【書籍】『一命』(異聞浪人記/滝口康彦著-映画『切腹』、『一命』原作)読了
先日、BSプレミアムシネマで仲代達矢主演の『切腹』(1962年松竹/小林正樹監督)を観たことがきっかけで、その原作『異聞浪人記』が収録されている『一命』を読んだ。映画があまりにも傑作だったからである。
著者は滝口康彦(1924-2004)。
書名の『一命』は、2011年に市川海老蔵主演でリメイクされた映画のタイトルなので、映画に合わせて再編、出版されたのであろう。
この本は他の短編集からの再収録で、三船敏郎主演の『上意討ち 拝領妻始末』(1967年東宝/小林正樹監督)の原作『拝領妻始末』も収められている。
著者に関する評を読むと、作品のテーマは「武家社会の欺瞞」、「士道批判」と言った言葉で語られ、それが根底にあるのは確かだが、女性が主人公、あるいは重要な脇役の作品も面白い。特に『上意討ち心得』は、タイトルからは想像がつかなかった意外な“オチ”が待っている。
度々映像化されている著名な作品が含まれていることもあり、時代小説を拒絶しない人にはおすすめの一冊。ただ、この本を読んだ後に残るのは「やるせなさ」なので、体調のいいときに読んだ方がいいかも知れない。
もう少し、映画化された二作品について書いておこうと思う。
まず、『異聞浪人記』だが、徳川の世になり、敗軍の将が没落したことによって大量に現れた食い詰め浪人の間に流行った奇妙な風習を題材にしている。
大名家に行って、庭先で腹を切りたいと申し出ることだ。元は、心意気を買われて仕官できた浪人がいたことで広まったが、面倒を避けたい大名家が金子を与えて追い払うようになったのに味を占めて、最初から金目当てに切腹をしたいと押しかける浪人が増えた。
主人公、津雲半四郎の娘婿であり父親を亡くしてから後見人となっていた千々岩求女も生活に困窮して“狂言切腹”をしようとした。しかし、思いがけず、本当に腹を切る羽目になってしまった。これ自体は自業自得だが、そこに至る過程で散々“おもちゃ”にされた。
その時の義理の息子の心情や、そこまでして娘の家庭を守ろうとした息子に何もしてやれなかった言う自責の念から半四郎が復讐を企てるというストーリー。
原作も良いのだが、『切腹』は原作を超えた映画という好例。観客にカタルシスを与えつつ、再び突き落とすという二重構造のラスト、俳優陣の演技も素晴らしく、武満徹の音楽も効果的。
なお、本書に収められている『高柳父子』のラストは映画『切腹』に通じるものがあり、この作品も切腹が題材になっている。
次に、映画『上意討ち 拝領妻始末』の原作『拝領妻始末』だが、武家社会に翻弄される女性の悲劇を描いた作品。映画は観ていないが、ストーリーを読むと、原作になく、付け加えた部分がタイトルの違いになっているようだ。
嫡子を設けながら、殿の心変わりにより、臣下の笹原家に嫁として下げ渡されるお市。すなわち拝領女房というわけだが、子供も設け、その生活に幸せを見いだしたのもつかの間、主家の勝手な都合で、再び家族から引き離されてしまう。
こう書くと、ただただ悲劇の女性だが、それ故、道具のように扱われながらも信念を貫き通す強い女性の一面が浮かび上がる。
映画を観ていないので批評(レビュー)はできないが、(三船敏郎主演ならしかたがないが、)単純に物語としてどちらが良いかというと、原作の方が味わい深いのではないかと思う。
お市の過酷な人生に比べたらごくごくわずかだが、著者は原作のラスト数行に一縷の「救い」を暗示させている。
ブログ主は集中力が続かないので、映画館で映画はあまり観ないのだけれど、BSプレミアムシネマは録画して見ることもできるし、また、ここでなければ観られない作品が観られて面白い。 例えばこんな映画。(↓)
いわゆる“名画”ではありませんが、パワーがあった頃の日本映画の一例。
市川雷蔵、若尾文子といった美男美女が楽しそうにタヌキの役をやっています。ミュージカル時代劇というのだそうですが、舞踊あり、歌ありお色気あり。オペレッタってやつですね。(放映:5月28日(木)午後1:00〜2:25)
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