枚・・・P.18以降は裁判官の補足意見と木内道祥弁護士の反対意見)- https://law-news.idest.club/2017/12/06/nhk-saihan/
15名の裁判官: 寺田逸郎(裁判官)、岡部喜代子(学者)、小貫芳信(検察官)、鬼丸かおる(弁護士)、山本庸幸(行政官)、山﨑敏充(裁判官)、池上政幸(検察官)、大谷直人(裁判官)、小池裕(裁判官)、木沢克之(弁護士)、菅野博之(裁判官)、山口厚(学者・弁護士)、戸倉三郎(裁判官)、林景一(行政官)、木内道祥(弁護士)
下は、2017/12/07付読売新聞朝刊に掲載されていた表を元に加工したものです。(ページはPDFのもの)
『放送法64条1項』の意義
『放送法64条1項』(昭和25年法律第132号)ですが、そもそも放送法は施工前の旧法の時代は、受信設備(無線電話)の設置が許可制で、受信のためには社団法人日本放送協会(現NHK)に「聴取契約書」を提出し、「聴取料」を払っていたのを引き継いだものです。
そして、聴取料の制度も「受信料」としてそのまま引き継がれましたが、同時に、NHKに対して、様々な義務も課しています。(全国向けの放送だけでなく地方向けの番組を作るようにとか、12時間以上休止するな、世論調査をしろとか。)
更に、「営利を目的として業務を行うこと及び他人の営業に関する広告の放送をすることを禁止」(←個人的には「営利を目的として業務」をしていると思うのですが...)して「特定の個人,団体又は国家機関等から財政面での支配や影響が及ばないように、受信者から現実に原告の放送を受信するか否かを問わず,受信設備を設置することにより原告の放送を受信することのできる環境にある者に広く公平に負担を求めることによって,原告が上記の者ら全体により支えられる事業体であるべき」としています。
現行の放送法64条1項は下記の通りです。
放送法64条1項
(受信契約及び受信料)
協会の放送オ受信できる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。
「契約」を締結するという行為に、旧法の時代では前述のように、申請したり契約書を提出するといった分かりやすい“儀式”があったわけですが、NHKの主張のように「受信設備」、すなわちテレビを設置しただけで契約の成立と言えるのか?という疑問は誰しも抱くと思います。
上の表に書いてあるように、最高裁とはそのようには判断せず、「未契約者を提訴しして勝訴したら」としました。
判決文全文を読むと、NHKは「そんな回りくどいことやってられないから、申込書を送りつけて、未契約者の手元に届いたら契約成立と認めろ」と主張(正確には→受信設備を設置しながら受信契約の締結に応じない者に対して原告が承諾の意思表示を命ずる判決を得なければ受信料を徴収することができないとすることは,迂遠な手続を強いるものであるとして,原告から受信設備設置者への受信契約の申込みが到達した時点で,あるいは遅くとも申込みの到達時から相当期間が経過した時点で,受信契約が成立する旨を主張)したのですが、最高裁はそれは望ましくないと言っています。
判決文を正確に引用すると、
公共放送を担う原告の財政的基盤を安定的に確保するためには,基本的には,原告が,受信設備設置者に対し,同法に定められた原告の目的,業務内容等を説明するなどして,受信契約の締結に理解が得られるように努め,これに応じて受信契約を締結する受信設備設置者に支えられて運営されていくことが望ましい。
となります。
つまり、きちんと相手に理解を求める努力をして、双方の合意の上で契約を締結しない、それでも相手が承知しないなら裁判を起こして勝訴しなさいと言っているわけです。
これで、NHKは頑として受信料を払わない相手に対しては提訴しなくてはならないことになったのですが、ブログ主は、このことよりも、『放送法64条1項の意義』について確認したことが重要だと思いました。
『放送法』という立法の問題に行き着く
第2-1 放送法64条1項の意義 -1-(1)-アを読むと、次にように書かれています。
放送は,憲法21条が規定する表現の自由の保障の下で,国民の知る権利を実質的に充足し,健全な民主主義の発達に寄与するものとして,国民に広く普及されるべきものである。
放送法が,「放送が国民に最大限に普及されて,その効用をもたらすことを保障すること」,「放送の不偏不党,真実及び自律を保障することによって,放送による表現の自由を確保すること」及び「放送に携わる者の職責を明らかにすることによって,放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること」という原則に従って,放送を公共の福祉に適合するように規律し,その健全な発達を図ることを目的として(1条)制定されたのは,上記のような放送の意義を反映したものにほかならない。
放送は表現の自由(憲法21条)の保障の元にある、とした上で、放送法に書かれている放送の原則について触れていますが、放送法第1条には放送の目的として下記のように書かれています。
(目的)
第一条 この法律は、次に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。
一 放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。
二 放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。
三 放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。
不偏不党...( ゚д゚)
ふへん‐ふとう【不偏不党】 ‥タウ
いずれの主義・党派などにもくみしないこと。公平・中正の立場をとること。
広辞苑 第六版 (C)2008 株式会社岩波書店
ふへんふとうオ[0]-[0] -タウ【不偏不党】
(一)どちらの主義・政党にも加わらないこと。
(二)中立の立場をとること。
→ 不偏新明解国語辞典 第七版 (C) Sanseido Co.,Ltd. 2013
( ゚д゚)
(つд⊂)ゴシゴシ
(;゚д゚)
(つд⊂)ゴシゴシ
(;゚Д゚)ホォォーー…?!
当ブログでもよく「放送法第4条」について言及しますが、1条からいきなり破ってます。
もちろん、放送法はNHKだけではなく、民放も従わなくてはなりません。
少し長いのですが、第2-2 放送法64条1項の憲法適合性について -(2) の一部分を引用します。
(2) 電波を用いて行われる放送は,電波が有限であって国際的に割り当てられた範囲内で公平かつ能率的にその利用を確保する必要などから,放送局も無線局の一つとしてその開設につき免許制とするなど(電波法4条参照),元来,国による一定の規律を要するものとされてきたといえる。
前記のとおり,旧法下においては,我が国では,放送は,無線電信法中の無線電話の一種として規律されていたにすぎず,また,放送事業及び放送の受信は,行政権の広範な自由裁量によって監理統制されるものであったため,日本国憲法下において,このような状態を改めるべきこととなったが,具体的にいかなる制度を構築するのが適切であるかについては,憲法上一義的に定まるものではなく,憲法21条の趣旨を具体化する前記の放送法の目的を実現するのにふさわしい制度を,国会において検討して定めることとなり,そこには,その意味での立法裁量が認められてしかるべきであるといえる。
今回、被告であった方やその弁護人には、その主張が全て棄却されてお気の毒ですが、あくまでも「放送法64条1項」が合憲だと判断されただけで、放送法が守られているかが争われたわけではありません。
放送法の改正となったら、テレビ局による、“モリカケ”どころではないネガティブキャンペーンに遭うことは想像に難くなく、ハードルは高いかと思いますが、放送法の方をなんとかするしかないようです。
アメリカはケーブルテレビなどの多チャンネル時代を迎えた1987年に、多様性を認めるべきだとして、「公共性の高いテレビ・ラジオ放送は政治的な中立・公正さを保たなければならないとする」とする規制=『フェアネスドクトリン』が廃止されました。
先日、「電波オークション」に関するエントリーを書きましたが、それに際して規制改革推進会議の議事録を読んでいたところ、委員会でも12月6日の最高裁大法廷判決を注目するとありました。今後もずっと同じようなテレビ産業でありえるはずもなく、今後、規制改革推進会議の答申を受けて電波制度改革を実現する法整備を進めていく中で、是非、この部分にもメスを入れて欲しいと思います。
NHKの金満体質
なお、実はこのエントリーは12月1日と15日の言論テレビ、『驕るなNHK!受信料訴訟と偏向報道』と『NHKの金満経営を上念司が財務分析』(過去の動画は会員でないと視聴できませんが、放送内容を読むことができます。)を観た後に少しずつ書き溜めていたのですが、15日の放送では、この判決を報じる朝日新聞の解説を紹介していました。
“受信料制度は、NHKが政府や特定の団体や個人から独立し、国民の知る権利を満たすものだと釘を刺した。
逆に言えば、受信料を支払う人たちは、NHKに「知る権利」に答えるよう求める権利がある。”
朝日のくせに正論を言っています。
また、この番組の中で経済評論家の上念司氏がNHKの財務諸表(本年度のものは半期決算時)の数字を分析していましたが、
- 1兆1,162億円の資産があり、
- 資産のうち有形・無形固定資産、現預金などを除いた有価証券や長期保有証券、出資金、特定資産の合計5,221億円。
- その中身は定期預金や電力債や地方債、特殊法人の債券と言った金融資産で持っていて再投資もされていない。
のだそうです。
- 純資産で言うと、単体決算で7,442億。
(単体:子会社などの数字を連結していない数字)
これはパナソニック(9,098億)とソニー(5,132億)と比べればいかに巨大かが分かるかと思います。
また、平成28年度決算(通期)の財務諸表から社員の平均給与を計算すると、
- 給与総額(1,109億3,094万円)÷職員数(1万273人)=1,083.62万円
(【参考】日本の平均年収:421万円)
( ゚д゚)
(つд⊂)ゴシゴシ
以下AA略
番組でも言及していました、かつて、籾井会長が受信料の値下げを示唆したことがありましたが、結局実現しませんでした。
NHK籾井会長、受信料下げ見送りに不満 最後の会見
2017/1/19 19:42https://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ19I1F_Z10C17A1TJC000/
今月24日に退任するNHKの籾井勝人会長が19日、最後の定例記者会見を開いた。昨年自ら打ち出した受信料の引き下げがかなわなかったことについて「経営委員会が認めなかったことは理解しがたい」と語った。今年10月からの受信料引き下げを提案したが、経営委員会から慎重論が相次ぎ、先送りになっていた。
会見では東京・渋谷の放送センター建て替えに必要な資金の積み立てが終わり、積立金に充てていた部分を還元できると主張。「お金が余ったら返すのは我々の原則」などと述べた。
2014年に就任した際の記者会見で従軍慰安婦問題を巡る発言などが批判を呼び、経営委員会からは何度も注意を受けた。この間にNHKではハイヤー代の請求手続きの問題や関連団体の不祥事などが相次いだ。予算案は3年連続で国会での全会一致による承認を得ることができなかった。(以下略)
NHK様、お金が余っているなら返して下さい。
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