【オールドメディアとネット】 (1) 『世論調査考』-選挙情勢分析・議席予測
最近、新聞がネットにかなりの対抗意識を持っているなと感じます。それを窺わせる記事の中には興味深い調査もあったので、ブログ主の覚え書きとしてブログに記録していくことにします。(何回かに分けて書くつもりです。)
先日まで、日経新聞で『世論調査考』というタイトルのシリーズ記事が連載されていました。
下に、見出しとログインせずとも読める部分のみを引用して該当のweb記事の一覧とリンクを提示しておきます。(無料会員でも10記事/月は閲覧可能)
(上) 世論調査、精度向上へ闘い 衆院選「与党勝利」示す 2017/10/30
衆院選で報道各社は大規模な世論調査をかけ、選挙の情勢を探った。与党勝利の傾向は的中したが、各党の獲得議席を正確に当てるのは簡単ではない。日本経済新聞社の調査では接戦区や比例代表の情勢分析の精度向上が課題として残った。選挙以外でも内閣支持率を調べるなど様々な世論調査がある。どう精度を高め、民意を測るか。世論調査について考える。
(中) つかめ「ケータイ民意」 選挙情勢探るには課題 2017/10/31
日本経済新聞社が衆院選の情勢を探るために実施した世論調査は、固定電話のみが対象だ。携帯電話は無作為に対象を抽出しても、どの選挙区の有権者かが分からない。選挙区ごとの情勢判定や獲得議席の予想に生かす予測モデルは確立されていない。しかし携帯電話のみを持つ有権者は増えている。「携帯限定層」の世論をどう反映するかは今後の課題になる。
(下) ネット回答、信頼性は 低コストでも抽出に課題 2017/11/1
「人間対AI、どちらの予測精度が高いかNHKの当確情報と照らし合わせながら検証します」。テレビ各局が衆院選の開票特番を流し始めた22日の午後8時前、インターネット動画サイト「ニコニコ動画」ではこんな生放送が始まった。
サイトを運営するドワンゴの担当者がネット調査を基に予測した各党の獲得議席数と、同社が開発した選挙の当選者を予測する人工知能(AI)の議席数のどちらが当たるか検証する内容だ。
このシリーズは2017年の衆議院選挙戦が終わった直後のもので、ここで言う『世論調査』とは選挙の情勢分析および世論調査に基づく議席予測を意味しています。
世論と輿論
本題に入る前に、少し『世論』と『輿論』という2つの言葉について考えてみたいと思います。これはたまたまネットニュース番組の『虎ノ門ニュース』を観ていて、司会の居島一平氏が「世(せ)論調査」と読んでいたので、おやっと思ったからです。
簡単に言ってしまうと、『輿論』は「よろん」と読み、「世間一般の人が唱える論。社会大衆に共通な意見。世の中の多くの人の“意見”の集約」で、民主主義の基となるもの。
『輿』は御神輿(おみこし)の『輿』で『与』の正字。「みんなが力をそろえる様、みんなの」という意味です。『与』は「くみする、力を合わせる、仲間になる」と言う意味で、「与(くみ)する」という言葉は「賛成して仲間となる。味方する。」という意味です。
一方、『世論』は「よろん、せろん、せいろん」という読み方があり、『輿論』に当たるのは「よろん」または「せいろん」です。
では、「せろん」とは何かというと「世論調査」を考えれば分かります。
新聞などのメディアが例えば選挙に際して行う「世論調査」は政党の人気投票であったり、選択肢から無理矢理選ばされるなもので、時には恣意的な項目であったりします。今回、NHKが行った電話調査に関するツィートで見かけたのですが、(うろ覚えですが)、「投票に際し重視することは」という問いの選択肢に「経済政策」がなく「加計学園問題」があったそうですが、この結果が『輿論』(民衆の意見)と呼べるのかどうかは甚だ疑問に感じます。
「希望の党」発足当時、まだ、どんなものなのかよく分からないのに世論調査による支持率はかなり高かったことを覚えている方も多いと思います。その後、民進党を丸呑みするという情報が流れると、単なる“第二民進党”じゃないかとい失望感が起こり、実際、一部の左派(極左)が排除されただけで、選挙に当選するためなら意見をコロコロ変えるような変節漢ばかりであることが判明して更に支持率は低下しました。(マスコミは「リセット」、「排除」、「さらさら」といった小池百合子氏の“失言”をあげつらうことが多いのですが、確かにこれで小池氏の印象は悪くなったでしょうが、政党に対する失望感は民進のゴミ議員を多く抱えてしまった方が大きいのではないでしょうか。)
よく選挙では『風』という言葉を使いますが、この『風』に当たるものが『世(せ)論』だと思います。言ってみれば理性的なものではなく『情緒の世界』ですね。
小池氏の発言で有権者が小池氏に対する『嫌悪感』のような感情を抱いたとしても、政策や公約はまた別のものです。尤も、この公約が有権者にアピールするものではなかったことも事実です。
最初に書いた居島氏は単なる習慣なのか意識してかは分かりませんが、「せろん」と読んでいたので印象に残りました。
ネット世論調査と新聞の世論調査
ご存知のように選挙になると、選挙前(公示前)、序盤、中盤、終盤と、新聞などのメディアが世論調査や情勢調査というものを行います。
メディアによって公表時期が少しずれるので、ブログ主も選挙の時だけは(内心は葛藤しながらも )朝日新聞も買ったりします。
前述の日経の特集記事の「下」はネットの世論調査について述べていますが、ブログ主が注目したのはこの記事です。
投票先や支持政党を質問することで、各選挙区の当選予想や全体の議席予想を出すものですが、これは毎月どこかしらでやっている内閣支持率などの調査と違い膨大なデータで予測します。
例えば10月10日~11日の日経リサーチによる調査(読売もこのデータを使用)では13万人超に電話し、その内8万弱の有効回答を基にしていますが、このデータから日経と読売は更に独自の分析を加えて公表しています。(調査方法等のしかたは前述記事の「上」で解説)
そのため、元データは同じでも序盤の調査では、たとえば東京3区に関し、日経は「石原宏が抜け出す」、読売では「石原・松原デッドヒート」となっています。(但し、名前が先に書いてある石原宏隆氏が松原仁氏を若干リードしていることをほのめかしている。)
今回、日経の記事が取り上げているのはニコニコ生放送(ドワンゴ)の行ったネット調査。
結論から言うと、ニコニコの分析はかなり精度が高かったのです。(ブログ主も2回目と投票日には協力しました。)
上の図はブログ主が無理矢理ニコニコの表に合わせて日経の数字を当てはめて(日経は最小値-中間値-最大値と幅がある、無所属の予想は出していない=多分、各政党に割り振り、等)Excelで作ったものので、大まかに見てください。
一番右側(選挙結果)の自民党の獲得議席数は281議席となっていますが、その後、3名の追加公認で最終的に284議席。ニコニコの中盤調査(10月13日~16日)ではぴたりと当てています。
投票日の予測はテレビの選挙特番で8時過ぎに表示される議席予測(出口調査を加味したもの)と同じタイミングで公表されたものです。
日経の記事では、ニコニコはネットの強みを生かして膨大なサンプル(約35万)から分析しているが(ネットを利用する人はある層に偏っているので)抽出方法に課題があるというようなことを書いているのですが、新聞と同様、ニコニコも生データに独自の調整を行った結果なのですから、結果で評価すべきです。
特集記事の「中」でも書いているように、電話調査は電話調査で、携帯しか持たない有権者の調査に課題がありと認めています。
なお、先に引用した部分に見える「人間対AI」というのは、その調整を人間が行ったものとAIが行ったものと2種類公表したのです。(結果はAIはまだまだ精度が低い。)
話が少し前後しますが、ニコニコの調査が35万という有権者数を集められたのは、単にネットという気軽なツールだからと言うわけではありません。
実はニコニコ生放送は日頃から菅官房長官の定例記者会見や国会を中継したり、政治家も数多く番組を持ち、政治に関心があるネット利用者を多く集めているのです。
ブログ主も無料会員ですが、政治関連の番組だけは時々視聴しています。
党首討論も1度行いましたが、テレビの党首討論と比較しても最も公平で分かりやすいものでした。
下はネットで拾った、10月11日のテレビ朝日・報道ステーションの党首討論の時間的内訳ですが、党首討論ではなく、いつもの司会者と解説員が各党首に質問すると言う形式でした。
- 22:07~22:32 モリカケ(安倍総裁への攻撃)
- 22:34~22:43 憲法
- 22:44~ 希望の総理指名は?どこと組む?
- 22:46~ 維新はどこと組む?
- 22:48~ 希望は敵or味方?
- 22:50 党首討論終了
ブログ主もこの日だけは党首討論というので久しぶりに報ステを観ていたので、これは確かです。実際、モリカケがあまりに長いので、思わず時計に目をやって、「30分もやること?...('A`) とウンザリしたのを覚えています。
日本記者クラブ主催で行われた党首討論も司会の島田氏(NHK)の仕切りも悪かったし、何より、その後の各社代表によるインタビューの態度の悪さ(毎日新聞・倉重氏と朝日新聞・坪井氏)も記憶に残っている方も多いかと思います。
つまり、ニコニコがこれだけのサンプルを集められるのは、既存メディア、特にテレビや朝日、毎日といった偏向的なメディアに嫌気が差したユーザが政治家が直接発信する番組など、バイアスがかかっていない情報に飢えているからだと思います。
新聞も多くはwebサイトで記事を公開しているわけですし、別にネットを敵視する必要もないと思うのですが。
逆の発想で、アクセスしやすいwebサイトに偏りのない良質な情報を掲載したら信用を得られるチャンスになると思います。
ブログ主が宅配で新聞を取っている日経は前述のようにweb版の記事も回数の制限があるとは言え、検索、閲覧できるのでよく利用しているので、広告収入にも多少は貢献しているはずです。(web版の有料会員は宅配より安い〔4,200円〕のですが、やはり紙の方が読みやすかったり、興味のない記事でもたまたま目に留まって読むこともあるので、紙の新聞は手放せません。ちなみに、紙の朝夕刊に+1,000円でweb版も利用できますが、そこまでの必要性も感じないし...)
ちなみに、読売はほとんどのweb記事は有料会員のみ。産経は比較的多くの記事を公開し、過去の記事もかなり長い間閲覧できます。(東京、毎日、朝日は必要なときにしか見ないのでよく分かりません。)
なお、ニコニコの議席予測については株式会社ドワンゴのプレスリリースで公開されています。
【衆院選2017】ニコニコ開票速報「当確予測答え合わせ大会」(2017年10月23日)
465議席の当確予測の的中率 人間は93.76%
日本初の「当確予測AI(人工知能)」は89.03%衆議院総選挙獲得議席予測 第2回ニコニコ分析結果(2017年10月17日)
自民・公明3分の2超す勢い
希望の党急失速、立憲民主党大躍進衆議院総選挙獲得議席予測 第1回ニコニコ分析結果(2017年10月5日)
自民党単独過半数、自公政権継続の勢い
ところで、このような詳細な情勢分析については、個人的には選挙期間中何度も出すことには疑問を感じています。
『アナウンス』効果、『バンドワゴン』効果(勝馬に乗る)、『アンダードッグ』効果(アンダードッグ=負け犬、つまり弱者に同情的になる判官びいき)などの言葉もあるように、投票行動に影響を与えるからです。
例えば、今回は序盤に「自民だけで300議席」という予測も出ましたが、これで「投票しなくても自民が勝つ」と自民党支持者が選挙に行かなくなる恐れがあります。
また、「○○候補、一歩リード、△△、□□後を追う」などと出てしますと、□□候補に入れようと思っていた有権者が「どうせ票を投じても死に票になるから、○○を勝たせないために△△に入れよう」と考える場合があります。(アナウンス効果)
実際、ブログ主がたまたま見ていたワイドショーで、「立憲民主党がアナウンス効果を狙っている」と伝えてから、アナウンス効果とは何かということ(つまり上のような説明)を詳しく説明していました。つまり、左派メディアが立憲民主党に代わって選挙活動をしてたということです。これなどは公職選挙法に抵触する行為だと思いました。
テレビで聞いたのですが、フランスでは公示後はこういった調査結果を公表することは禁止されているとのことです。
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