公開: 2017/10/30 11:47 最終更新: 2017/10/31 10:48
ユネスコの『記憶遺産』(正式には『世界の記憶』)への登録を審査する国際諮問委員会が今月24日から27日まで開かれ、現時点では公式な発表はありませんが、NHKが『ユネスコの記憶遺産 慰安婦問題の資料 登録は見送りの公算』(10月27日)という記事をweb上に掲載しました。他の複数のメディアが同様の記事を公開していますが、『歴史戦』と銘打ってこの問題と闘っている産経新聞だけは結果については慎重な姿勢を見せています。いずれにしても、まもなく結果は発表されることでしょう。(2017/10/31追記→見送りが正式発表されました。〔NHK記事〕)
この“見送りの公算”という情報は各国でも掴んでいるようで、さっそく、慰安婦資料申請団体は「日本政府が登録妨害」という声を上げています。
実はブログ主はこの手のユネスコの遺産登録事業にはあまり関心がなく、詳しいことを知らなかったのですが、先日(10月27日)この問題を取り上げた櫻井よしこ氏のネット番組『櫻LIVE』で初めて知ったことが多いので、覚書として記事にしておきます。
特に、今回問題となっている「慰安婦問題の資料」がどのような団体によって申請され、どのような内容なのか、番組で知ったことを記述しておきます。番組だけでは不明な点も調べて補足しました。
なお、この記事は正式発表以前に公開するので、加筆修正する予定です。
- 『記憶遺産』を『世界遺産』や『無形文化遺産』と同格の権威があると考えるのは間違い
- 「慰安婦の記録」とはどういうものか
- イリナ・ボコバ事務局長とはどのような人物か
- 海外に誤った情報を発信するNHK国際放送
- 【注釈・参考資料】
- 『記憶遺産』は『世界遺産』や『無形文化遺産』と異なり権威はない。基になる国際条約もなく、ユネスコの一事業にすぎない。
- 個人や団体でも申請が可能。
- 審査も『記憶遺産』は『世界遺産』と異なり、非公開で簡単。
記憶遺産の英語の呼称は“Memory of the World“(略称: MOW)で、世界遺産(World Heritage Site)や無形文化遺産(Intangible Cultural Heritage/民族文化財、フォークロア、口承伝統などの無形文化財を保護対象とするもの)と異なり、“Heritage”(遺産)という言葉は入っていません。従って、権威のある世界遺産や無形文化遺産との混同を避けるため、2016年から外務省は英語名称の直訳である『世界の記憶』という呼び方を採用していますが、記事や国会議事録では元の文章のまま表記し、ブログエントリーのタイトルにも分かりやすく『記憶遺産』の表記を使用しました。
登録過程は、
「申請」→「小委員会」→14人の文書管理の専門家による「国際諮問委員会」【非公開】→(勧告)→事務局長が追認→登録
(参考:櫻LIVE、NHKキャッチ!インサイト 「文化と政治 揺れるユネスコ遺産」)
という流れで、櫻LIVEによると、国際諮問委員会は現在、中国寄りの委員が5人、日本寄り4人、その他5人という状況とのこと。
基本的には1国2件までの申請が可能ですが、団体や個人でも申請が可能なので、現在、日本から3点(「朝鮮通信使に関する記録」、杉原千畝の「杉原リスト」、群馬県の古代石碑群「上野三碑」)が申請されています。「朝鮮通信使に関する記録」については長崎県対馬市のNPO法人「朝鮮通信使縁地連絡協議会」(縁地連)と、韓国・釜山市の「釜山文化財団」が2016年3月に共同申請しています。
資料そのものは歴史的真正性というものがちゃんと担保されているということが前提条件になっているので小委員会のメンバーは公文書管理の専門家であって歴史の専門家ではないこと、事実上、関係国などが異議を唱える機会がないことから、曖昧でブラックボックスとなっています。
なお、櫻LIVEによると、関係国の意見が反映されない点は日本が採択制度の改善を強く要求し、ユネスコ全体を統括する執行委員会にて「歴史的・政治的な問題を孕む案件は関係国の意見を聴取する」という内容の決議が全会一致でなされましたが、これが適用されるのは2年後だそうです。(登録事業のサイクルは2年で、現在の申請サイクルには適用されない。)
また、資料の歴史的真正性に関しては、例えば、2016年に登録された『南京事件文書』は実は目録だけで資料も公開されていないという杜撰な審査で通ってしまっています。
上記については、国会でも度々議論されており、平成28年5月18日の外務委員会での岸田国務大臣の答弁をご紹介します。
第190回国会 外務委員会 第15号 議事録
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/190/0005/19005180005015a.html
【制度改善について】
○岸田国務大臣 ユネスコにおける記憶遺産の制度改革についてですが、まず、我が国としては、この記憶遺産事業というものが、加盟国間の友好と相互理解の促進という、ユネスコ設立の本来の趣旨と目的を推進するものになるよう、制度改善に向けた加盟国間の議論を促進してまいりました。
このような改善を受けて、先月、四月十四日ですが、ユネスコ執行委員会におきまして、本件制度改善に係る決議、こうした制度の見直しを歓迎するという決議がコンセンサスで採択されたこと、このことを評価しております。
本年三月に、国際諮問委員会のもとに、記憶遺産の登録手続や基準を定める記録遺産保護のための一般指針と登録手引を改正するためのレビューグループ、見直しグループが立ち上げられました。そして、見直しの対象となる事項やスケジュールが公表されております。
我が国としましては、こうした専門家自身による制度改善に向けた具体的な取り組みが前進していること、これを歓迎しております。専門家も含め、適切に意見交換を行っていきたいと考えます。
【「南京事件資料」の杜撰さについて】
○岸田国務大臣 登録された南京事件の資料については、まずは、いかなる資料が登録されたのか、中身の精査が重要であるという認識のもと、これまで一部の施設に所蔵されている資料を閲覧いたしました。しかし、中国当局は、その他の施設については、一度閲覧を認めたにもかかわらず、その後、技術的問題等を理由に、受け入れられないとしています。このように、いまだ全ての資料へのアクセスが拒絶されている状況は問題であると認識をしています。
ユネスコが規定しております、記憶遺産保護のための一般方針の趣旨、この方針の中に、三の四として、アクセスの原則と方法、こういったものが定められていますが、こういった指針の趣旨にも反するものであると認識をしています。
これを受けて、中国側には、各施設の対応について遺憾である旨を伝達し、関係資料へのアクセスを引き続き強く要求しております。
さらに、かかる状況をユネスコ事務局に情報共有をするとともに、中国側の対応の改善をユネスコからも強く求めるよう申し入れを行っている、これが現状であります。
【関連記事】
『中国、ずさん目録で申請 「南京大虐殺文書」 ユネスコ審査も1委員だけ…』(産経web 2016.1.10 05:00)
なお、ついでに見つけたのですが、平成27年12月11日の第189回国会 文教科学委員会では、諮問委員会に日本から南京大虐殺に否定的な専門家が参加したことについて、日本共産党の田村智子参議院議員が「歴史修正主義だ」と噛みついています。
「2.個人や団体でも申請が可能」については事項で解説します。
先日視聴した櫻LIVEでは、今回申請されている慰安婦の記録について実態を明らかにしていました。ここで初めて知ったのですが、韓国や中国等の団体によってなされた申請のカウンター(反撃)として、日本などの団体が対抗資料を申請しています。
なお、ここで、“韓国や中国側”、“日本側”と簡単に言えないのは、申請している側に日本人もいるからで、前者は「日本軍『慰安婦』の声』、後者は「『慰安婦』と日本軍規律に関する文書」をそれぞれ申請しています。
日本軍『慰安婦』の声』(Voices of the "Comfort Women"
【申請国・団体】 9つの国・地域の15団体
- 「日本軍『慰安婦』の声」共同登録国際院会(韓国、中国、台湾、日本、オランダ、フィリピン、インドネシア、ティモール)、英国
【賛同】 19団体・2個人
- 韓国、中国、台湾、オランダ、豪州、米国、日本(吉見義明氏)
【慰安婦定義】 慰安婦とは1931年から1945年にかけて日本軍のために強制的に性奴隷とされた婦女子を婉曲的に表す言葉。
【登録資料】 日本軍慰安婦制度に関する資料563点(米国公文書館アーカイブ含む)、慰安婦の資料1449点、慰安婦問題解決活動資料732点の計2744点
『慰安婦』と日本軍規律に関する文書(Documentation on ”Comfort Women" and Japanese Army Discipline)
【申請国・団体】 2カ国4団体
- 「日本再生研究会」(米国)
- 慰安婦の真実国民運動、メディア報道研究政策センター・なでしこアクション(日本)
【慰安婦定義】 「慰安婦」制度は1945年までの戦時中、日本軍向けの国の統制による合法的な売春の組織であり、「慰安婦」はその職にあった売春婦を婉曲的に表す言葉。
【登録資料】 米国公文書館アーカイブ、国立公文書館・防衛研究所文書、元日本軍属の証言集
韓国や中国が申請している資料の中には、慰安婦が作った押し花とか描いた絵なども含まれるそうで、番組によると、例によって“西早稲田”の団体によって管理されているそうです。(西早稲田のAVACOビルはこうした団体が数多く集まる牙城で、反日的・左翼的活動グループや活動家を指す言葉としても使われます。)
櫻LIVEによると、ブルガリア人で自身、共産党員、つまり、中国に対してシンパシー(共感)を持つことは容易に想像される人物です。
中国の先勝パレードにも出席し、習近平国家主席の家族と食事もしたとされています。
実は、中国は南京事件資料を申請した年には慰安婦資料も申請しており、この時は却下されたのですが、この時に中国に対し「次回は複数の国で申請するように」とアドバイスしていたため、今回仕切り直して申請したという経緯があるそうです。
これは国会の議事録を検索していて見つけたもので、参考までに追記します。
趣旨は、当時のNHK会長の発言を巡って、参考人招致を行ったものですが、この中で山田宏委員(当時は日本維新の会、現在は自由民主党)が、英語だから(?)と誤った情報を発信しているNHKに苦言を呈したものです。
第186回国会 予算委員会 第12号 平成26年2月20日
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/186/0018/18602200018012a.html
○山田(宏)委員 先ほど、籾井会長に対していろいろな質疑がありました。この放送法第四条というのは、番組の編成内容について介入した場合のことを言っているんですね。ですから、介入はされていないわけですから、放送法なんか違反していませんよ。しかし、やはり御発言はこれからよくお気をつけになられないといけない、こう思っております。
それよりも、この慰安婦の問題で問題なのは、NHKワールドという国際放送が二月の十二日に英語で放送しているんですよ、世界に対して。サウス コリア ウオンツ ユネスコ ツー レジスター コンフォート ウイメンと書いてあるわけです。これを放送していました。つまり、韓国は、ユネスコに対して、慰安婦のいろいろな資料を、無形資料というのか世界遺産というのか、そういったものに登録するようにやっていこうという、こういう報道です。(発言する者あり)記憶遺産か。
この放映の内容で、こういう文言があるんですね。メニー オブ ジ ウイメン ワー フォースト インツー プロスティテューション ツー サーブ ジャパニーズ ソルジャーズ デュアリング ワールド ウオー ツーとある。つまり、第二次世界大戦中に、多くの女性たちは、日本兵に対して売春婦として奉仕するために強制されたと。フォーストですから、強制されたんですよ。
これは事実じゃないんじゃないですか、今の発言でも。だめですよ、これこそ放送法違反じゃないですか。こういうことをちゃんと見るのがNHK会長ですよ。
これまで、女性何とか国際法廷とかいって、これは安倍総理も一時いろいろなことでありましたけれどもね。ここで、日本の天皇陛下が、この日本軍のやったことに対して、レイプだとか何とかということで、有罪だなんということを放映した、一方的な、本当に反日きわまりない、そういった報道をNHK自身が番組でやりました。こういうのが問題なんですよ。これはいろいろな意見があるじゃないですか。一方的な報道はだめですよ。
それから、今回の二月十二日の国際放送、これは許しがたいと思っていまして、もう決めつけているじゃないですか、NHKが。多くの女性たちが強制されて、売春婦にさせられて、日本軍に、兵隊に奉仕させたという。
これはどうお考えですか、こういう報道は。こういう報道こそ、NHK会長として、きちっと現場へただすべきじゃないですか。放送法違反ですよ、これは。どうですか。
念のため、片仮名で書かれている部分を英語で書くと、
Many of the women were forced into prostitution to serve Japanese soldiers during WWⅡ.
です。
ユネスコの記憶遺産 慰安婦問題の資料 登録は見送りの公算
10月27日 4時25分 NHKニュースより引用
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20171027/k10011199571000.html
ユネスコの記憶遺産の新たな登録を審査している専門家の委員会が、韓国や中国などの市民団体が申請した慰安婦問題に関する資料について、登録するかどうかの判断を見送ったことが関係者への取材でわかりました。今後はユネスコの事務局長が最終的な判断を行いますが、登録は見送られる公算が強くなっています。
ユネスコの記憶遺産は世界各地に伝わる貴重な古文書や映像などを人類の財産として保護する事業で、専門家が新たに申請された資料について登録の是非を審査する国際諮問委員会が、フランスのパリで開かれています。
委員会の関係者によりますと、26日、非公開の会議が開かれ韓国や中国などの市民団体が作るグループなどが申請した慰安婦問題に関する資料2件について、関係国の対話が必要だとして登録するかどうかの判断を見送ることで一致したということです。
記憶遺産をめぐっては、おととし日本と中国で見解が異なる南京事件をめぐる資料が登録されたことなどから、日本政府は事業が政治利用されているとして改善を求め、10月開かれたユネスコの執行委員会で、各国は事業を進めるにあたっては対話の原則に基づき、さらなる政治的な緊張を避けることで合意していました。
今後は、ユネスコのボコバ事務局長が登録の是非について判断することになりますが、専門家が判断を示さなかったことで慰安婦問題に関する資料の登録は、見送られる公算が強くなっています。

慰安婦問題 ユネスコが「世界の記憶」登録見送り
10月31日 5時33分 NHKニュースより引用
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20171031/k10011205141000.html
世界各地に伝わる古文書などを人類の財産として保護するユネスコの「世界の記憶」への登録を目指して、韓国や中国などの市民団体が申請していた慰安婦問題に関する資料について、ユネスコは関係国の対話が必要だとした専門家の委員会の勧告に従い登録を見送りました。
これはユネスコが30日、ホームページで発表しました。それによりますと、韓国や中国などの市民団体で作るグループなど2つの団体が申請した慰安婦問題に関する資料について、ユネスコのボコバ事務局長は、関係国の対話が必要だとした専門家の委員会の勧告に従い、登録を見送ったということです。
「世界の記憶」をめぐっては、おととし、日本と中国とで見解が異なる南京事件をめぐる資料が登録されたことなどから日本政府が改善を求め、ユネスコの執行委員会は今月、事業を進めるにあたっては対話の原則に基づき政治的な緊張を避けるという決議を採択していました。
一方、日本と韓国の民間団体が共同で申請した、江戸時代に朝鮮半島から派遣された外交使節団「朝鮮通信使」に関する歴史的な資料は登録が決まりました。
【歴史戦】ユネスコ記憶遺産、「日本政府が登録妨害」と慰安婦資料申請団体
2017.10.27 19:11更新 産経webより一部引用
http://www.sankei.com/life/news/171027/lif1710270033-n1.html
重要な歴史文書などを認定する国連教育科学文化機関(ユネスコ)の事業「世界の記憶(記憶遺産)」に慰安婦関連資料を登録申請していた日中韓などのグループの国内団体であるユネスコ記憶遺産共同登録日本委員会(事務局・東京←ブログ主註:“西早稲田”)は27日、「登録から除外されるとの報道に接した」としてコメントを発表した。
同委員会は「寝耳に水の報。ユネスコが(日本政府によるルール変更の)圧力に屈し、いまだ正式に公表さえされていないルールを適用して除外したとすれば、手続き上もきわめて異常な事態」などとしている。さらに「登録を妨害した日本政府こそ『正義、法の支配、人権及び基本的自由に対する普遍的な尊重を前進させる』ユネスコの目的に反し、逸脱した行為をしていると言わざるを得ない」と批判を展開した。
「記憶遺産」改め「世界の記憶」、外務省が日本語名称変更
2016年06月11日 読売オンラインより引用
http://www.yomiuri.co.jp/kyushu/culture/heritage/20160611-OYS1T50057.html
外務省は、国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の「世界記憶遺産」について、英語名の「Memory of the World」を直訳する「世界の記憶」との新名称の使用を始めた。記憶遺産を巡っては、中国や韓国での政治利用が問題視されており、権威のある世界遺産や無形文化遺産との混同防止を狙っている。
記憶遺産は、歴史的に価値の高い文書などの保存や活用を目的に1992年にユネスコが創設した。政府は2010年に日本ユネスコ国内委員会の小委員会で、「ユネスコ記憶遺産」と訳すことを了承した。だが、姫路城や富士山が登録された世界遺産や、歌舞伎や和食が登録された無形文化遺産の英語名には「遺産」を意味する「Heritage」が入っているのに対し、記憶遺産にはなかった。
世界記憶遺産を巡っては、昨年、中国が申請した「南京大虐殺の文書」が登録されたほか、今月には中韓などの市民団体が慰安婦問題の関連資料を申請したと発表するなど、政治的に利用する動きが続いている。
世界遺産や無形文化遺産は条約に基づいて政府が申請し、登録過程で関係国の政府が意見表明などをする機会がある。一方、記憶遺産は個人・団体でも申請が可能で、ユネスコ内部での議論で登録が事実上決まってしまう。このため、自民党からは、「世界遺産とレベルが違うものなのに、記憶遺産と訳すのはおかしい」との声が出ていた。
記憶遺産には、日本からは福岡県出身の絵師山本作兵衛による炭坑記録画やシベリア抑留・引き揚げに関する資料など計5件が登録されている。
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