【徴用工問題とはなにか?】1965年の日韓請求権・経済協力協定で解決済みと言えるほど単純ではない
公開: 2017/08/31 08:30 最終更新: 2018/10/31 7:11
先週(8月25日)にこの徴用工問題をBSフジ・プライムニュースで取り上げていました。テーマは『“徴用工”SHOCK 訴訟乱発…企業に激震』というものです。
徴用工に対する補償問題は1965年の『日韓請求権・経済協力協定』(※以下、単に『日韓請求権協定』と表現。詳細後述)で本来解決済みなのですが、2012年の大法院(日本で言う最高裁)で「個人の請求権は消滅していない」という判断が出たのをきっかけに、裁判を起こす例が増え、日本では棄却されるのですが、韓国国内では賠償命令が出されています。
現在、大法院で係争中となっているケースがいくつかあり、出演者の浅羽祐樹・新潟県立大学教授によると、近い将来執行される可能性が極めて高いとのことです。
ここ数週間の文在寅大統領の発言の“揺れ”もその危うさを示していますが、なぜ、このようなことが起こるのか、ということを番組では掘り下げていました。
メモを取りながら観たので、覚書として記事にしておくことにします。
出演者
最近の徴用工問題を巡る動き・文在寅大統領の発言
8月12日(土) ソウル中心部の竜山駅前に徴用工像(日本統治下で徴用された朝鮮半島出身者を象徴する像)が設置され、除幕式が行われる。
8月15日(火) 文在寅大統領が日本の植民地支配からの解放を記念する「光復節」で『徴用工の名誉回復と補償に対して日本政府の対応を求める』発言。
8月17日(木) 文大統領、就任100日の記者会見で、『日韓請求権・経済協力協定』(※後述)があっても、徴用工の「個人請求権」(民事的な権利)は消滅していない』と言う発言。
8月25日(金) 安倍首相が文大統領と電話で会議。『徴用工問題は「解決済み」』と17日の発言を修正。
と、一見、発言を修正したことで収まったかのようにも見えます。
しかし、日本から見れば『日韓請求権協定』やその他の合意事項によって、常識的に考えれば議論の余地のない話なのですが、17日の発言『徴用工の「個人請求権」は消滅していない』が出てくる韓国側の根拠はあるのです。
(「根拠」と言っても、あくまでも韓国国内ではこういう論理という意味で、ブログ主が支持しているわけではありません。)
まずは、その原因となった『三菱広島・元徴用工訴訟』についてまとめます。
三菱広島・元徴用工訴訟とは
訴訟内容は下記の通り。
図-1
これは、まず日本で訴訟を起こしたが棄却されたので韓国であらためて裁判を起こしたものですが、2009年に釜山高裁で棄却したものを2012年に大法院が差し戻しをしています。そして、釜山高裁で原告勝訴の判決が出ました。
図-2
現状、この裁判は止まっていますが、浅羽教授によると、執行してしまうと外交的に甚大な影響を与えるとの判断からだそうで、一説には、朴槿恵(パククネ)大統領が働きかけたという話も囁かれているとのこと。
【2018/09/10追記】朴政権が働きかけたことは西岡力氏も証言していました。また、この審理は2018/8/23に再開されました。
【2018/10/31追記】10/30、韓国大法院で上告を棄却(日本企業の賠償を求める判決)。
下の記事は釜山高裁の判決を報じたもの。
三菱重工に賠償命令 韓国の戦時徴用工の遺族らに (産経web 2016.8.25 12:46更新 )
〔以下引用〕
【ソウル=名村隆寛】太平洋戦争中に朝鮮半島から徴用された韓国人14人の遺族らが、三菱重工業で苛酷な労働を強いられたなどとして、同社に損害賠償を求めた訴訟の判決で、ソウル中央地裁は25日、同社に1人当たり9000万ウォン(約800万円)の支払いを命じた。
この韓国人らは1944年に徴用され、三菱重工の軍需工場(広島市)で働いていたが、45年8月の米軍による原爆投下で被爆。朝鮮半島に戻った後も健康被害に苦しんだという。遺族らは2013年に1人当たり約1億ウォン(約890万円)の損害賠償を求め、提訴していた。
日本企業を相手取っての訴訟をめぐっては、同地裁が今月、新日鉄住金に対し、前身の旧日本製鉄で労働を強いられたという韓国人男性の遺族らに計約1億ウォンの支払いを命じる判決を言い渡している。
詳しい説明は後述することにして、2012年の大法院(最高裁)での判断をまとめたパネルを提示すると下図の通りです。
個々人が日本企業を訴える権利はあるとの判断なので、釜山高裁の判決は認められ、つまり、日本企業が敗訴となる可能性が高いとのことです。
そうなると、他の裁判も同様の判決が出ることになり、執行されると資産の差し押さえ等が実行されるので、日本企業は「和解」するなり、あるいは、日本側が第三者の法的機関に提訴して判断を仰ぐなりする必要が出てくるということを出演者の浅羽教授が指摘していました。
そして、これを看過すると、1965年の日韓請求権協定を根本から覆される危険性も孕んでいることになります。
この話の前に、まずは日本側のスタンスを確認しておきます。
国家間の賠償問題は『日韓請求権協定』以外にも2つの“ファイアウォール”がかかっている
まず、『日韓請求権協定』(①)以外に、日本国内の法律として、『財産権措置法』(②)を制定しています。これが2つめのファイアウォール。
また、出演者の白真勲氏(民進党参議院議員、元朝鮮日報日本支社長)によると、日韓請求権協定の協議の過程で韓国側から出された「対日請求要綱」(8項目)の5項目目に徴用工の未収金に関する請求が書かれていますが、「日韓基本条約」に伴い二国の『合意議事録』(上図③)を発表しており、その中の第2項に、
日本国債、公債、日本銀行券、被徴用韓人(=徴用工のこと)の未収金が『5億円』の中に含まれている。
といった内容が明記されているそうです。
つまり、日本も韓国も1965年に協定を結ぶときには徴用工の問題も話題になっていたので、5億円の経済支援金には、責任もって徴用工に対して支払う金額も含まれているということを韓国側も了解しているのです。(この2つ目のファイアウォールについては別途記事にまとめました。)
更に、白氏によると、2005年8月26日の『韓日会談文書公開フォローアップ関連管理共同委員会』(④)において、
受領した“無償3億ドル”は、個人財産権、朝鮮総督府の対日債権との韓国政府・国家としての請求権、強制動員被害補償問題解決の性格の資金について、包括的に勘案されているとみなさなければならない。
と韓国側は認めているそうです。
政府は3億ドルの無償資金の内、相当金額を強制動員被害者(=徴用工)の救済に使わなければならない道義的な責任があると判断していわけで、これが3つめのファイアウォールです。
更に出演者の浅羽祐樹・新潟県立大学教授が補足して説明したが下記のの内容です。
- 日本側は徴用工に対し個別に支払う意向があると申し出たが、韓国側が一括して受け取って、後は国内で、韓国政府の責任で対応するとした。
- その証拠として、何に使ったかという白書も出している。(請求権資金白書-下図参照)
ですから、日本国内で訴訟を起こしても棄却されるのは当然です。
韓国国内の考え方
浅羽教授によると、1965年の協定に基づいて韓国が受領した金から支払うべき保証金は故人の元徴用工にしか支給されなかったそうで、従って、「当時の生存者は措置されていない」という主張なのだそうです。
それでは、元徴用工に支払われなかった金は何に使われたのかというと、下の①-1にあるように、当時の朴正煕(パクチョンヒ)政権が道路やダムなど、経済発展のために使ってしまいました。この時の発展が後に『漢江(はんがん)の奇跡』と呼ばれます。(丸番号は上の図と合わせてあります。)
もう一つ、韓国側、とりわけ韓国司法がこの徴用工問題に際して持ち出すのは、日本側が『財産権措置法』(②)を制定したことだそうです。
韓国左派の言い分は「今、日本が『請求権協定』で請求権が直ちに消滅したと言うが、それなら国内法は必要ないじゃないか」という論理で、「制定したということは日本側も、請求権協定では消滅していないという理解だったはずだ」という理論展開をするときにこの法律が引用されるのだそうです。
2005年の盧武鉉(ノムヒョン)政権下で行われた「官民共同委員会」(④)も、韓国の運動家が、(日本の法律では勝てないので)韓国国内の“解釈”を変えさせようと行政訴訟を起こした結果設けられたものですが、この時に元慰安婦や原爆被害者、サハリン残留韓国人の請求権は失われていないと判断されました。但し、ここでは元徴用工は除外されています。
そして、前述のように、最も大きな根拠は2012年の最高裁(大法院)の判決(⑤’)です。
長くなるので、次回『政権が変わると建国記念日がコロコロ変わる国、韓国』に続きます。
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